210:マジ、絶叫マシーンに乗る。
「いやぁ、ノームはやっぱり出来る精霊だよなぁ」
〔のっ!〕
四人が無事に橋を渡り終え、ノームを再召喚して合流すると、俺たちは意気揚々と奥へと目指した。
「精霊にそういう使い方があるとは……」
「でもノームって手足があるし、普通にボクたちプレイヤーと同じ動きができるもんね」
「じゃあ、おサルのペットも出来るのだろうか?」
セシリアの言葉に俺たちは考えてみたが、たぶん出来る気がする。
まぁサルのペット持ちか精霊使いじゃないとクリアできないなんて酷い設定ではないだろう。どこかにもっと楽にクリア出来るヒントがあったに違いない。
が、俺たちはこの方法でクリア出来たんだし、どうでもいいか。
ディカバリーしながら奥へと進むが、こっちには落とし穴の類がまったく無いみたいだな。赤く点滅する箇所が見当たらない。
ただし、モンスターは幾らでも襲ってくる。
〔キチュチュー〕
出てくるのはやっぱり飛行系モンスターか。なんか見飽きたな。
遠目からみると蝙蝠。近くで見ると、それの翼を持ったハムスターだってのが分かる。
微妙に、可愛い。
〔のっのーむ!〕
ノームが必死に拳を振り回すが、当然のように当たらない。
ノーム、小さいもんなぁ。そこまでモンスターが低空飛行してくれないっていうね。
「ふふ。ノーム、可愛いなぁ」
〔のっ!?〕
空振りをし続けるノームを見て、セシリアがそんな言葉を口にする。
ノームよ、何喜んでんだ。
顔真っ赤にして空振り三振なんかしてんじゃねえよ。
うん。ここではノームは使えないな。
飛行系に強い土属性ではあるが、当たらなければ強い弱い以前の問題だ。
『ロック』を使えば当然当たるようになるが、俺のMPがゴリゴリ減っていく。
「やっぱシルフに決ぃ〜めた」
〔のーっ!〔ひゅ〜るるん♪〕
通常攻撃が近接って時点で、ここではダメだったな。
「そんな訳で、お願いしゃっす、シルフ先生」
〔ひゅる、ひゅるる!? ひゅひゅっひゅ!〕――ボ、ボクが先生!? ま、任せて!
「ノームぅ」
セシリアはノーム贔屓か。だが奴の出番はここにはない。
シルフにチェンジしてからは、彼女のカマイタチ攻撃がハムスター蝙蝠を確実に落としていく。
大群が来れば俺が一人前に立ち、ちょっと齧られながら――
「『暴風竜! ディスク・グラインダー』さぁ、回れえぇぇっ」
竜巻を起し、ハムスターが俺の周りをぐるぐる回転していくのを見つめる。
ハムスターって、水車みたいなのに乗って走り回ってるよな。こいつらも竜巻の中をてってってってっと走ってはいるんだが、ダメージ受けまくってるじゃん。
そのうち〔チュチュー〕と鳴きながら光の粒子になって消えていった。
何匹から最後まで持ち堪えていたが、目が回ったのか、ふらふらになりながら地面へと落ちていく。
そこへセシリアとルーンがやってきて止めを刺して行った。
そして俺は――
目が回っていた。
「マジ氏……自分のスキルで目を回すって、どうなんだよ」
「お、おぅ。俺も誤算だったぜ」
「目を閉じてたらいいんじゃないですか? マジックさん自身がくるくる回ってるわけじゃないんですし」
次からはそうしよう。
戦闘が続くと、INT型とはいえMPがきつくなってくるな。
こんな時こそ『MP六十秒チャージ』!
作ったばかりのMP回復用スキルを初めて試す。
毎秒5ずつMPが回復していき、一分後には効果が切れる。
自然回復だと五秒毎にINTと同じ量が回復する。ただし、戦闘中は回復しない仕様だ。
けど六十秒チャージだと戦闘中も回復するので、継続的な回復が出来る。
まぁ回復量が微妙だけど、スキルレベルが上がれば回復量も増えていくだろうし、とにかく使いまくってレベルを上げるしか無いな。
スキルのCTは七十秒。
つまり、スキルの効果時間が切れてから十秒後にまた使えるわけだ。
「ぷぅ、サンバ」
〔ぷっ。ぷっぷぷぷっぷぷ〜♪〕
ぷぅが踊り出せば、スキルのCTは半減する。これで六十秒チャージしまくりだぜ!
「今度は動く床かよ……」
「どっかのRPGにあったよな」
「私知ってるぞっ。そのゲーム、やったことあるもん」
「ゲーム好きなら大抵の人が子どもの頃にやってますよ」
たぶん大人もな。
土がむき出しだった通路は、突然石作りへと様変わり。
横幅いっぱいに三つの動く歩道のようなものが作られていた。
しかも、結構なスピードが出ている。
あんなスピード、リアルの動く歩道でやったらクレームじゃあ済まないだろうな。
「この先は大きな部屋になってるようですね」
「見える範囲だけでも、全部の床があちこちに動き回るみたいだぜ」
「とりあえず乗ってみて、途中のどこかでゴール地点に向う正しいルートを探そうっ」
「まぁセシリアの言う通り、とりあえずどれかに乗ってみるか」
ルーンもフラッシュも反対しなかった。
奥のほうがどういう作りになっているか分からないし、先に進んで確認しなければどうしようもないからな。
「じゃあ真ん中!」
と言ってセシリアがピョンっと飛び乗る。その後ろにルーンが、そしてフラッシュに俺と続く。
「あはははははははっ」
「うわあぁぁぁぁっ」
「早すぎいいいいぃぃぃっ」
「うおおぉぉ、吐くっ吐くうぅっ」
〔ぷっぷぶぶぷぶぶっ〕
ダーリン、前っ、前よっとぷぅが慌てるが、こっちはそれどころでは――前?
グネグネカクカクビューンビュンな先には……
「あははははは、みんな、崖だぞぉ」
「ひいいぃぃぃっ」
「結局落ちるのかよぉっ」
マズい。
動く歩道なら逆走すればと思うが、このスピードで逆に走ったところで落下する時間を遅らせる程度だ。
落ちる、落ちる……な、何か壁でもあれば……あ。
「ノームうぅっ」
〔ひゅ〔ののっ!〕
俺たちがまさに向おうとしている崖の縁からぼこっと出てきたノームは、その場で両手を付いて『ちゃぶ台返し』を発動させる。
どんっ――ごんっ――がんっ――ごすっと、ちゃぶ台に衝突する俺たちは、なんとか落下という事態だけは避けられた。
ただ、動けない。
「ふええぇぇ、潰されるぅ」
「ごめんなさいごめんなさい」
「と、隣の床に移るか?」
フラッシュがそう提案するが、頭上のぷぅが却下の支持を出す。
「ぷぅ、床の動きを読めるか?」
〔ぷぅぅぅぅ……ぷ!〕
左の床よとぷぅが指示する。
で、その床に乗ると――
「マジ氏、ここ、スタート地点じゃん」
「おいっぷぅ!」
〔ぶぶぅ。ぶぶぶぶぶ〕――だって仕方ないじゃないっ。あそこからだとここに戻るルートしか、安全なところなかったんだからぁ。
「だそうだ」
「「なら仕方ない」」
ここは一旦ぷぅと、そしてシルフに再召喚しなおして上からルートを確認して貰う事にしよう。
「ぷぅちゃん、まずはゴールを探すのだ」
〔ぶっぶっぶぶぶぶ〕
「マジック君、ぷぅちゃんは何て言っているのだ?」
「女に指示されたくはない、と」
「ふえぇん」
どこまで女嫌いなんだよこいつは。
「ぷぅちゃん、ゴールを見つけてきてくれるかな? そのゴールから逆に道を辿ってくるんだ。途中で分岐点なんかがあったら……」
今度はルーンが指示を出している。
再びシルフを召喚し、ぷぅと二人で飛んで行って動く床を観察させる。
分岐点では目印にアイテムを置いてくるかとなったが、そもそもアイテムも床の上を動き回るだろうから意味が無い。
というと、シルフがつむじ風を置いてくるという。風であれば動く床も関係ないからと。
出来る精霊だ。
そうして待つこと三十分。
〔ぷぅ〜〕
〔ひゅるる〜ん〕
「やっと終わったか」
俺たちは無事、動く床ゾーンを――
「ぎゃああぁぁぁぁっ」
「ま、まだゴールしないんですかあぁぁぁっ」
「予想外に距離なげぇええぇぇぇっ」
「あはははははははは」
十分ほどグネグネカクカクビューンビュンしたあと、ようやくクリアした。




