121:マジ、貢ぐ。
「星見……くん」
思わず絶句してしまう。
まさか近所のコンビニで同じクラスの奴に遭遇するとは。
しかもよりにもよって星見かよっ。
こいつ、入学式当日に上級生に絡まれ、相手をノックダウンさせちまったんだよな。
向こうが先に殴りかかってきたのと、星見は入試試験でトップ3内だったとかで説教だけで済んだみたいだが。
以後、クラス内だけでなく、学校中から札付きのヤンキー認定をされている。
イケメンだが、目が鋭くって怖いんだよ。
そんな星見と遭遇するなんて、なんて日だ!
入試直前に他県からこっちに引っ越してきたんだけれども、誰がどこに住んでるとかもサッパリ……。まさか同じ町内なのか!?
「え、えっと……チケ売、使う?」
「……誰だっけ?」
「え……」
こ・い・つ!
そりゃあ俺はお前みたくイケメンじゃないし、残念過ぎるほどにフツメンさ。他県から越して来たのもあって、仲の良いクラスメイトも居ないし、影も薄いだろうさっ。
だからって一学期間同じクラスに居て、まったく覚えられてないって……。
目を付けられて無いと思えば、ある意味ラッキー?
「あぁ、同じクラスの……ごめん、名前、覚えてないや」
顔だけ思いだしやがりましたーっ。
く……ここで名前を教えないと、それこそ目を付けられそうだ。
「み、水村。水村彰人」
「そうそう、水村君だ。君、確か他県から引っ越してきたんだったよ、ね?」
「そ、そうです」
なんでそんな事知ってるんだよ!
いや、入学式翌日のホームルームで、クラスメイト全員で自己紹介させられたけどさ。
ここはさっさと――
「星見君、さ、先にどうぞ」
「え? なんで? ぼく、待ってるからいいよ」
待ってて欲しくないんです!
あれ。星見って、自分の事「ぼく」とか言っちゃうんだ。
なんか印象と違うな。もっとこう、俺様! 的な匂いがするんだけども。
譲り合い作戦が失敗に終わり、嫌な汗を掻きながら震える手で必死に画面操作を行う。
っち。押し間違えた!
背中にプレッシャーを浴びまくってて、落ち着いてポチポチできやしない。
あ、ほらまた間違えたじゃないか。
頼むから、そんなにじっと見ないでくれっ。
「ウェブマネー?」
唐突に星見から声が掛けられる。
そうだよ。集中したいから、黙っててくれっ。
「う、うん。ほ、星見君も?」
「うん。今やってるオンラインゲームの課金用に」
「へぇ。オンラインゲー……え?」
「そこで券種を選択するんだよ。どれを買っても手数料とかないし、好きなのでいいよ。ただ券種によっては購入できる金額の種類が違うんで……お勧めはこれ。五百円単位で選べるから」
な、なんだなんだ?
星見って……なんか普通に親切!?
教えられるがまま、お勧めのウェブマネーを購入。
「チャージはしないの?」
「え、あぁ……後でしようと思って」
「そっか。もしシリアルナンバーの所が印字ミスしてたりしたら、出てくるレシートに書かれた連絡先に電話すればいいよ。どこの店舗で買ったかとか、ちょっといろいろ聞かれるけどね」
「まるで経験者?」
そう尋ねると、星見が笑いながら頷いた。
シリアルナンバーの部分がかすれていて、文字の半分ぐらいが解読不可能だったとか。
「あれ以来、その場でチャージする事にしているんだ。たまにコンビニチャージをすると、コンビニとのコラボ商品をゲット出来るとかやってるからさ。まさにぼくが今プレイしてるゲームもそうだよ」
「え、そうなんだ。ど、どうしようかな……」
「何か特典があるかどうか、確認だけしてみたら? それから考えればいいし」
「な、なるほど。ど、どうやって確認すれば……」
最後は独り言として呟いたんだが、しっかり聞こえてしまったようで、星見が覗き込んで操作を教えてくれる。
ゲームタイトルで検索をし、該当ゲームがあればページを開くだけ。該当ゲームが無い場合もあるが、不人気ゲームとして認定されている物だ。
イマジネーション……アルファベット順もあるんだな。
I……あった。
「お、コンビニコラボ専用ガチャ配布か。ここでチャージするかな。ありがとう星見君。知らないままだと、損してたよ」
振り返ると、星見が画面を見て絶句していた。
「水村君も、IFO、やってるんだ?」
「うん。やって――、『も』?」
頷く星見。
つまり彼もまた、『Imagination Fantasia Online』のプレイヤーだった。
世の中って狭いです。
無事に一ヶ月プレイチケットを購入し、チャージも済ませた。ついでにちょっとぐらい課金アイテムを買ってみようかと思い、二千円分のAQもチャージした。
操作方法は全部星見に教わって。
操作方法を教わっている間思ったのは、案外こいつは優しい奴なのかもという事。
外見で損をしている気もする。
ただ、上級生を殴ったのは事実なので、怒らせると怖い一面もあるんだろう。
「あ、ありがとう。チケ売使ったのって、二年ぶりだったからさ、助かったよ。じ、じゃあ」
「うん。縁があったらゲーム内で会えるかもね。ぼく、生産やってるから、安くしとくよ」
「え、マジで? お、俺、INTマジやってる」
「つ、杖かぁ。杖はちょっと……今はもうお腹いっぱいです」
な、なんかあったんだろうか。連続失敗とか?
お礼を言って店を出て、そのまま帰宅。
帰って来てから、冷やし中華を買い忘れていた事を思い出す。
もう一度コンビニ行く気力は無い。
外は暑いし、早くログインしたいし。
塩おにぎりにしとくか。
『お帰りなさいませ彗星マジック様。一ヶ月のプレイチケットご購入、ありがとうございます。コンビニコラボのガチャが送られておりますが、こちらで開けられますか?』
塩おにぎりを食った後、便所に行ってすぐにログイン。
さっそくガチャが届いているのか。中身のラインナップとか判るのかな?
『はい。こちらはアバター衣装になっております。しかし、三日間限定の期限付きでございます』
「つまりお試し版ってことか」
『はい。お気に召しましたら、福袋から目的の物が出るまでご購入し続けてください』
……なんてあくどいやり口なんだ!
ってか買い続けろとか、どんだけ押し売りするつもりだ。
俺はそんなもの、絶対買わないからな!
ってことでコラボガチャを開けてみよう。
実際のガチャみたいに、パカっと開く丸いケースなんだな。ただし中身が見えない仕様になっている。
ボタンがあってそれを押すと、パカっと開く。
白煙が出て、その中から影が現れた。
やたら小さい、ハート型のサングラス?
『ペット用のアバターでございますね』
「そんな物まででるのかよ!」
《ぷっぷ。ぷっぷ》
「あ? 欲しいのか?」
頭の巣から飛び降りてきたぷぅが、宙に浮くサングラスの前でホバリングを開始する。
まぁペット用だってんなら、ぷぅにやるしかないな。
小さい眼鏡を掴み、ぷぅに掛けてやる。
真っ青な羽毛のぷぅに対し、蛍光ピンクのハート型に黒いレンズのサングラス。
うん。まぁアレだよな。
本人が喜んでいるんだ。何も言うまい。
くるくると回りながら踊るぷぅを見て、とりあえず鼻で笑っておいた。




