211:運営その3
穴倉は絶望の淵に立っていた。
超難関。動く床エリアを現実時間にして二十分と掛からずクリアされたからだ。
入り口にある動く床三つのうち、真ん中はハズレ。右と左はゴールに迎えるコースとなっているが、途中の分岐点で選択を誤れば崖下に落下か、スタート地点に戻される仕様になっている。
その分岐点の数……108。
煩悩の数とあわせてみたのだが、深い意味はまったく無い。
しかもこのエリア、分岐点で畳み四畳ほどのスペースがある以外、全てが動く床のレーンになっている。
分岐点でゴールからのルートを逆算しようとしても、部屋自体も広いため遠くからはレーンがどう交差しているのかなど見えないのだ。
ほとんど運任せで進むしか無いこのエリアで、脱落するパーティーがほとんどだろうと考えてたのだ。
穴倉、クリアさせる気の無いダンジョンマスターである。
そんな穴倉作成のダンジョンではあるが、他のスタッフたちは一向に心配などしていない。
何故なら……穴倉は欠陥品だからである。
『仲間達の待合場所』から分岐していた奥へと続く通路。
友情破壊計画だの動く床だの、マップ埋めをするのに時間を掛けていたせいもあり、もう片方の通路の事をすっかり忘れていたのだ。
そのせいでもう一方の通路には初期の落とし穴が延々と続く、ただ歩き難い、戦闘し難いというだけの通路になっているのだ。
もちろん飛行系モンスターも来襲してくるので、レベル不足のパーティーであれば全滅は免れないだろう。
だが所詮その程度だ。
穴倉が監視していない、もう一つの通路を見つめていた別のスタッフは思った。
(こっちの通路を選んだプレイヤーの九割はクリアできるだろうな)
と。
そして、
(この情報が出回ったら、向こうの道を選ぶプレイヤーも居なくなるだろう)
とも。
穴倉の苦労、全て台無しである。
本人がそれに気づくのは、まだ少し先の事……。




