223:マジ、アップデートの前倒しをする。
「トリトンさん、居ますか!」
開拓村へとテレポした俺は、そのまま大賢者宅へと直行した。
残念ながらレジェンド素地はゴミ山になく、だがレア素材なら見つかった。
あとでゆっくり吟味して、いくつか貰っていこう。
そんな事を思いながらやってきた大賢者宅で、出てきたトリトンさんにさっそく尋ねてみる。
「どうかしましたか、マジックさん」
「トリトンさん、教えて欲しいんです。移住してきた開拓民の人たちは、どうやって土地を豊かにしたのか」
港町周辺も、もとは荒れ地だったとディオに聞いた。
それをどうやって草原にしたのか。
学者であるトリトンさんなら知っているんじゃないか?
あと風邪薬の事とか。
俺の読みは……当たってる?
それとも外れてる?
その答えはなかなか出ない。
トリトンさん、シンキングタイムが発動したまま動かないんですけど?
某所某都会のビルの一室――
「チーフ。AIシステムが実装待ちデータの開放許可を求めていますが、どうしますか?」
日々進化するAIは、プレイヤーの行動によってシステムそのものを変化させていく。
だがそのシステムは人の手で作られた物であり、その他実装待ちデータももちろん人の手によって作られたものである。
実装待ちデータとは、後のアップデート等で実装予定の、既に完成はしているものの出番待ちのデータの事だ。
呼ばれたチーフは自身のデスクに座ったまま応える。
彼は現在開発中の新エリア、新システムを上役にプレゼン紹介するための原稿を作っていた。
「どのデータだ?」
「はい。マイホームシステム内の、農場システムなんですが。農場そのものではなく、農場を作る過程のシステムでして」
チーフはキーボードを叩く手を止め、報告のあったスタッフに視線を向ける。
「農場を作る過程?」
ここがゲーム内であれば、チーフの頭上にはきっとクエスチョンマークが浮かんでいる事だろう。
尚『Imagination Fantasia Online』ではエモーションは未実装であったりする。
「あぁ、だからですね、何もない荒れ地から畑を耕すための工程ですよ。肥料となる骨粉を巻いて、水を撒いてっていう」
「あぁ、それか。……いや何故それ?」
NPCの畑はどこも枯れていないし、枯れる予定もない。豊作が約束されている畑ばかりだ。
それともプレイヤーの中に、本気で農業をしようという者でもいるのか?
「はい。それがですね……」
AIシステムの判断チェック担当スタッフがモニターを見つめながら説明を続ける。
「学者のトリトンさんがプレイヤーから尋ねられたそうなんですよ。荒れ地をどうやって豊かにしたのかを」
「今か?」
「今です。こちらの許可待ちで硬直中です」
プレイヤーの中にはこの事を『シンキングタイム』と呼ぶ者もいる。
「許可を出さなければトリトンの学者としての面目も丸潰れか」
「そうですねぇ。あ、ちなみにそのプレイヤーっていうのは、やっぱりというかまたかというか……」
その時点でスタッフが言わんとするプレイヤー名を、チーフは悟った。
そして思いついた。
「彼≪・≫はどこの荒野を耕そうとしているんだ? いや、耕すでのはないかもしれないが」
「さぁ、そこまでは……」
「ではAIに実装待ちシステムの前倒し実装を許可したまえ。そのうえで彼がどこを弄ろうとしているのか、トリトンに誘導させたまえ」
「え、誘導……くくく。なんだか楽しそうですね」
スタッフはカチカチとキーボードを操作し、システム実装の許可と、トリトンのセリフ指示を支持する。
「どこかが判明したら、その荒れ地レベルをマックスに設定したまえ」
「マ、マックス!?」
荒れ地レベルとは――
マイホームシステムはそもそも、プレイヤーが今後実装される未開拓の土地に自分だけのマイホームを建築できるというものである。
そのマイホーム脇に、生産系コンテンツとして農場を作ることもでき、自由に畑を耕せるのだが――
「農場を作る位置の荒れ地レベルに応じて、一メートル四方の土壌改良に必要な骨粉の数が……マックスだと百個必要になってしまいますよ!?」
「そうだな。平均レベルは3で、必要な骨粉の数は20ぐらいであったか?」
スタッフは頷く。
レベル1はその辺の土という認識で、骨粉は一メートル四方に一個もあれば十分である。
レベル2で十個。作物は育つが、生育は余りよくない土。
レベル3で二十個。雑草ぐらいしか生えない土。
レベル4で五十個。雑草も生えない土。
レベル5マックス。百個の骨粉が必要という、かなり難点な土。しかも骨粉だけでは土は肥えず、水撒き、土起こし、そして風。様々な工程を得て、ようやく緑豊かな大地を手に入れられる!!
そのぐらい難易度の高い土壌改良なのだ。
「システムを前倒し……彼にはその責任を――いた、土壌改良システムを十二分に楽しんでもらおうではないか」
再びキーボードを叩き始めたチーフ。
その顔は心なしか楽しそうであった。
「――分かりました。私の知る限りの事をお話ししましょう」
「お? 動きだした!?」
や、やっとか。
あまりにも返事が遅いから、暇つぶしにペットフードの合成してたんだが……。完成したペットフードの数からして、十五分は固まってたな。
それで、荒れ地を豊かにする方法は?
「骨です」
「……はい?」
こうしてマジックは運営のヘイトを貯めていくのであった。
チーフ、作者の脳内ではまぁまぁダンディーなイケメンおじさん(作者と同年代なんだが)設定なんですよね。
禿げ、カワイソス。




