191:その頃、真夜中の森で。
その頃、ファクトから南東の森では――
「見つけたぞなもし」
「お、みぃっつけた」
木々に隠れ、召喚したモンスターの動きをモニター越しに確認していた運営スタッフのキャラ三人は驚いていた。
見つかるはずは無い。そう思っていたのだが、声に気づいて振り向いてみれば……そこは月の光さえ届かぬ森の中、ギラリと光る目が……いっぱい。
「こっちっすよ、ファリスさん」
三人は更に驚く。
いや、背筋に悪寒が走る。
「見つけたぞっ。貴様たちが町を襲撃しているモンスターどもを使役している魔物使いだな!」
彼らの予想は正しかった。
灯りの届かないはずの森に、何故か月光が差し込む。
現れたのは、純白の鎧に身を包んだ黒髪の美女だった。
その名は『ファリス・ロウェイン・リーネ』。
自由騎士ファリスの名で呼ばれるNPCであり、エキストラデラックスの一人でもある。
大賢者やブリュンヒルデと比べれば、その実力は劣るが、レベルの設定は現段階で80。
運営スタッフ三人は60である。
勝てる訳が無い。
しかも彼女の後ろにはもう一人――
「神のお導きですね」
そう言ってニッコリ微笑む悪魔――いや、聖女アイリスが立っていた。
彼女のレベルもまた80である。
物理攻撃力でいえばファリスの足元にも及ばない。が、あらゆる支援スキルによって底上げされたステータスは、同レベルの前衛職並みとなる。
そのたゆたゆな胸元で光る小さな十字架を握り締め、素手で敵を殴り飛ばす姿はまさに鬼か悪魔だ。
尚、ゲームシステム的には素手ではなく、十字架で殴っていたりする。
そんな解説は横においといて。
運営スタッフ三人は己を怨んでいた。
まず、ゲームマスターキャラとしてログインしなかったことを。
今の魔物使いはNPC同様キャラであり、いくつかチートな能力を付与しているものの、ゲームマスター専用コマンドは使えない。
いつでもどこでも自由にキャラのステータスを弄れるという、公式チートが使えないのだ。
そしてもう一つ。
(こんなヤバいNPCを、プレイヤーと行動出来る設定にしておくんじゃなかったっ)
――と。
「ドドン君、ありがとう。あとは我々に任せたまえ」
「雑魚の相手ぐらいなら出来るぜファリスさん」
「えぇ!? お、俺は無理っすよぉ」
「遠くからピシピシするぐらいなら出来ますけど……」
目をギラギラ光らせていた主たちが集まってくる。多くはドワーフであるが、全員に共通しているのは、弓使いであること。
だか彼らは戦闘に長けたプレイヤーではない。
生産に長けたプレイヤーだ。
戦闘職ではない彼らが何故ここに居るのか。
ここはある意味、戦場での最前線ともいえる場所だ。なんせ目の前に居るのは、襲撃を指揮している魔物使いたちなのだから。
事の始まりはリアル時間での昨日。町長の屋敷で開かれた会議の後の事である。
「じゃあぼくは、知り合いの生産組に連絡付いたし、話をしてくるよ。その後はあちこちの掲示板に書き込んでくるね」
「お、おう」
「公式掲示板はよろしく」
「お、おぉう」
シースターはそう言い残し、ファクトの町にある工房へと向った。
その道中、町長の屋敷付近を通りかかると人目を惹く人物を見つけた。
一人は純白の鎧に身を包んだ女騎士。
もう一人はた胸元に銀の金髪碧眼という、テンプレのような美少女。
(あの二人、確かNPC会議に参加していたような)
二人は真剣な面持ちで会話をしており、その声はシースターにも届いていた。
「モンスターを使った襲撃か……この周辺にある先住民の集落には、魔物使いが居るという情報はなかったが」
「恐らくこの大陸の南側にある都の者でしょう。先発隊の方々も、さすがに南側にまでは調査の手が届きませんもの」
「そうだろうな。我々とでこの北の大地の、いかほどかも開拓できていないのだから」
彼女たちは会話の最中ずっと真剣な面持ちで喋ってはいるが、口以外がまったく動いていない。
まるで機械的な動きではあるが、そこがNPCたる証拠でもあった。
「冒険者に頼るだけでなく、我々も奴等の襲撃を阻止しなければならないっ。この町を――いや、我らの新天地を守らねば!」
「そうですわね。けど……私は出来る限り平和的解決を望みます」
「アイリス。彼らは邪神邪神ワルディガイや闇の女神シレーネを信仰する邪教徒だぞ?」
「豊穣の女神ティモーネは改宗するものを拒んだりしません」
法衣をまもった美少女の言葉にシースターは(改宗させる事前提か。先住民とやってる事は同じじゃん)と内心思った。
「ならばアイリス。先住民たちと話し合う為に、モンスターの襲撃を見逃して、後からやって来る彼らと話しをすると?」
「いいえ。そんな事をすれば、町に被害が出てしまいますわ。そうなっては話し合いの場を設けたとしても、被害にあわれたご家族の方が納得しませんもの」
「その通りだ。襲撃の第一陣であるモンスターどもは倒さねばならない」
「はい。彼らとの話し合いはその後に……今回は全力で町を守りませんと」
「うむ。そうだな。戦いが長引けば冒険者も疲弊するだろう。彼らのためにも早期に決着をつけねば……せめて魔物使いを捕獲できればよいのだが」
「しかし、どこに隠れているのか分からない相手を探すことは困難ですわ」
「あぁ。『発見』と『暗視』と『鷹の目』技能を持つ者が居れば、もしかすると――」
ここまで聞いてシースターは理解した。
これは最初から用意されたクエストなのだと。
その証拠に、数秒後には会話が巻き戻ったではないか。
「モンスターを使った襲撃か……この周辺にある先住民の集落には、魔物使いが居るという情報はなかったが」
「恐らくこの大陸の南側にある都の者でしょう。先発隊の方々も、さすがに南側にまでは調査の手が届きませんもの」
しかしこの通路を通るプレイヤーはほとんど居ない。
町の北側である町長の屋敷周辺には、プレイヤーが利用できる施設が皆無である。混雑を避ける為に選んだ道なのだから、プレイヤーの姿が見えないのも当然だ。
わざわざそんな場所でクエストキーマンを配置しなくても……とは思ったが、これも何かの縁。
シースターは二人に近づき声を掛けた。
「その技能を持っている者なら、いくらでも知っていますよ。お手伝いしましょうか?」
――と。
かくして三つの技能持ちが集まった。
全員が夜でもよく見える『夜目』、隠れたアイテムを発見できる『発見』、遠くを見通せる『鷹の目』技能の持つ。その理由は単純に、採取や採掘をする際に役立つからだ。
この三つの技能を持ち、更に自由騎士ファリスと聖女アイリスのクエストに参加する事で習得したスキルがあった。
『深夜の大捜査線』
暗闇で標的を発見するスキル。
標的の特徴を入力することで、該当物を発見する事が出来る――という、なんともアバウトなスキルだ。
そこでシースターらは、標的を『魔物使い』と設定。
すると、『魔物使い』技能を持つ者が手当たり次第、光って見えるようになる。
これではダメだと、標的を変更。
『先住民の魔物使い』に設定しなおすと、プレイヤーで技能持ちが光らなくなった。
あとはファリスが目星を付けていた場所でスキルを使用し、敵の魔物使いを探すだけだけとなり――
「貴様らにはこのまま大人しく捕まってもらおう」
「抵抗はお止めください。無駄な戦いは避けるべきです」
そう言って二人は武器を構えた。
戦いは避けろといいつつ、しっかりと十字架を構える聖女。
その姿はやはり悪魔だ――と、三人の運営スタッフは思った。
抵抗は無駄。そもそも勝てるはずがない。
なら――
「「降参です」」
こうしてファクトの襲撃担当をしていた魔物使い=運営スタッフはあっさりと敗北。
どこからか突然現れた衛兵NPCによって連行されると、次にファリスたちはガッソへとテレポートした。
十数分後、ガッソでの襲撃担当スタッフも敗北宣言をする事に。
残るは、彼らの支配を逃れたモンスターを駆逐して終わりだ。




