168:英雄の帰還。
まずは開拓村までテレポし、そこから徒歩で南下。
移動の間に襲撃の件をシースターに話す。
「リーダーと名の付くモンスターか。それってネームド扱いじゃないかな」
「ボスクラスじゃないのか」
「まぁネームドだからボスクラスでもあるけどね。ただダンジョンボスよりか、強さとしては少し劣るかな」
ただしドロップ品に関しては、ネームドのほうが装備を落としやすいと話す。
そういや職人連中はネームドを嫌ってたな。
「そりゃあね。装備を作って売るのが楽しいんだ。ぼくらにとっては天敵だよ」
「そっか」
「でもまぁ、ネームドが大量に沸くとなると、皆興味を惹かれると思うよ。そこを重点的に宣伝すれば、わりとアッサリ人は集まりそう」
やっぱそうだよな。
ネームドはファクトとガッソに二十体ずつ。海岸にボス一体。サブリーダーってのもネームドだとしたら……涎が出そうだ。
「ネームドが大量に沸くチャンスだからね。事前にぞれが分かってれば、海岸に向う人員も少なく済ませられるさ」
「だよな。よし――どうやって宣伝すればいい?」
「そりゃあ掲示板とか、町で直接話すじゃないかな。それ以外に無いだろうし」
「うぅむ。やっぱそうなるか」
それでさっき失敗したわけだが……。
「もしかしてさっきの、街頭演説しようとしてアレだったのかい?」
うんうんと頷く。
「なんで水芸なんか……」
「いやさ、ほら。注目を集めたんだし、何かしなきゃなと思って。サ、サービス精神ってやつ?」
「……別の手を考えたほうが良さそうだね」
俺もそう思います。
そうこうしている間にやって参りました、『ポッポ』の森。
襲撃の事はひとまずおいといて、能力石ゲット作戦を決行しよう。
ここは開拓民の村から少し南下して川を渡ってすぐの森だ。護衛クエストでも通った道だが、クエストの時にはどうも次元が歪められていたように、無駄に道のりが長かった。今じゃあの時の半分以下の時間で到着できる。
「護衛クエのときにポッポの大群が居たんだよ」
「た、大群……」
ドン引きしているシースターを横目に、俺は大きな声でポッポを呼んだ。
「おぉ〜い。ポッポさんやぁ〜い」
やぁ〜い、やぁぁい――と声が森に木霊する。
すると――切り株モンスターが出てきた。
「お前じゃねえよっ!」
走って行って怒りに任せて蹴り上げる。
うん。モンスターのレベルに関係なく、ゴミダメージだ。素直に燃やしておくか。
『ファイア』ソードで火あぶりにしたあと、頭上のほうからバッサバッサという大音量が響いてきた。
「来たか!」
見上げるとそこには、数十羽のポッポの群れが。
そして急降下。
〔ポッポォ〕
〔ポッポポッポォ〕
「ぉぶぶぶぶぶぶぶっ」
「うわぁぁぁっ、マジックゥゥゥ!?」
そんなに俺に会えて嬉しいのか!
この可愛い奴らめ。
でも大群で俺に擦り寄ってくるのは、窒息死の危険があるからやめような。
〔ぶぶぶっ。ぶぶぅぶぶ!〕
〔〔ポポォ〕〕
ぷぅに窘められ、しゅんっとした態度で俺から離れていくポッポたち。素直でこれまた可愛い。
そんなポッポたちに、俺はある物と『風斬り羽』を交換して欲しいと持ちかける。
そのある物とは……
「じじゃぁ〜ん! これだっ」
〔ポ?〕
インベントリから取り出したのは、合成ペットフードin木の実!
本当はレア木の実にしたかったんだが、ぷぅが断固拒否したうえに、数が無いので人数――いやポッポ数分用意できないので断念した。
委託に出す予定だった合成ペットフードだが、まぁいいだろう。
団子を一つ取り出し、ポッポたちの前に差し出す。
お互い顔を見合わせて何か算段しているようなポッポたちだが、一羽が近寄ってきて団子を間近で凝視しはじめた。
「先に味見していぞ。不味かったら交換は無しでもオケだ」
〔ポォ〕
不味い――なんてことは絶対に有り得ない。俺の自慢のペットフードだからな。
故に味見が先で構わないのだ。
嘴の先で突くようにして団子を小さく啄ばんだポッポはそれをごくんと飲み込んだ瞬間、カッと目を見開いて、それから狂ったように団子を食べ尽くした。
それを見たほかのポッポたちも、我先にと団子を求めて殺到。そして押し倒される俺。
〔ぶぶっ。ぶぶぶぶぶぶっ〕
〔ポッポ、ポッポォ〕
「ぉぶぶぶぶぶぶぶっ」
「マジックゥゥゥ!!」
死ぬ。窒息死する。
慌てて駆け寄ったシースターが、俺の顔を埋めていたポッポを抱き上げてくれて、なんとか呼吸を確保できた。
「こ、交換だからなっ。一羽ずつ並んで『風斬り羽』一本と交換だ」
必死にそう叫ぶと、ザザっとポッポたちは一斉に整列する。
団子の為にここまで俊敏に動くとは……どんだけ食いたいんだこいつらは。
ぷぅ同様、この丸いフォルムのお陰で嘴で羽を抜く事が出来ないポッポたち。俺の前に来ると翼をブルブルっと震わせて一本落としていく。拾上げればそれが『ポッポの風斬り羽』だというのが分かった。
団子をポッポの頭の上に置いてやる。
すると、落とさないよう気をつけながら少し移動し、そこで地面に落としてよぉ〜く味わって食っていた。
そして次のポッポも同じように翼を震わせて、羽を一本落とす。
この繰り返しで、合計六十八本の風斬り羽が集まった。
〔ポッポ、ポォポポポ?〕
「ぷぅ、なんて言ってんだ?」
〔ぷっぷ、ぷぅぷぷぷ?〕
羽が生えたら、、また来てくれる? だそうだ。
団子目当てか!
団子欲しさに身売りするのか!
「シースター。どうやら定期的に風斬り羽が手に入りそうだぞ」
「え? 本当?」
「あぁ。ただし、団子が前提だ」
「……そ、そうなんだ」
まぁ今回は約七袋分のペットフードだ。委託販売に出しても1400ENほどだし、高くは無い。
この羽から幾つ『能力石』が出るか。良い物がでるかで状況は変わるけど……。
ということで、
「シースター。レッツ分解だ!」
「うん!」
ファクトにテレポし、路地裏で妖しい作業を繰り返す。ついでに、これまで蓄えまくっていたコスライムからドロップした【コスライムが乾燥した粉】――つまり分解粉をシースターに押し付ける。
ドロップ率はそう高くないものの、合成剤の材料集めで倒しまくってたからな。その数は二百を超えていた。
「うわぁ……溜めたねぇ。どうしてこんなに?」
「あぁ。合成剤を作って貰ってるんだけど、その材料がコスライムだのスライムだのから出るんだよ。奴等を倒すのは、ほぼ日課になってるもんだからさ」
「なるほど。じゃあありがたく頂戴するよ。代わりにっていうとアレだけど、何かアクセサリーでも作ろうか? レベル30からアクセサリーの装備が可能になるんだけど、まだ持ってないでしょ」
「おぉ! 欲しいっ。出来れば魔法系の補正が入る奴がいいな。MP回復系でもいいし」
一瞬、分解作業の手を止めたシースターが、本当に魔法補正でいいのかと尋ねてくる。
何を今更……。俺は魔法使いなんだぜ、いいに決まっている!
「おう! あたぼうよ」
「……まぁそう言うなら……どこのアクセがいいか決めててね。イヤリング、ネックレス、ブレスレット、リング。イヤリングは左右片方ずつで違う物を装備できるから。リングは今のところ左の中指だけみたいだよ」
結構装備箇所があるもんだな。
ダークエルフだし、耳長いし、イヤリングもいっぱい付けられるとか、そういう特典はないんだろうか。
こう、耳にジャラジャラと……いや、やっぱりいいです。
ネックレス……褐色肌にプラチナのネックレスとか映えるだろうか。
リングなんてさ、手袋はめるんだぜ。見えないじゃん。それとも手袋の上から?
まぁ合成で外見消した場合なら、リングは映えるかもな。髑髏のリングとか。
「よし、分解完了!」
「え? 早くね?」
どの部位のアクセを作って貰うか決める前に、シースターの作業の方が終わってしまった。
六十八本の羽があったのに、六十八回分解したようには見えない。
「うん。同じ種類のアイテム分解なら、十個単位で一括分解できるんだ」
「あ、そうなんだ」
ペットフードの団子単位から袋単位で合成できるのと同じ原理か。
六十八本の羽の分解結果は――
「石になったのは30で、残りはゴミ化しましたっ」
「半分弱なら、いいほう?」
シースターはこくりと頷く。
更にこの三十個の石の能力がいろいろあって……
『スラッシュ』のダメージ5%や10%アップ。『エアカッター』にも同様にダメージ5%、10%アップがあれば、純粋に風属性ダメージアップってのもある。更にその逆、風属性の防御アップも5%だの10%だのがあった。
変り種としては……
「お、これ。スキル『エアカッター』習得ってのがあるぞ」
「へぇ。技能習得をすっとばして魔法を覚えられるのかぁ。覚えたスキルのレベルが上がるならいいんだろうけど、上がらないならゴミだよね」
確かに。
しかも魔法ダメージは武器とINT依存だ。前衛職や弓職が覚えても、ゴミダメージにしかならない。同じゴミでも『ヒール』は役に立つんだけどな。
だが……
「レベルが上がる前提として、単純に風属性を習得してない魔法系職ならかなり優秀だな」
「うん、そうだね。他の属性魔法スキルとかも、やっぱりあるんだろうか」
「そりゃあ、あるだろ。ただ問題はどのアイテムから属性スキル石が出るかって話になるけど」
言ってから考えてみる。
風斬り羽が風系の『能力石』で、スキル石も入ってたとするなら、火だの土だの、属性漢字の付いたアイテムから出るんじゃね? と。
でも正直、ドロップ品の名前とかいちいち覚えてねぇし、素材かどうかだけ見て、素材じゃないやつはNPCに売却してたもんなぁ。
誰かそういうのに詳しい人、いないかな。
夢乃さんやドドンは情報通っぽいけど……。
「いや、もっと詳しそうな人がいるじゃないか!」
「え? 何の話?」
そう。この世界の住人にして、学者先生が!!
開拓村へと再びやって来たが……この前みたいに鍬だの鎌だので威嚇されたりしないか、今更ながら不安になってきた。
幸い、ゲーム内は夜だ。辺りは薄暗く、外を歩きまわっているNPCも少ない。
こっそりピリカの家を訪ねて、用件済ませてササっと移動しよう。
「NPCが教えてくれるかなぁ?」
「学者って職業だし、たぶん知ってるんじゃないかな。いや、知ってると決め付ければ、大丈夫じゃね?」
トリトンさんなら教えてくれる!
俺はそう期待を込めて、彼らの住む家の戸をノックした。
いつものように元気な足音が聞こえ、バンッと戸が開く。もちろん俺は一歩横にずれ、この戸攻撃を上手く回避した。
そんな俺を見て、パァッと表情を明るくするピリカ。
「わぁぁ、ピリカの勇者様だあぁぁっ」
「お、おいピリカ。大きな声を出すのはやめような?」
「勇者様、勇者様ぁぁっ」
ぎゅ〜っと抱きついて来て離れようとしないピリカ。
お、お兄ちゃん困るんですけど。ほら、後ろの……ね? じさまが凄い顔でこっち見てるんですけど、ほらぁっ!
「へぇ……幼女誘拐って、こういう事なんだ」
「は? な、何言ってんだシースター」
「可愛い孫娘は、儂の目が黒いうちは嫁に出さあぁぁぁぁっん!」
だから違うんだってばぁぁっ!
大賢者のお怒りにあたふたしていると、そこかしこの家の戸がバンバンと開き、ぞろぞろと村人が集まってきた。
ひぃっ。と、取り囲まれるぅ。
「はっ。こ、この方は!」
「先日のダークエルフ様ではありませんかっ」
「おぉ、そうだそうだ。ダークエルフ様だ」
取り……囲まれたが、前回とはちょっと違うような?
まず武器を持っていない。
若干引き攣ったようなのもいるが、大半は笑顔だ。
「ダークエルフ様。先日はとんだご迷惑をお掛けしまして、大変申し訳ない事を致しました」
「同じ種族だからと、奴等の仲間と間違えるなんて。本当に申し訳ねぇだす」
あ、そういう事ね。誤解が解けたから、フレンドリーな対応に戻ったって事か。
それはそれで一安心だ。
「あのぉ、それで……もう一人のダークエルフ様にも、村人一同でお詫びをしたいのですが……」
「霧隠さんか……あぁ、ログインはしているようだ」
フレンド登録をさせて貰っているので、どこのエリアに居るかまでは分かる。所在地が『海賊子孫の隠れ里』になっているので、海賊ダンジョンに行くのか、その帰りかなのだろう。
呼んで欲しいのか尋ねると、全員がまったく同じタイミングで、
「「「お願いします」」」
と、超シンクロする。
どん引きしながら霧隠さんにメッセージを送ると、テレポで迎えに来て欲しいと返事が返ってきた。
「じゃ、迎えに行って来る。シースター、その間にトリトンさんから情報聞きだしててくれ」
「え? で、でも――」
「私に用でしたか?」
名前が出たもんで登場したトリトンさんに、分解で得られる『能力石』を集めたいからといい、ドロップ情報を尋ねに来た事を伝える。
「学者さんなら、ご存知だろうと思って」
「『能力石』……ですか」
「じゃあシースター。あとは任せたから」
シンキングタイムに突入したトリトンさんと、困惑気味のシースターを残して『テレポート』する。
久々感のある隠れ里は、俺の記憶にあるそれと比べると、少し様変わりしていた。
まず大きな違いは、村人が売買を行っている事。
雑貨屋、武器屋、防具屋がそれぞれ一軒ずつ見える。他の町との違いは、建物内での商売じゃなく、屋台販売だって事ぐらいか。
他にも見慣れない、ちょっと大き目の建物が見える。形は……そうだな、木製の蔵みたいな形か。
その蔵内に次々とプレイヤーが入っていく。同時に出てくる人も多い。
なんの施設だろう。
首を傾げて見ていると、周囲の視線が俺に集まる。
言っとくが、光ってないからな!
『霧隠:彗星殿、倉庫前にいるでござるよ』
お、霧隠さんからのメッセージだ。
倉庫前? って、どこ?
そういや倉庫が実装されてたんだったな。俺も素材とかいろいろ持ち歩いてて、インベントリ圧迫してるし、預けておこう。
で、肝心の倉庫は――
「彗星殿ぉ〜っ」
「お? それかっ!」
蔵――の方角から聞こえた霧隠さんの声。近寄ってみると、少し脇のほうに黒尽くめのダークエルフポニテちゃんが居た。
今はしっかりマスクも付けてるし、声もくぐもって聞こえるから一見するとやっぱ男だよな。
「倉庫が建ってたとは、知らなかったぜ」
「そうなのでござるか? 彗星殿はこの村では有名人でござるが」
「え? ゆ、有名人?」
そ、そういえば、さっきから視線が気になるような?
ま、まぁ俺ってばぁ、村人をピーコックから救ったり、村の発展に貢献しちゃったりしてるしぃ?
そんな俺を村人が称えるのも理解できるってもんだ。
「――とだ。孔雀みたい」
「すげぇ。生で見たの初めてだ」
「銅像で見るのも凄いけど、本物は更に色が付いてて際立ってるわね」
「ちょ。本当にあんな格好したプレイヤーがいたとは。しかも何気にイケメン」
「俺なら無理。あんな装備、絶対無理」
「王子様だからこそなのだよ」
はっ!?
称えられてる気配が無い!?
あちこちから聞こえる声は、どう聞いても弄っているようにしか聞こえない!!
「やだっ。光った!」
「おい、今光ったぞっ。どういう仕掛けなんだ!?」
「真剣な眼差しで光る王子様……そそられる」
ああぁぁぁっ! アイドル邪魔過ぎいぃぃっ。
だいたいなんで弄られてるんだ。俺が何をした!
いや、光ってるけど。
助けを求めるように霧隠さんのほうを、振り返るとやっぱりキラキラしてしまう。そして笑いを堪えながら、彼女がある一点を指差した。
その方角は村の中央広場か。
ダダダダダっと走ってやってくると、広場の真ん中に――
俺が立っていた。
ただしそれは、銅像の俺だ。
派手なダチョウ&孔雀の尾羽が尻から生え、マントをばさっとはためかせ、その背にはギターを背負った……ダークエルフ像。
ご丁寧に頭には鳥の巣、更にその中にはぷぅまで居る。
「ぷぅ……俺たち、銅像デビューしてるぞ」
〔ぷぅ〜〕
いい出来じゃない、だと?
いい出来過ぎるんだよ!
しかも台座にはしっかり『隠れ里の英雄:彗星マジック像』なんて書いてあるじゃん!
「なんで俺だけなんだよ! ロックンピーコック倒したのは、俺だけじゃないだろうっ」
そう叫ぶと、周囲の視線が一瞬にして集まる。
「本人だ! ご本人降臨だぞ!」
「おぉ。これが噂の……この銅像、かなり精巧に出来てるじゃん」
「これミニチュア販売とかしないのかなぁ」
しなくていい!
わらわらとプレイヤーが集まってくるので、急いで霧隠さんを連れてあっちの村に戻ろう。
「き、霧隠さんっ。パーティー要請出すからっ」
「ほむ」
承諾したのを確認し、あーだこーだと近寄ってくるプレイヤーから逃げるように『テレポート』を唱えた。
今回のサブタイトルは、ファンタジーアニメのタイトル風にしてみました。
*99話の不運技能の説明を変更。
プレイヤーに対して行われるバフスキルという内容を「使用するバフスキルが全てデバフになる」としました。




