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213/268

213:マジ、SUGEEEE(嘘

 戦闘が始まった。

 俺が押しつぶされるという、ひどい状況で。


「マジ氏、大丈夫か?」

「大丈夫じゃねえ。ひ、引っ張りだしてくれぇ」

「『面倒くさがりのメタボヴァンパイアのばぁぁかっ!』」


 セシリアのヘイトスキルで蝙蝠が動いた。

 いや、浮いた?

 何故あの巨体で浮けるんだよ!

 だが今のうちだ!

 隙間から這い出て自分に『ヒール』をし、全員の立ち位置を確認する。

 セシリアの後ろにフラッシュが、蝙蝠の側面にルーンが立っている。

 ルーンの『ヒール』は遠距離仕様だからな、あの位置でもセシリアとフラッシュに届く。

 俺は……届かない!

 いつものようにセシリアの隣だな。


 ささっと移動して精霊を再召喚する。

 ここはやっぱりシルフだろう。


「シルフ、来い!」

〔ひゅるるん〕


 召喚と同時にシルフが攻撃を開始する。

 本当にうちの精霊たちは出来た子たちだ。主人が出来る男だからだろう。

 だが……


〔ひゅるぅぅ……〕

「どうした、シルフ?」


 ションボリした顔でシルフが俺を見つめる。


「マジ氏、属性相性が悪いぜ」

「え? でもこいつも風属性だろ?」


 これまでの蝙蝠もそうだった。そして同じ風属性の攻撃は有効だった。


「マジック君。飛んでいる相手には切り裂き攻撃は有効なのかもしれないが、飛んでない相手には無効なのかもしれないぞ」

「え、でもこいつ、飛んでないか?」


 と改めて蝙蝠を見る。


〔ぷぅ〜〕

「え? 飛んでない? 重くて飛べてないだと?」


 それをお前が言うか?

 だがぷぅのようにパタパタと飛んでいるようには……確かに見えない。

 地面から五十センチぐらいの所を浮いてるだけだ。

 え……浮いてるってだけで属性の相性も変わるのか?


「王子様ぁぁ〜。その子、風属性のレベルが3なんですよぉ〜」

「レベル1だと風属性攻撃も有効なんですが、2になるとダメージ増減無し、3だと逆に回復するようになってしまうんですぅ」

「地属性が有効ですよぉ。あと聖もです」


 さっきの女の子パーティーがまだ見ていたようで助言をくれる。

 げっ、マジか。

 ってことは……今のシルフの攻撃って、回復させてた?

 ちらりと蝙蝠をみると、ほとんど無傷だった。


〔ひゅぅぅ〕

「お、おう。じゃあ、ノームさん」

〔のーっむ!〕


 自らチェンジを申し出たシルフに代わり、元気なノームが地面から飛び出してくる。

 そしてこちらも出てきて早々〔のっのっ!〕とちゃぶ台をドコっと。


 ごすぅーんと音を立てて蝙蝠がちゃぶ台にぶつかってきた。

 あ、相変わらず出来るノームだぜ。


 助言のおかげで弱点はバッチリだ。

『ロック』と『ライト』を中心にスキル回しをする。

 全力を出すとセシリアからヘイトを奪いかねないので、しっかり手抜きは怠らない。

 何もしないんじゃあただの怠け者になってしまうからな。ここはデバフを――


「俺の歌をぉぉぉ、聞いてくださいっ!」


 レッツ、鎮魂歌。


 俺が歌いだすとメタボ蝙蝠の動きが止まった。

 そして寝た。


「え? 睡眠効果があるのか?」


 と喋るとムクっと起き上がる。

 デバフ効果が切れたか。

 再び歌いだすとまた転がって寝始める。


〔キュキュキュウゥ〜ウ〕

〔ぷ。ぷっぷぷぷぅ〕

「は? 面倒くさい?」

〔ぷぅ〜〕


 ぷぅの通訳だと、俺が歌いだすと途端に奴は「面倒くさいんだな〜」といってやる気を失くしているらしい。

 確かに襲撃イベントのときも、怠惰っていう効果でモンスターのやる気を低下させてはいたが……これはやる気無さ過ぎだろ?


「マジ氏、どうなってんだ?」

「あ、ああ。ぷぅが言うにはな――」


 説明をしようと歌うのを止めると、途端に蝙蝠が復活する。

 手短に説明している間に奴の攻撃が始まるのだが、これもなかなかにやる気の無い攻撃ばかりだ。

 ヘイトを抱えているセシリアに向かって前のめりに倒れる。

 範囲攻撃になっているので俺もぼぉっとしていれば巻き添えを食うが、そこは出来るノームがちゃぶ台で防いでくれる。

 その他、口から輪っかのような煙を吐き出す。

 が、煙の移動速度が遅すぎて、回避余裕。


 普通にいつでもやる気が見られません!


 確かセシリアがヘイトスキルを使うとき「面倒くさがり」がどうとか言ってたな。

 二つ名そのままのモンスターかよ。


「なるほど。マジック君の歌にそんな効果が」

「いや、俺の歌の効果じゃないと思うぞ」

「もともと面倒くさがりなところにデバフが掛かって、動くことすら面倒にっていう設定なんですかね」

「変な設定してんなぁ。でもまぁ、楽して倒せそうじゃないか。マジ氏、歌っててくれよ」

「おう。ノーム、俺の代わりに『ロック』でぼっこぼこにしてくれ」

〔のーむ!〕


 そして俺は歌った。

 歌い続けた。


 だが――

 こういうボスってのはある程度HPが削れると豹変するもんだ。

 いつでも戦闘に加われるよう、常に奴の動向に目を光らせながら歌う。


 一曲歌い終わり、奴のHPは残り八割に。

 二曲歌い終わり、奴のHPは残り六割に。

 三曲歌い終わり、奴のHPは残り四割に……。

 四曲歌い終わり、奴のHPは残り二割に……。


 あれ?

 マジか?


 そしてついに五曲目を熱唱している間に、奴は光の藻屑となって消えたあぁ?


「おいおいおい、何もなかったじゃないか!?」

「反撃、まったくありませんでしたね」

「こんなのでいいのか? ボスだよな?」


 フラッシュもさすがに信じられないといった様子で、さっきまで奴が寝ていた場所を見つめている。


「むぅ〜。なんて倒し甲斐のない奴なの!」


 セシリアもご立腹だ。


「不具合、ですかねぇ?」

「欠陥すぎだな」


 不具合……そう聞いて一抹の不安を抱く。

 開発が意図していない状況で敵を倒した場合……ドロップはどうなるんだ!?

 慌ててインベントリを確認。


「お、ドロップある!」

「そりゃああるでしょ」

「まぁ状況が状況だしな。それでもさ、不具合だったとしても回収はされないと思うぜ」

「そ、そうか。そういうものなのか」

「そういうものなの?」


 何のことだか分かってないんだろ、セシリア。

 無事にお宝をゲットしたことで安堵した俺らは、部屋を出て次の階層へと向かう。

 さっきの女の子パーティーに祝されながら先へと進みだす俺たちの背後で、何故か大合唱が始まっていた。


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