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204/268

204:マジ、落とし穴にはまる。

 ネオンきらめく看板の下には、地下四階へと続く階段があった。

 四階は飛行系モンスターが多いという話だから、シルフを召喚しておくか。


「おーい、シルフさんやぁ〜い」


 ……返事がない。ただの留守のようだ。

 ってしまったぁっ! ここはダンジョンの中。風が吹くわけないんだったぁぁっ。

 うぅぅ。風がなかったらシルフが呼び出せねえよ、とほほ。

 いや待てよ。


「『エアカッター』」


 小さめの、というか現実にあるカッターナイフを想像して魔法を唱えると、丁度それぐらいサイズの『エアカッター』が発動する。

 掌のそれはカッターナイフの形をしているが、れっきとした『風』だ。


「シルフッ」

〔ひゅるぅん〕


 俺の勘は当たった! 『風』であればなんでもいい。自然の風でなくても、シルフは出てくるんだ。

 この原理なら『ファイア』でサラマンダーを呼び出すことも出来そうだ。五階に降りたらサラマンダーと交替させよう。


「ふえぇっ。マジック君、新しい精霊なのか?」

「あぁ。シルフだ」

「え? マジック氏、いつのまに精霊殴りに?」


 精霊殴りって、なんだよ。俺は別に精霊たちを殴ったりしてねえから!


「わぁ、可愛いですねぇ。でも、シルフってもっとこう……」


 ルーンがシルフを見つめながら、首を傾げる。

 分かっている。お前のいいたいことは分かっている!

 シルフってもっと大人な女性ってイメージなんだろ? こう、胸も大きくって、腰のくびれもしっかりあって――分かるよ!

 だが残念ながら、うちの精霊はこうなんです。

 ボクっ娘。ずん胴。ない乳。


〔ひゅるるん〕

〔ぷっ〕


 シルフはぷぅと仲がいいようだ。ずん胴と丸胴。お互い飛ぶ者同士だし、通じるものがあるのだろう。


「よし、準備万端だ。下りようぜ」

「おぉっ」

「はい!」

「行くのだっ」


 セシリアを先頭にして階段を下りていく。

 彼女が地下四階に足を踏み入れた瞬間、消えた。


「え? ど、どこに!?」

「セシリアさんっ」


 慌てて駆け出したルーンもまた……消えた。

 四階ダンジョンはちゃんと見えている。なのに二人の姿は見えない。

 階段から下りると別エリアにでもなっているんだろうか。


「どうする、マジック氏」

「ど、どうすると言っても……げっ。パーティー簡易欄の二人のステータスがっ」

「うわっ。灰色になってる!?」


 戦闘不能になっていれば、HPバーが真っ黒になってはいるが、名前は白い文字で表示されているはずだ。

 なのに今は、名前もHPバーも、全部灰色になっていた。

 試しにフレンド画面を出してみたら、所在地は『遺跡ダンジョン 地下四階』になっていた。これだと戦闘不能になっているのかいないのか分からないな。

 分からないが……


「飛び込むしかないだろう」

「……だよな」


 フラッシュと目を合わせ、お互い意を決し――


「前のお二人さん、早く行ってくんね? 後ろ、詰まってんだけど」


 二人で揃って振り向くと、そこには数パーティー分のプレイヤーが並んで待っていた。


「あ、すんません」


 ペコペコと頭を下げてさっさと下りていく俺たち。

 くそ、なんかカッコいいシーンだったのに。

 とか思いながら四階に一歩踏み出すと、視界が一瞬歪んだ。

 そして次の瞬間にはフラッシュの姿も、先に下りた二人の姿も無く――


「あれ? 俺一人ぼっち?」


 誰もいない。

 なんてこった!?


〔ぷっぷぅ!〕

〔ひゅるるぅ〕

「おぉ、ぷぅとシルフじゃないか! 一緒だったんだなぁ」

〔ぷっぷぷぷぅ〕


 ダーリンを見捨てるわけないじゃない、というぷぅの言葉も、今は頼もしく聞こえる。


〔ひゅるるるるぅん〕

「あぁ。みんな何処に行ったんだろうな?」


 辺りをきょろきょろしてみるが、三人の姿は見えない。

 四階はさっきまで通った道とほぼ同じ構造で、人工的に作られた石壁、石畳で出来た通路だ。壁にはランプもあるので明るさは十分にある。

 目の前の通路は数メートル先で左右に分かれていて、奥がどうなっているかはここからだと分からない。

 後ろを振り返っても壁だけだ。階段すら見えないって……四階に入るとワープさせられてるのか? 他の三人がいないところをみると、ランダムワープか。


「こりゃマズいな。早くみんなと合流しないと」


 フラッシュは飛行系に強い弓職だからいい。セシリアも全身超合金仕様だから、死にはしないだろう。

 問題はルーンだ。

 あいつ、殴り支援だからな。しかも最初は純支援のつもりでステ振りしてたっぽいから、殴りとしては半端なはずだ。

 火力が低いってのは、ダンジョンソロとしては致命的だろう。

 俺にはぷぅとシルフが居る。


「急いでみんなを探すぞ!」

〔ぷぅ!〕

〔ひゅるっ〕


 ダっと駆け出した俺は、突き当りの通路を左に曲がる。

 所謂左手の法則だ。

 待っていろみんな、俺が今から行くぜ――


「ほあっ!」


 壁を曲がって直ぐ、俺の視界が五十センチほど下がった。

 なんだ、何が起こった?

 足元を見ると、小さな穴が。さっきまでは何も無かったが、落とし穴か。

 ……こ、こんな穴に落ちた程度で、落下ダメージ50とか……。

 えぇい、糞っ。

 穴から上がって一歩踏み出すと、再び視界が五十センチ……おいおい、穴の直ぐ横にまた穴かよ!

 一刻も早くみんなと合流して――ほぁっ!

 風属性の技能上げを――ふひっ!

 したいんだよぉ! ――……。


「おいぃーっ! なんなんだよこの道はっ」


 一歩ごとに落とし穴って、どういう事だよ!

 ダメージ50つったって、十回も落ちれば500ダメージだぞ。二十回落ちれば1000ダメージ!

 洒落になんねえよ。

 

 ここは慎重い……つま先で地面を突きながら……あ、『発見』技能で罠を見つけたりも出来ないかな?

 じぃっと目を凝らし辺りを見ていると――光る物発見!

 あれを避けて歩けばいいんだな。よし。

 一歩進んだ所で穴に嵌る。

 ダメだこりゃ。

 そうだよな。光ってるのは一箇所だもんな。この頻度で嵌ってるんだ、落とし穴だったらもっとビカビカ光ってるはずだ。

 ってことはアイテムか……それはそれで拾っておきたい。


「『ヒール』。さて、あそこまでどうやって行ったものか。ぷぅやシルフはアレが見えないだろうしなぁ」

〔ぷぅ?〕

〔ひゅるるるん?〕

〔ぷっぷぷぅぷぅぷぷ〕


 何さっきから遊んでるのよ――だと?

 遊んでねえから!


 ぐぬぬぬ。発見では罠は見つけられなかったか。

 くそう。罠発見なんてスキルを、どこかで聞いた気がするんだがな――そうだっ、作ればいいじゃないか!

 そうだよ。無いのなら作ればいい。それが出来るゲームだろっ。


 でも消費IMPが糞みたいに高かったらどうしようかな……まぁとにかくやってみよう。

 見えている範囲の罠を見つけ出す――消費IMP50……。

 俺を中心に半径五メートル範囲の罠を見つけ出す……ぶっ。消費IMP1!?

 半径十メートル! 消費IMP5!!

 よし、十メートルにしよう。

 ちょっと歩いたらすぐにスキルを使わなきゃいけないが、こんなスキルにIMP50も使いたくない。

 MP消費も10と少なく、これなら連続使用もできるだろう。CTゼロだしな。


「よし、じゃあさっそく――『トラップ オン ディスカバリー!』」


 罠発見――だとカッコ悪いので、横文字にしてみた。

 うん。カッコいい。

 スキルを使用した途端、地面があちこち赤く点滅しはじめた。

 俺を中心に半径十メートル範囲が……罠だらけ!

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