217:マジの中の人、学校へ行く。
『お帰りなさいませ、彗星マジック様』
「おう。じゃあ寝る」
『はい。お休みなさいませ』
結局、ダンジョン五階の地属性エリアまでで終わったな。
メンテ終了が夜の七時だったのもあって、遊ぶ時間が短すぎた。
明日はガッツリ遊ぶぞぉ!
と思っていたのに――
「彰人ぉ、今日は登校日だって、覚えてるぅ?」
というお袋の声が下から聞こえてくる。
おぅ……忘れてたぜ。
急いで学生服に着替え一階へと降り、そして飯を食う。
「宿題は?」
「大丈夫。メンテの時とかにちゃんとやっておいたから」
手抜きしている部分もあるが、解答欄なんかは全部埋まっているし大丈夫だ。
家を出てバス停までダッシュ!
うぅん。なんか体重いかも?
そういやVRばかりやってると太るとかいう噂があったな。
まぁ食っちゃ寝生活と同じだしな。
ちょっと考えないとダメかもしれん。
バスに揺られながら学校へと到着し、教室へと向かう。
その途中、後ろから俺を呼ぶ声に足を止めた。
「水村君、おはよう」
振り返ると、この糞暑い夏にも関わらず爽やかな笑顔の星見が立っていた。
「涼しそうだね、星見君」
「いや、暑いけど? だってこの時間でもう33度だったからね」
うわぁその数字、聞きたくなかったな。
「昨日のアップデートで、鉱山山脈の東に行けるようになったっぽいけど、もう行った?」
「え? そうなのか? 俺は遺跡ダンジョンに篭ってたんで、他はさっぱり」
「あぁ、なるほど。どうだった、遺跡」
四階の罠階は嫌がらせだらけ、五階は本当に地属性モンスターが居るってだけの普通ダンジョンだった。
その事を星見に聞かせ、星見からは製造に関する変更点を教えて貰った。
「一回の動作で今までだと十個までしか作れなかったのを、五十個まで出来るようになったんだ。これで加工に掛かる時間を短縮できるから助かるよ」
「へぇ。でも経験値とかは?」
「その辺も大丈夫。経験値の動作固定じゃなく、数固定みたいだからさ」
なる。
じゃあペットフードの合成を一回で十個作るのと、一回で五十個作るのとじゃ、後者のほうが経験値が多くなるってことだな。
一度に五十個作れるってのは、確かに有難い。
だってある程度数を揃えようと思ったら、数時間掛かるもんなぁ。
合成一回やるのにシステム画面のタップフリック作業だけだし、五秒もあれば出来るだろう。
単純に一分で十二回。六百個のペットフードが作れる!
「今回のアップデートでレベルを上げやすくなったし、今週はちょっと頑張ってレベル上げをしようと思ってるんだ。出来れば週末に何かやろうと思ってるし」
「何か?」
目を輝かせた星見は、その何かの事を秘密だと言って教室へと入ってしまった。
そこまで聞かせて秘密とか、ずるい。
宿題データを提出し、次なる宿題データを受け取る。
はぁ……欲しくもないデータだよな。
どうせならレジェンドアイテムのデータだったら……いかんいかん。脳が溶け始めているのか。これじゃあ完全にゲーム脳だぜ。
宿題を提出してしまえば学校も終わる。
この程度ならメール送信でもいいじゃないかと思うんだが。
「水村君。方向同じだったよね?」
下駄箱で星見がそう言ってやってきた。
後ろには星見をガン見している女子の姿が数人見えた。
手紙を持っている奴も居る。告白のタイミングを待っているのだろうか。
そして何故か俺と視線が合うと、鬼のような形相で睨んでくる。
俺はお邪魔虫か?
「え、ええっと星見君……そ、その」
「アップデートの事で思い出した事があるんだ。その話をしようと思って。途中まで一緒に帰らないか?」
「ご一緒します」
すまないどこの誰か分からない女子さん。
俺にはゲーム情報のほうが大事なんだ!
校門を出てすぐのバス停からバスに乗り込み、空席の無い状態で吊革を掴んでひそひそと話し込む。
「港町から海賊の隠れ里の間の海岸に、なんでも幽霊船が出るようになったらしいんだ。夜限定でね」
「ゆ、幽霊船……」
その幽霊船。髑髏マークのぼろぼろになった旗を掲げているのだと星見は話す。
位置的に考えて、もしかしてジャック関係とか?
「ほら、海賊ダンジョンのボスがいるじゃん。あのボスって、実は以前は別のボスだったって知ってたかい?」
「お、おお。ジャックって奴だろ」
星見は頷き、そのジャックが成仏してしまった為に、今のボスが配置に付いたと説明する。
すみません。成仏させたのは俺です。
本当にごめんなさい。
「で、その船ってのが、どうも前船長の船っぽいんだ」
「え? ジャックの?」
だがジャックはバルーンボに裏切られて、あの洞窟の奥に置き去りにされたんじゃ……。
実質、バルーンボの船?
でも奴は今でも海賊ダンジョンでピンピンしてるし。
そういえばバルーンボの奴、「ここの海で死んだ」とか言ってたな。
裏切ってお宝を奪い去っていながら、持ち返ることも出来ずそのまま船もろとも沈んだのか。
え、じゃあお宝って、その船の中?
俄然興味が沸いてきた。
夜限定か。覚えておこう。
いくつかのバス停を過ぎ、星見が停車ボタンに手を伸ばす。
俺が下りるバス停の二つ前か。
「水村君はペットを飼っているのかい? あ、もちろんゲームでの話でだよ」
「あぁ、飼ってるぜ。鳥系の五月蠅い奴を」
「じゃあ良い事教えてあげるよ。ファクトから西に行った開拓者の村で、合成ペットフードの販売が始まってるよ。好感度の上りが良いって事だし、何よりペットからの評判もいいっていうからお勧めするよ」
……星見……それ、俺が作ったペットフードだ。
とは言えない。
別に星見相手に特定されて困る訳じゃないが、せっかくのゲームだから知らないままの方がいい。
「あ、でも今朝の時点で売り切れてたから、再入荷はいつになるか……」
「え……」
しまった。在庫の事忘れてた。
帰ったら昼飯までの時間にガッツリ作っておこう。
「じゃあ、水村君」
「あ、うん。また次の登校日で」
そう言って星見と別れたが、実はゲーム内のどこかで会ってたりするんだろうか。
そんな風に思いながら、二つ目のバス停で降りるのであった。
忘れていた主人公以外のステータスその2
姉弟編。
ただしステは同じという。
名前:夢乃 / 種族:エルフ
レベル:1 /
Ht:162 / Wt:45
HP:55(55) / MP:50(50)
STR:1 / VIT:1 / DEX:31
AGI:1 / INT:1 / LUK:1
SP:0
【セット技能】
『調合:LV1』『裁縫:LV1』 / 『鍛冶:LV1』
『集中力:LV1』 / 『弓術:LV1』
【獲得スキル】
『ショットアトー:LV1』
名前:ドドン / 種族:ドワーフ
レベル:1 /
Ht:135 / Wt:135
HP:55(55) / MP:50(50)
STR:1 / VIT:1 / DEX:31
AGI:1 / INT:1 / LUK:1
SP:0
【セット技能】
『鍛冶:LV1』 / 『精錬:LV1』 / 『格闘:LV1』
『集中力:LV1』 / 『弓術:LV1』
【獲得スキル】
『ショットアトー:LV1』




