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205/268

205:マジ、ネオン街を行く。

 足を置く場所を吟味しながら、慎重に進んで行く。

 左手の法則、壁に手を付いて歩くのはもう無理。とにかく左に、左にと意識して進むしか無い。

 十メートル進めばスキルの再使用。また進んで再使用……歩くのもゆっくりだってのに、これじゃあ時間が……。

 若干いらつきはじめた頃、置くからバッサバッサという羽音が聞こえてきた。


「ぷぅ、知り合いか?」

〔ぷっぷぷぅ〕


 そうか。ダンジョン内にピチョン系は居ないのか。


〔ひゅるる〜ん〕

「蝙蝠?」


 シルフが言う通り、やってきたのは蝙蝠のモンスターだ。

 真っ白い蝙蝠か。ちょっと神秘的にも見える。

 が、所詮はモンスターだ。


「『エアカッター!』」

〔ひゅるるん〕


 俺とシルフが同時に魔法を使う。いや、シルフはあれが通常攻撃なのか。

 つむじ風のようなものを発生させ、指先からそれを投げつけ敵を攻撃する。


〔キチチッ〕


 蝙蝠南無。

 わずか二回攻撃で倒す事が出来た。

 その後、遭遇するモンスターは全て飛行系モンスターだ。セシリアの情報は当たっていたな。

 しかし、だ。


「落とし穴だらけのこのマップで戦闘って、辛いんですけど!?」

〔ひゅるる?〕


 そうなの? と首を傾げてるシルフさんよ。君は浮いてるからいいよね!

 そういや、飛行系が多いのはマップの構造に理由があるみたいな話だったが、もしかして落とし穴の事なのか?

 確かに飛行系モンスターなら落とし穴も関係ない。

 そんな訳で容赦なく襲ってくるモンスターどもを、落とし穴のない僅かな隙間で迎え撃つ戦闘が続く。


 どのくらいの時間が経っただろうか。移動した距離といえば、それほど長くないと思う。

 進行方向の先から異様な灯りが見えた。

 まるでネオンのようにビカビカと光っていて……さっき見たあれと似ているな。

 念のため慎重に慎重を期して進んで行くと、やや広い空間へと出る。

 そこにはやっぱりというか、煌くネオンに飾られた看板があった。


『仲間達の待合場所』


 そんなふざけた看板の周囲には、俺同様、仲間と分断されただろうプレイヤーの姿があった。


「あ、マジックくぅ〜ん!」

「やっと来たかマジ氏」

「一番乗りだと思ってた人が最後でしたね」


 え……セシリア、ルーン、フラッシュ……揃ってる……。

 念のためディスカバリーするが、この周辺は落とし穴は無いようだ。


「は、早かったんだな。もしかして安全な道だったとか?」


 合流してそう尋ねるが、全員、首を横に振る。


「落とし穴だらけだったぜ」

「しかも浅いんですよね。あれって落とし穴と言えるレベルなんでしょうか?」

「子供の悪戯だな」


 落とし穴はあったようだ。

 俺なんかはその落とし穴を避け、確実に進んできたはずなのに……実は三人とも罠発見技能とか持っていたりして?


「俺も結構急いだ方なんだけど、三人はどうやってここまで来たんだ?」

「どうって……なぁ?」


 フラッシュが他の二人に視線を向け、その二人も彼の意図が分かったのか、頷いている。

 俺を仲間はずれにして以心伝心しないでくれ。


「落下ダメージが50でしたからね。そんなゴミダメージは無視して、普通に走りました」

「ダメージが貯まったらポーションで回復すればいいし」

「私はヒールがあるから。それに、剣先で地面を突きながら歩いたから、平気だったぞ」


 ……ダメージ無視して落ちまくったってのか……なんて勇者揃いなんだ。


「それに、一度落ちればその穴は暫く開いたままになるから、モンスターが来ても穴を避けやすいし……マジ氏、もしかして落とし穴を回避しながら進んできたのか?」

「お、おぅ。罠発見のスキルを作ったからさ」


 でもそれすら意味が無いほど、落とし穴が幼稚だったようだ。


「まぁまぁ、落ち込まないでくださいよ。あれだけ落とし穴があったんです、奥に行けばもっと嫌な罠が設置されているかもしれませんから」


 肩を落とす俺を慰めようと、ルーンは優しい言葉を掛けてくれる。

 面を上げ、お礼を言おうとしたが……ルーン、その顔は笑顔じゃなく、にやけてるって言うんだぜ。

 当たり前のように隣のフラッシュもにやけ面だしよぉ。

 残った一人は意味が分かっておらず、きょとんとしているし。


「そろそろ移動しようぜ。ここも人が増えてきたからさ」


 フラッシュの言う通り、俺がここに来てから続々と人が集まってきている。

 混雑する前に先に進むか。


 で、その進むべき道なんだが、これまた妖しい。

 拓けた場所であるここには、幾つにも道が分かれているのだが、そのうち二つだけ、アーチ状のネオンで飾られた通路がある。

 そこへ進むパーティーやソロプレイヤーは居るものの、その通路からこちらに来る人は居ない。

 つまり、あのネオンの先にはランダムワープはしないってこと?


「どっちのネオン街にする?」

「「は?」」


 突然の言葉にぎょっとする俺たち。

 そのセリフはまさかのセシリアからだ。

 おいおい、ネオン街ってお前……どこの街だよ。

 はっ!

 まさかセシリアってば、リアルでホスト通い慣れしてるとか?


「ん? どうした三人とも」


 男三人は集まった。


「セシリアさんって……前々から思ってたんですが、天然なんですかね?」

「俺はあいつがホスト通いして金を湯水のごとく使いまくってるのを想像して、ぞっとしたぜ」

「いや、そういう人間はVRとかやらないだろ。たぶんだけど」


 まぁそれもそうか。

 という事は、ルーンの言う『天然』故の発言か。


「ねぇ、三人で何を話してるの?」


 俺たちはセシリアを見つめ、それからお互いまた顔を見合わせた。


「さすがマジック氏の知り合いってことだよな」

「フラッシュ、なんだよそれ」

「でもフラッシュ……それを言ったらボクたちだって……」

「いや、それどういう意味だルーン」


 押し黙る二人。

 おいっ。俺の知り合いだからどうだっていうんだ!?


「ねぇ、どっちのネオン街に進めばいいのだ? ねぇ?」

「言っとくけどな、どっちに進んでもホストクラブは無いんだからな! あ……」


 つい声を荒げてしまった。

 その瞬間、他のプレイヤーの視線が集まる。


「ホストクラ……あっ」


 そしてセシリアも気づいたようだ。


「マジック君とルーン君とフラッシュ君は、ホストだったのか!?」

「「違うっ」ますっ」

「ふえぇっ」


 ダメだこりゃ。

 

「天然だな」

「決定ですね」

「ポンコツも付け加えてくれ」

「ふえぇっ」

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