225:マジ、橋渡し役になる。
「という訳なんです。ところでこの事は――」
「えぇ。自警団や町長周辺の者には内緒にしておきますよ」
ファクトの商人組合長のボーデンさんの所へとやって来た俺。
まずは大量の素材の処分に困っている村があると話をすると、ボーデンさんは目の色を変えて食いついた。
その村は食う物に困っていると話せば、素材と物々交換で食べ物を提供する――と。
食べ物に関しては土壌改良が成功すれば野菜の栽培には困らなくなるはず。
そう話せば、ではたんぱく源こと家畜の提供を。
もちろん金銭でもまったく問題ないと、なんとかして取引がしたい! というのがひしひしと伝わって来た。
で、その村が実は先住民のと話せば、驚きはしたが取引に関しては継続の意思を示した。
「いやぁ、私もですね、実は彼らと接触したいとは思っていたんですよ」
「え? 先住民と?」
ボーデンさんは頷く。
「ガッソの町では数年前に、先住民と揉めたことがありましてね。それで悪く言う者も多いのですが」
そういえば先住民が狂暴だなんだのって、隠れ里の連中とガッソの町で情報が流れてたんだっけか。
「彼らはもともとこの大陸に住んでいた訳ですから、我々の知らない貴重な素材や資源を知っていると思うんですよ」
出来る事なら先住民と取引したいと思っていた、と。
更に現物だけではなく、情報も買いたいのだと話す。
「情報は大事です。地理的なものでも、どこにどんな資源があるという内容でも。我々はこの大陸の事はまだあまり知らないのです。知らない事であれば、それが全て情報になりますからね」
なるほど。
ウィキでも技能の情報を売買するようなカキコミがあるもんな。
リアルでもそうなんだ。ゲーム内でも情報の売り買いがあってもおかしくはない。
「先住民の方々が我々と円滑な取引を行っているとなれば、町長たちも安易に手出しをしなくなるでしょう」
「けど、先日の襲撃の件もあるし……」
「それなら大丈夫ですよ」
え、そうなのか?
「そもそも町を襲ったのは、大陸の南側にある邪心教徒の都の者たちですから。テイマーを使って揺動し、その隙に近くの先住民の村人に町へと侵入させて――という作戦だったようですが、彼らは町には潜入しませんでした」
まぁモンスター軍団が壊滅したからなぁ。
壊滅すれば撤退する。
そうディオも話していたし。
「テイマーたちは『奴らが裏切らなければ』と話したようです」
あぁ。襲撃者側の判断としては、裏切られたって事になってたのか。
いやでもディオたちは開拓村を――
その話をボーデンさんにすると、きょとんとした顔で考え込んでしまった。
シンキングタイムではないようだ。
「はて? 当日、開拓村近くの森で火事があったとは聞きましたが。村が襲われたという話は聞きませんねぇ」
「え、でも……家屋が壊されたりとかは?」
「あぁ。町の防衛に起こしになった大賢者が、村の方角から立ち上る煙を見て、慌ててベヒモスで駆け付けたものだから、若干村が破壊されてしまったとかなんとか。いやぁ、あの方、故郷の大陸でもやらかしたことがありますしねぇ」
なにをやらかしたんだ大賢者!?
っていうか、そういう事になってんだ?
もしかして大賢者がディオたちの事を、内緒にしてくれているとか?
「まずは取引の内容をここにしたためておきました。どうか彗星さん、この手紙をその村の村長にお渡しください」
……いつ書いた?
まずは晩飯の為にログアウトして、再びログインした俺は――
「って事になったんだ」
ファクトに居たシースターに経緯を話した。
頼みたい事もあったからだ。
「マジックってさ……このゲームのジャンル、知ってる?」
「ジャンルって?」
「……エムエムオーアールピージー」
「あぁ、そういう事な。知ってるさ。RPGだってことはな……」
答えてはっとなる。
俺がやってる事って、まるでシミュレーション?
しかも町を造ったり農場を造ったりな。
「まぁ面白そうな話ではあるけどね」
「だ、だろ? でさ、シースター」
シースターに頼みたい事。
俺には出来ない事だ。
「調合持ちの知り合い、いっぱいいるだろ?」
「骨粉を作ってくれってことだね」
「おぅ。で、依頼料なんだけど――」
「いらないと思うよ」
いらない?
「調合すれば経験値が入るんだしね。喜んで引き受けてくれる人もいるさ」
「なる。じゃあ俺は頑張って骨をゲットしてくるよ」
「ある程度まとまった数が集まったら連絡してね」
「オケ」
ってことで次はディオたちの村だ。
まずは風邪薬を渡して、素材貰ってぇ。あぁ、素材の中に骨あったよな。それも粉用にするか。
テレポっていいなぁ。
一度行ったエリアならヒュンッだ。
「ディオ。薬、貰ってきたぞっ」
そう言ってディオの家の戸をノックすると、すぐに反応が返って来た。
「マジック。まさか本当に薬を?」
「あぁ。他にも土地を豊かにする方法も聞いて――聞き出してきたぜ」
「え……本当か!?」
まずはティナちゃんに薬を飲ませ、それから落ち着いて土壌改良の説明をする。
「そ、そんな方法で開拓民は、あんな緑豊かな大地を手に入れたのか」
「素材の山の中にも骨があっただろ? あれを粉にして土に撒けばいいだけだ。一度でダメでも、何度かやれば作物が育つようになるらしいぞ」
「そうか! ならさっそくっ」
そう言ってディオは家を飛び出していく。
俺も後を追うと、素材山でディオはひときわ大きな骨をどこかに運ぼうとしていた。
いや待て。
それ絶対レア素材だろ!!
「ディオ、早まるなぁぁっ」
なんであんなデカの持って、あんな高速移動が出来るんだよ。
あっという間に、どこか工房っぽい屋根付きの場所へと到着したディオは、同じ村人に骨を渡し――骨消えたし!?
ま、まさかっ。
「マジック。骨粉十個手に入れたぞっ」
「あぁぁぁぁ。レア素材だったろさっきのぉぉ」
「あぁ。レアだったぞ。おかげで十個手に入れられた。さっそく撒いてみよう」
な、なんてこった。
こいつには素材の価値ってものが分かってないらしい。
ノーマルな骨に限定しろって、英雄としてしっかり言い聞かせないとな。
とほほ。
「マジック。骨粉十個撒いてみたが、雑草すら生えないぞ。奴ら、嘘を教えたんじゃ!?」
「え?」
ディオが指さす地面は、何の変化もない赤茶けた土だ。
トリトンさんが言ってたな。水やりも必要だって。
「ウンディーネさんやぁい」
〔ぷくぅん〕
ざばぁっと現れたウンディーネは、すぐに水を撒き始めた。
うん。出来る子だ。
だが何も生えてこない。
「水だけじゃダメなのか?」
「やはり嘘の情報を――」
おぉい、なんかディオ、武器持って西の方を睨んでるんですけど。
「ま、待て待て。そう早まるなって」
〔ぷっくぷくぅ〕
「え? ここの荒れ地は筋金入り?」
こくんと頷くウンディーネは、ノームの方が詳しいからチェンジしてくれと言う。
じゃあまぁ……
「ノーム」
〔のっ!〕
地面から飛び出したノームに事情を説明し、この荒れ地を改良するのに骨粉が何個必要なのか尋ねてみる。
ノームは土を弄ったり食べたり――え? 食べる!?
「ノ、ノーム。腹壊さないのか?」
〔の! のののーむ〕
あ、そうか。こいつ、土の精霊なんだった。
どうもミニチュアドワーフと勘違いしてしまう。
「マ、マジック。どうだ?」
「ちょっと待ってくれ。ノームさんや、分かったか?」
〔の! のーむののむっむ〕
……え……あと九十個?
しかも一メートル四方につき?
〔のっむのむのーむ〕
しかも土、水、風の精霊力が必要なぐらい、最悪な土――だそうだ。
一メートル四方につき、百個の骨粉が必要だってのか……。
おぉう。
当分の間、海賊ダンジョンに引きこもりだな。




