224:マジ、女泣かせ。
骨をすり鉢で粉末にした物――骨粉。
それを大地に撒く……らしいんだが。
それって散骨じゃあありませんかね?
え、人骨を撒くの?
「あはは。さすがに人の骨を使う訳ではありませんよ。モンスターからのドロップにある骨ですから」
「あ、あぁ、そうなんですか」
ちょっと安心。
「例えばスケルトンとか」
「それ思いっきり人骨ですからあぁぁっ」
「いや、モンスターですよ」
確かにモンスターだけどさぁ。
「でも特に効果があるのは、魚類系モンスターの骨なんですよ」
「あ、それなら抵抗なくていいや。トリトンさん、もっと詳しく」
詳しくといっても、この構造は簡単なものだった。
トリトンさんの話だと、調合技能を使って骨を粉にし、それを地面に撒く。
それだけだ。
「土地によっては一度の散布では作物が育たない場合もありますが、その場合は二度三度と繰り返し、水やりなども欠かさなければ大抵は土壌改良も出来ますよ」
「物量作戦でどうにかなるってことか」
「そうですね。ただ……」
た、ただ?
「最悪な場合、その他の自然現象が加わらなければどうにもならない。そんな土地もあります」
自然現象?
随分とアバウトな表現だな。具体的にどんなことなのか分かればいいんだが。
うぅん。じゃあまだ次の質問だ。
「ところでトリトンさんは、その……ピリカの友達百人計画はご存知ですかね?」
「えぇ。マジックさんは先住民との共存を望んでいらっしゃるのでしょう?」
「そこまで分かってくれてるなら話は早い」
先住民側の問題は、ぶっちゃけると食い物の問題が無くなれば解決する案件なんだよな。
でも、さっきのファリスとアイリスの話からすると、問題は開拓民側にもありそうだっていう。
まぁ実際にはこっちが侵略者側だからなぁ。
開拓民と先住民とを歩み寄らされるか。
「そうですねぇ……――」
「おぅ、シンキングタイム発動か。今度は何分掛かるんだろうな……はぁ、早く終わらせて素材漁りに行きたいのになぁ」
「――素材ですか」
お、反応した。
「素材とはなんですか?」
「あ、ああ。実は――」
先住民の村で見つけた素材の山の事を話すと、トリトンさん本日三回目のシンキングタイムに突入。
「その話、ファクトの商人組合に話してみては?」
「商人組合?」
風邪薬はダークエルフの集落で手に入る――と聞き、まずはそっちに向かう事にした。
風邪薬を貰うぐらいだ。すぐに終わるだろう。
――と思ったんだけどなぁ。
「マジックさんは元気ですの」
「あ、あぁ。元気だよ」
「じゃあ風邪薬なんて、どうして必要ですの?」
「どうしてって、とある女の子が風邪で苦しんでいてだな……」
「おんな……ですの?」
お、おおぅ?
な、なんか『ごごごご』っていう効果音が似合いそうな感じで、ブリュンヒルデの目が光ってるんですけど。
「どこの女ですの!?」
「い、いや、どこのっていうか……その」
こ、ここは言っちゃってもいいんだろうか。
いや、言うべきだよな。
「友達の妹なんだ!」
「お友達の?」
あ、『ごごごご』度が少し減った。
「でも女ですの!!」
と思ったら復活した!
「いや、性別の事で言えば確かに女だけど、で、でもなぁ」
ごごごごっと迫り来るブリュンヒルデ。そもそも何故彼女は怒っているのか。
もしかしたら性別によって薬の配合が変わるとか、そんなとんでも設定なのか?
だとしたら正確に情報を伝えないとな!
「ブリュンヒルデ。友達の妹ってのは、七、八歳の少女なんだ。あまり栄養状態も良くないようで、痩せ細っててな。た、体重とかでも薬の量って変わるんだよな?」
「――七、八歳?」
「そう。大賢者の孫のピリカより少しだけお姉さんかなってぐらいの」
「大賢者の、お孫さん……」
お、ブリュンヒルデのごごごごが終わった。
やっぱりか。
やっぱり正確な情報を伝えてないせいで怒ってたみたいだな。
「ブリュンヒルデ、悪かったよ。最初からそう伝えるべきだったな」
苦笑いを浮かべて謝罪すると、視界の隅でキラキラエフェクトが映る。
どんなタイミングだろうと、笑えば光るどうでもいい『アイドル』効果。
現実のアイドルも、いろいろと苦労してんだろうな。
あ、現実のアイドルは光ったりしないか。っはは。
「そ、そうだったんですの。子供だったですのね」
「そう。子供。今の情報で風邪薬を作れるか?」
ブリュンヒルデの顔を覗き込んで尋ねると、彼女は一瞬ビクっとし、そして満面の笑みを浮かべた。
「はいですの。出来るですのよ」
「よかった。助かるよブリュンヒルデ」
「ふふふ。でもマジックさんは優しいですの」
そう言いながら彼女はてきぱきとどこから出したのか分からない道具をテーブルに並べ、更にどこから出したか分からない草をすり鉢に入れて摺り潰し始めた。
「お友達の妹さんが風邪だからって、わざわざ薬を取りにくるなんて。普通は家族の方が薬剤師さんから買ったりするですよね」
「あ……それはその……く、薬代は俺がちゃんと払うからっ」
薬剤師、居るんじゃないか!
トリトンさん、そういう情報はちゃんと教えて欲しかったなぁ。
「お金は要らないですの。でもどうしてマジックさんなんですの?」
いやまぁ何故って……。
ディオはこっちの方には来れないし、向こうにはどう考えても医者とか薬屋とか無さそうだし。
「ブリュンヒルデはさ……食べる物に困った事って、あるか?」
俺は無い。
あ、たまに昼飯何も用意されてなくって、財布にもお金がまったく入ってない――なんてことはある。
その時は米を炊いて、塩おにぎり(おにぎり型使用)で我慢するんだけどな。
「私は――あまり無いですの。ここでの暮らしは、そりゃあ以前は貧乏で家も着る服もボロだたですが、食べる事に関しては自給自足が出来ていたですから」
「だよな。あ、そういや家の修理、だいぶん進んだんだな」
服が少しまともになったなって時期でも、まだこの家は隙間だらけだったな。
でも改めて見てみると、隙間も綺麗に埋まってるし、寧ろ外壁板全部交換した? ってぐらい立派になっている。
「はいですの。村の何人かに『大工』技能を習得させて、大規模修理をしたですの」
「木工技能だけじゃだめなのか?」
「簡単な修理は出来るですのよ。でも家をしっかり修理するとなると、大工のほうがやっぱりいいですの」
「そうか。じゃあ俺も『大工』技能を習得するかなぁ」
「どこかで家を造るですの? それともどこかの家の修理?」
首を傾げるブリュンヒルデに、俺はディオたちの村の現状を話した。
話を聞きながら、段々と彼女の表情が変わっていくのが分かる。
「うぅ、かわいそうですのぉ。ティナちゃん、かわいそうですのぉ。食べるものも少なく、家もボロボロだったですのねぇ」
「あ、ああ。そりゃもうボロさ具合といったら、俺が初めてここに来た時のお前の家の比じゃなかったよ」
「私の家よりもボロ!? かわいそうですのぉ」
ブリュンヒルデって、案外涙もろいんだな。
目を真っ赤にして泣く彼女は、突然バンっと立ち上がって拳を天井に突き上げた。
「任せるですのマジックさん! マジックさんに恩を受けた私たちが、今度は彼らにしてあげるですの!」
「え、受けた恩を?」
「はいですの! ふっふっふ。ダークエルフ族の力で、その村を緑豊かな大自然広がる土地にして見せるですの!!」
おぉ、なんと心強い!
けど、ダークエルフの力で緑豊かなってのが、なんとも不似合いな言葉だなぁと思いました。
朝更新するの忘れていたですの!




