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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バージョン1.02(予定)
121/268

121:マジ、貢ぐ。

「星見……くん」


 思わず絶句してしまう。

 まさか近所のコンビニで同じクラスの奴に遭遇するとは。

 しかもよりにもよって星見かよっ。

 こいつ、入学式当日に上級生に絡まれ、相手をノックダウンさせちまったんだよな。

 向こうが先に殴りかかってきたのと、星見は入試試験でトップ3内だったとかで説教だけで済んだみたいだが。

 以後、クラス内だけでなく、学校中から札付きのヤンキー認定をされている。

 イケメンだが、目が鋭くって怖いんだよ。


 そんな星見と遭遇するなんて、なんて日だ!

 入試直前に他県からこっちに引っ越してきたんだけれども、誰がどこに住んでるとかもサッパリ……。まさか同じ町内なのか!?


「え、えっと……チケばい、使う?」

「……誰だっけ?」

「え……」


 こ・い・つ!

 そりゃあ俺はお前みたくイケメンじゃないし、残念過ぎるほどにフツメンさ。他県から越して来たのもあって、仲の良いクラスメイトも居ないし、影も薄いだろうさっ。

 だからって一学期間同じクラスに居て、まったく覚えられてないって……。

 目を付けられて無いと思えば、ある意味ラッキー?


「あぁ、同じクラスの……ごめん、名前、覚えてないや」


 顔だけ思いだしやがりましたーっ。

 く……ここで名前を教えないと、それこそ目を付けられそうだ。


「み、水村。水村彰人」

「そうそう、水村君だ。君、確か他県から引っ越してきたんだったよ、ね?」

「そ、そうです」


 なんでそんな事知ってるんだよ!

 いや、入学式翌日のホームルームで、クラスメイト全員で自己紹介させられたけどさ。


 ここはさっさと――


「星見君、さ、先にどうぞ」

「え? なんで? ぼく、待ってるからいいよ」


 待ってて欲しくないんです!

 あれ。星見って、自分の事「ぼく」とか言っちゃうんだ。

 なんか印象と違うな。もっとこう、俺様! 的な匂いがするんだけども。


 譲り合い作戦が失敗に終わり、嫌な汗を掻きながら震える手で必死に画面操作を行う。

 っち。押し間違えた!

 背中にプレッシャーを浴びまくってて、落ち着いてポチポチできやしない。

 あ、ほらまた間違えたじゃないか。

 頼むから、そんなにじっと見ないでくれっ。


「ウェブマネー?」


 唐突に星見から声が掛けられる。

 そうだよ。集中したいから、黙っててくれっ。


「う、うん。ほ、星見君も?」

「うん。今やってるオンラインゲームの課金用に」

「へぇ。オンラインゲー……え?」

「そこで券種を選択するんだよ。どれを買っても手数料とかないし、好きなのでいいよ。ただ券種によっては購入できる金額の種類が違うんで……お勧めはこれ。五百円単位で選べるから」


 な、なんだなんだ?

 星見って……なんか普通に親切!?

 教えられるがまま、お勧めのウェブマネーを購入。


「チャージはしないの?」

「え、あぁ……後でしようと思って」

「そっか。もしシリアルナンバーの所が印字ミスしてたりしたら、出てくるレシートに書かれた連絡先に電話すればいいよ。どこの店舗で買ったかとか、ちょっといろいろ聞かれるけどね」

「まるで経験者?」


 そう尋ねると、星見が笑いながら頷いた。

 シリアルナンバーの部分がかすれていて、文字の半分ぐらいが解読不可能だったとか。


「あれ以来、その場でチャージする事にしているんだ。たまにコンビニチャージをすると、コンビニとのコラボ商品をゲット出来るとかやってるからさ。まさにぼくが今プレイしてるゲームもそうだよ」

「え、そうなんだ。ど、どうしようかな……」

「何か特典があるかどうか、確認だけしてみたら? それから考えればいいし」

「な、なるほど。ど、どうやって確認すれば……」


 最後は独り言として呟いたんだが、しっかり聞こえてしまったようで、星見が覗き込んで操作を教えてくれる。

 ゲームタイトルで検索をし、該当ゲームがあればページを開くだけ。該当ゲームが無い場合もあるが、不人気ゲームとして認定されている物だ。


 イマジネーション……アルファベット順もあるんだな。

 I……あった。


「お、コンビニコラボ専用ガチャ配布か。ここでチャージするかな。ありがとう星見君。知らないままだと、損してたよ」


 振り返ると、星見が画面を見て絶句していた。


「水村君も、IFOいふぉ、やってるんだ?」

「うん。やって――、『も』?」


 頷く星見。

 つまり彼もまた、『Imagination Fantasia Online』のプレイヤーだった。

 世の中って狭いです。


 無事に一ヶ月プレイチケットを購入し、チャージも済ませた。ついでにちょっとぐらい課金アイテムを買ってみようかと思い、二千円分のAQもチャージした。

 操作方法は全部星見に教わって。


 操作方法を教わっている間思ったのは、案外こいつは優しい奴なのかもという事。

 外見で損をしている気もする。

 ただ、上級生を殴ったのは事実なので、怒らせると怖い一面もあるんだろう。


「あ、ありがとう。チケ売使ったのって、二年ぶりだったからさ、助かったよ。じ、じゃあ」

「うん。縁があったらゲーム内で会えるかもね。ぼく、生産やってるから、安くしとくよ」

「え、マジで? お、俺、INTマジやってる」

「つ、杖かぁ。杖はちょっと……今はもうお腹いっぱいです」


 な、なんかあったんだろうか。連続失敗とか?


 お礼を言って店を出て、そのまま帰宅。

 帰って来てから、冷やし中華を買い忘れていた事を思い出す。

 もう一度コンビニ行く気力は無い。

 外は暑いし、早くログインしたいし。


 塩おにぎりにしとくか。






『お帰りなさいませ彗星マジック様。一ヶ月のプレイチケットご購入、ありがとうございます。コンビニコラボのガチャが送られておりますが、こちらで開けられますか?』


 塩おにぎりを食った後、便所に行ってすぐにログイン。

 さっそくガチャが届いているのか。中身のラインナップとか判るのかな?


『はい。こちらはアバター衣装になっております。しかし、三日間限定の期限付きでございます』

「つまりお試し版ってことか」

『はい。お気に召しましたら、福袋から目的の物が出るまでご購入し続けてください』


 ……なんてあくどいやり口なんだ!

 ってか買い続けろとか、どんだけ押し売りするつもりだ。

 俺はそんなもの、絶対買わないからな!


 ってことでコラボガチャを開けてみよう。

 実際のガチャみたいに、パカっと開く丸いケースなんだな。ただし中身が見えない仕様になっている。

 ボタンがあってそれを押すと、パカっと開く。

 白煙が出て、その中から影が現れた。


 やたら小さい、ハート型のサングラス?


『ペット用のアバターでございますね』

「そんな物まででるのかよ!」

《ぷっぷ。ぷっぷ》

「あ? 欲しいのか?」


 頭の巣から飛び降りてきたぷぅが、宙に浮くサングラスの前でホバリングを開始する。

 まぁペット用だってんなら、ぷぅにやるしかないな。


 小さい眼鏡を掴み、ぷぅに掛けてやる。


 真っ青な羽毛のぷぅに対し、蛍光ピンクのハート型に黒いレンズのサングラス。


 うん。まぁアレだよな。

 本人が喜んでいるんだ。何も言うまい。


 くるくると回りながら踊るぷぅを見て、とりあえず鼻で笑っておいた。

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