227:マジ、護衛クエ【1】を完了させる。
「マフトと申します。先住民の村までの護衛、よろしくお願いします」
メンバーが揃ったとボーデンさんに報告すると、すぐさま組合員がやってきて護衛スタートに。
二十代後半ぐらい。ひょろっとした感じのメガネの男だ。
テレポ持ちっていうが、少しでも移動距離を縮めたいところ。
「マフトさん、開拓民の村は行った事がありますか? 大賢者が住む村なんですけど」
「――はい。農作物の取引などで行った事がございますので」
よっしゃ!
だったらそこまでテレポして、移動時間を短縮しようと提案するとアッサリokが出た。
俺たちはパーティーで、マフトさんは自身のテレポで移動。
「彗星殿、賢いでござるな」
「なるほど。NPCも『テレポート』、持ち、ね」
「じゃあ、もぉっと近くまで、テレポ出来ちゃったりしませんかねぇ?」
と言うココネさん。
「ふむ。商人であれば鉱山で採れる鉱石を買い取りに、あの辺りまで出向くのではないか?」
「セーフティーゾーンにはNPCの商人も居るです。マフトさんが行った事あっても、不思議ではないですね」
セシリアとメェさんの言う通り、テレポ持ちのNPCならお使いに出されていそうだ。
いや、そういう設定でなくても、『そういう設定』にさせてしまえばいいんだ。
俺たちは一斉にマフトさんを見る。
そして取り囲んで――
「マフトさん、鉱山に行った事、ありますよね?」
そう決めつけてにじり寄った。
「ってことで、ここから少し南下した場所から東に進むんだ」
「ガッソ、に、行くルートね」
「そそ」
モンスター仕様の巨大花が咲き誇る花畑で、昆虫型オンスターをやり過ごし、森に入ってひたすら東を目指す。
NPCのマフトさんも実は戦闘能力があって――めっちゃ強かった!
なんて事は無かった。
俺たちがモンスターと交戦すると、彼はじっと動かず何もしない。
襲われないのかと思えば、きっちりモンスターに襲われもする。
しかも、襲われてるのに逃げようとしない。その場でただひたすらじっとしているだけだ。
「あの……せめて助けを求めるとか、しませんかね?」
戦闘が終わって振り向いたら、マフトさんが襲われているなんてざらだ。
叫び声一つ上げないから、気づくのが遅れるんだよ!
これ絶対、彼が死んだらクエスト失敗コースだろ?
ダメじゃん。
シンキングタイムのあと、彼は分かりましたと返事して再び歩き出す。
前方からコボルトがポップすると――
「ぎゃああぁぁぁぁっ、助けてくださぁぁぁぁい!」
「うわぁぁっ」
「な、何事でござるかっ」
「ふえぇっ」
突然マフトさんが叫び始めた。
ずっと叫んでる。
まだ叫んでる。
「おい! 戦闘が終わるまで叫び続ける気かっ」
「融通の利かないNPCみたいです」
「ふえぇ、戦い難いよぉ」
「ぎゃああぁぁぁぁぁっ、助けてくださぁぁぁぁぁい!」
いっそ放置していこうか……とも思えるほど、五月蠅い。
「マフトさん、あんた自身が襲われた時だけでいいから」
「彗星殿、言葉足らずではまた叫び続けるでござるよ。マフト殿、モンスターから攻撃を受けたら、我々を呼んで欲しいでござる。助けが来たらその時点で黙って貰って結構でござるよ」
〔ぷっぷぷ〕
霧隠さんが丁寧に説明すると、ややシンキングしてから笑顔で頷いた。
彼が襲われそうな時にはぷぅも知らせてくれると言うので、まぁなんとかなるだろう。
こうして落ち着いて戦闘に専念できるようになり、森から荒れ地へ、そして壁に挟まれた狭い坂道を下って――あ、そういやこの先、村人と出くわして自動移動だったんだけど、村までどうやって行こう。
なんて不安にもなったが、坂道を下ってしまうと村が目視できる距離にあった。
「あの村ですか?」
「あぁ。(たぶん)そうだ」
ドヤ顔で言いつつも、内心ちょっぴり不安な俺。
だが到着してしまえば、そこが見覚えのある村で安堵した。
村の入口では見覚えのある村人が槍を構えて立っていたが、俺を見るなりお辞儀をして出迎えてくれる。
「英雄殿、またお越しくださったのですね」
「今日はお仲間もご一緒ですか?」
「そ、そうなんだ。それで、村長に会いたいんだが」
「村長でしたら自宅にいらっしゃるかと」
「どうぞ、お入りください」
ダークエルフ四人、獣人一人、ハーフエルフ一人、そして人間のNPC一人。
怪しまれることなくすんなりと村に入ることが出来た。
ここに夢乃さんが居たらどうなっただろう……クエストをやり直す事も出来ないし、結果は分からない。
一つだけ分かるとすれば、きっと新作衣装デザイン云々で弄り倒されていただろうなってこと。
村長宅へと向かいながら、マフトさんが無事に到着出来て良かったと話す。
まったくだ。
NPCの護衛クエといったら、引っ越しクエを思い出す。
雑魚がわんさか出てくるし、パーティー人数少なかったのもあって苦労したもんだ。
そうかと思えば後半はファリスとアイリスの二人のNPCが参加して、無双状態だったし。
そしてクエストボスモンスター……。
他パーティーと被ってしまたせいで三体になるわ、ファリスたちのせいで別のボスが登場するわ……さんざんだったな。
その事を考えたら、今回の護衛はなんと楽だったことか。
「道中のコボルトなんかも、ソロで来た時は苦労したんだよな」
「確かにレベル的にはソロだと厳しそうでごったな。彗星殿はよくあんな道を一人で来たでござるなぁ」
「あぁ、いや。途中でイレギュラーなNPCに助けてもらったんで」
「マジックさんって、NPCさんのお友達多いですよねぇ」
友達……いやまぁ友達っぽいのもいるけど、そうじゃない方が多いから。
でも確かにNPCとの絡みは多いな。
「彗星殿は勇者の称号を持っているのでござろう?」
「え、ああ。ピリカをオープニングイベントで助けてるから、持ってるよ」
「その称号、持ってる人、NPCの好感度上がりやすいって、聞きます」
「うむ。もちろん、何もしなければ好感度も何も上がらぬでござるが――」
称号を持っているだけで好感度が自動上昇する訳ではないらしいな。
霧隠さんが情報系サイトで見たのは、称号持ちがNPCに話しかけたりすると、それだけで好感度が上がるらしい。
更に受け答え方で好印象を与えた場合、称号無しのプレイヤーが10ポントの好感度を得られたら、まったく同じ受け答えで称号持ちは倍近くのポイントを得る――こんな仕組みになっているんじゃないかという事だ。
そういや俺、割とNPCに話しかけてる方かも?
到着した村長宅にマフトさんを案内し終えると、護衛クエスト完了のメッセージが流れた。
【クエスト【商人組合員マフトの護衛1】を完了しました】
ん、護衛1?
次の瞬間何か出た気がするが、俺が動いてしまったため確認する前に消えてしまった。
「皆の衆、気を付けるでござるよ」
「え? 霧隠さん、どうしたんだ?」
「です、ね」
「今のうちに、バフっておきますねぇ」
え? え? どういう事?
何故か突然、全員があわただしく戦闘準備に取り掛かっている。
ぽんこつ娘のセシリアまで。
いったいぜんたい、どういう事?
「なぁ、分かるようにせつめ――」
説明してくれ――そう尋ねようとしたとき、足元を揺らず地響きが鳴り響いた。




