204:マジ、落とし穴にはまる。
ネオンきらめく看板の下には、地下四階へと続く階段があった。
四階は飛行系モンスターが多いという話だから、シルフを召喚しておくか。
「おーい、シルフさんやぁ〜い」
……返事がない。ただの留守のようだ。
ってしまったぁっ! ここはダンジョンの中。風が吹くわけないんだったぁぁっ。
うぅぅ。風がなかったらシルフが呼び出せねえよ、とほほ。
いや待てよ。
「『エアカッター』」
小さめの、というか現実にあるカッターナイフを想像して魔法を唱えると、丁度それぐらいサイズの『エアカッター』が発動する。
掌のそれはカッターナイフの形をしているが、れっきとした『風』だ。
「シルフッ」
〔ひゅるぅん〕
俺の勘は当たった! 『風』であればなんでもいい。自然の風でなくても、シルフは出てくるんだ。
この原理なら『ファイア』でサラマンダーを呼び出すことも出来そうだ。五階に降りたらサラマンダーと交替させよう。
「ふえぇっ。マジック君、新しい精霊なのか?」
「あぁ。シルフだ」
「え? マジック氏、いつのまに精霊殴りに?」
精霊殴りって、なんだよ。俺は別に精霊たちを殴ったりしてねえから!
「わぁ、可愛いですねぇ。でも、シルフってもっとこう……」
ルーンがシルフを見つめながら、首を傾げる。
分かっている。お前のいいたいことは分かっている!
シルフってもっと大人な女性ってイメージなんだろ? こう、胸も大きくって、腰のくびれもしっかりあって――分かるよ!
だが残念ながら、うちの精霊はこうなんです。
ボクっ娘。ずん胴。ない乳。
〔ひゅるるん〕
〔ぷっ〕
シルフはぷぅと仲がいいようだ。ずん胴と丸胴。お互い飛ぶ者同士だし、通じるものがあるのだろう。
「よし、準備万端だ。下りようぜ」
「おぉっ」
「はい!」
「行くのだっ」
セシリアを先頭にして階段を下りていく。
彼女が地下四階に足を踏み入れた瞬間、消えた。
「え? ど、どこに!?」
「セシリアさんっ」
慌てて駆け出したルーンもまた……消えた。
四階ダンジョンはちゃんと見えている。なのに二人の姿は見えない。
階段から下りると別エリアにでもなっているんだろうか。
「どうする、マジック氏」
「ど、どうすると言っても……げっ。パーティー簡易欄の二人のステータスがっ」
「うわっ。灰色になってる!?」
戦闘不能になっていれば、HPバーが真っ黒になってはいるが、名前は白い文字で表示されているはずだ。
なのに今は、名前もHPバーも、全部灰色になっていた。
試しにフレンド画面を出してみたら、所在地は『遺跡ダンジョン 地下四階』になっていた。これだと戦闘不能になっているのかいないのか分からないな。
分からないが……
「飛び込むしかないだろう」
「……だよな」
フラッシュと目を合わせ、お互い意を決し――
「前のお二人さん、早く行ってくんね? 後ろ、詰まってんだけど」
二人で揃って振り向くと、そこには数パーティー分のプレイヤーが並んで待っていた。
「あ、すんません」
ペコペコと頭を下げてさっさと下りていく俺たち。
くそ、なんかカッコいいシーンだったのに。
とか思いながら四階に一歩踏み出すと、視界が一瞬歪んだ。
そして次の瞬間にはフラッシュの姿も、先に下りた二人の姿も無く――
「あれ? 俺一人ぼっち?」
誰もいない。
なんてこった!?
〔ぷっぷぅ!〕
〔ひゅるるぅ〕
「おぉ、ぷぅとシルフじゃないか! 一緒だったんだなぁ」
〔ぷっぷぷぷぅ〕
ダーリンを見捨てるわけないじゃない、というぷぅの言葉も、今は頼もしく聞こえる。
〔ひゅるるるるぅん〕
「あぁ。みんな何処に行ったんだろうな?」
辺りをきょろきょろしてみるが、三人の姿は見えない。
四階はさっきまで通った道とほぼ同じ構造で、人工的に作られた石壁、石畳で出来た通路だ。壁にはランプもあるので明るさは十分にある。
目の前の通路は数メートル先で左右に分かれていて、奥がどうなっているかはここからだと分からない。
後ろを振り返っても壁だけだ。階段すら見えないって……四階に入るとワープさせられてるのか? 他の三人がいないところをみると、ランダムワープか。
「こりゃマズいな。早くみんなと合流しないと」
フラッシュは飛行系に強い弓職だからいい。セシリアも全身超合金仕様だから、死にはしないだろう。
問題はルーンだ。
あいつ、殴り支援だからな。しかも最初は純支援のつもりでステ振りしてたっぽいから、殴りとしては半端なはずだ。
火力が低いってのは、ダンジョンソロとしては致命的だろう。
俺にはぷぅとシルフが居る。
「急いでみんなを探すぞ!」
〔ぷぅ!〕
〔ひゅるっ〕
ダっと駆け出した俺は、突き当りの通路を左に曲がる。
所謂左手の法則だ。
待っていろみんな、俺が今から行くぜ――
「ほあっ!」
壁を曲がって直ぐ、俺の視界が五十センチほど下がった。
なんだ、何が起こった?
足元を見ると、小さな穴が。さっきまでは何も無かったが、落とし穴か。
……こ、こんな穴に落ちた程度で、落下ダメージ50とか……。
えぇい、糞っ。
穴から上がって一歩踏み出すと、再び視界が五十センチ……おいおい、穴の直ぐ横にまた穴かよ!
一刻も早くみんなと合流して――ほぁっ!
風属性の技能上げを――ふひっ!
したいんだよぉ! ――……。
「おいぃーっ! なんなんだよこの道はっ」
一歩ごとに落とし穴って、どういう事だよ!
ダメージ50つったって、十回も落ちれば500ダメージだぞ。二十回落ちれば1000ダメージ!
洒落になんねえよ。
ここは慎重い……つま先で地面を突きながら……あ、『発見』技能で罠を見つけたりも出来ないかな?
じぃっと目を凝らし辺りを見ていると――光る物発見!
あれを避けて歩けばいいんだな。よし。
一歩進んだ所で穴に嵌る。
ダメだこりゃ。
そうだよな。光ってるのは一箇所だもんな。この頻度で嵌ってるんだ、落とし穴だったらもっとビカビカ光ってるはずだ。
ってことはアイテムか……それはそれで拾っておきたい。
「『ヒール』。さて、あそこまでどうやって行ったものか。ぷぅやシルフはアレが見えないだろうしなぁ」
〔ぷぅ?〕
〔ひゅるるるん?〕
〔ぷっぷぷぅぷぅぷぷ〕
何さっきから遊んでるのよ――だと?
遊んでねえから!
ぐぬぬぬ。発見では罠は見つけられなかったか。
くそう。罠発見なんてスキルを、どこかで聞いた気がするんだがな――そうだっ、作ればいいじゃないか!
そうだよ。無いのなら作ればいい。それが出来るゲームだろっ。
でも消費IMPが糞みたいに高かったらどうしようかな……まぁとにかくやってみよう。
見えている範囲の罠を見つけ出す――消費IMP50……。
俺を中心に半径五メートル範囲の罠を見つけ出す……ぶっ。消費IMP1!?
半径十メートル! 消費IMP5!!
よし、十メートルにしよう。
ちょっと歩いたらすぐにスキルを使わなきゃいけないが、こんなスキルにIMP50も使いたくない。
MP消費も10と少なく、これなら連続使用もできるだろう。CTゼロだしな。
「よし、じゃあさっそく――『トラップ オン ディスカバリー!』」
罠発見――だとカッコ悪いので、横文字にしてみた。
うん。カッコいい。
スキルを使用した途端、地面があちこち赤く点滅しはじめた。
俺を中心に半径十メートル範囲が……罠だらけ!




