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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バーション1.01【始まり】
113/268

113:マジ、看取る。

《みな、儂の為にありがとう》


 晴れ渡った空のように、清々しい笑顔を皆に向けた。

 が、何故か俺だけスルー。

 いや、一瞬俺のほうにも向いたんだけれど、クワっと目を見開いて《ダークエルフ怖い》と呟いてそっぽを向かれた。

 絆創膏を根に持つなんて、なんてみみっちい奴だ。


《そろそろ儂も行くとしよう。あの世でバルーンボが待っておるじゃろうし、あっちでなら仲良く酒を飲み交わせるだろうて》

「そうか。では達者でな」


 未練が綺麗サッパリ無くなったジャックは、攻撃されている訳でもないのにHPがじわじわ減っていき……


「いや待て! 成仏する前にお宝寄こせ!」

「そうだ。俺たちが苦労してここまで来た意味がなくなってしまうっ」


 フラッシュと二人でジャックに詰め寄るが、奴め、俺じゃなくフラッシュにしか目を向けていない。

 意地でも視界に入ってやる!

 こっちかっ、む、こっちだな!


「マジック君、何をやっているのだ?」

「ん? いやな、ジャックがな、俺と視線を合わせようとしないからさ」

《ダークエルフ怖い、ダークエルフ怖い》

「怯えているから止めて差し上げてくださいよ」


 ルーンめ、良い子ちゃん面しやがって。


《おぉ、そっちの若いのは優しいのぉ。どれ、飴ちゃんでも》

「飴なんていらないんで、レジェンド装備にしてください」


 良い子ちゃんじゃなかったのかよ!?


《うーん、お宝のぉ。あったのかのぉ。もう随分昔の事じゃし、ほとんどはバルーンボに持って行かれたしのぉ》


 ほとんどってことは、残ってるってことじゃないか。

 無いか? お宝は無いか!?

 辺りをキョロキョロしていると、いつの間にやら『発見』技能が発動したらしく、何箇所かがキラキラ光って見えた。


「あった!」

「え? どこどこ?」

「マジック氏、俺たち友達だよな!」


 こいつら、本当にげんきんな連中だな。

 一番近くでキラキラしてるのはジャックが座っていた椅子だ。

 奴が座ってたぐらいなんで、当然でかい。赤い布がすっぽり被せられていたので、その布をペロリと捲ってみる。


《おぉ、そういや生前、バルーンボに裏切られ、落ち込んで椅子に座ったとき何かを落としたような気がしたわい》

「何も無いぜマジック氏」

「いや、ある!」


 発見技能が無ければ見つけられないようだな。

 手を伸ばし拾ったのは短剣だった。

 座るとき、椅子の縁に当たって落ちたんだろう。


「うぉ、短剣じゃん! マジック氏、どこからそれを!?」

「さすがマジック君だな。見事な手品だ」


 誰がマジシャンだつうの。


「発見っていう技能なんだよ。落ちてるだけの時点では、技能持ってない奴には見えないんだよ。技能持ちが手にした瞬間、突然沸いたみたいに見えるんだ。あ、まだなんか落ちてるな」


 今度は巾着袋だった。

 中身は金と宝石っぽいのがいくつか。換金アイテムだな。


「よし、ここはこれで最後だ。次行くぞ!」

「ついていきますっ」

「俺も!」

「ボクも!」

「私もだ!」

《ぷぅぅ!》


 インディーさんだけが声を上げない。

 だが、彼は俺が拾った短剣をじっと見つめていた。






 朽ち果てた船、奥の壁。

 この二ヶ所で装備と素材をゲットした。残念ながらレジェンド装備は無かったが、レア素材がかなりの数手に入った。


《素材はかざばるから、バルーンボの奴め、置いて行きおったんだの》

「こっちとしては有り難い事だぜ」

「もしかして、バルーンボが死んだ場所って、お宝だらけなんじゃ?」

「そこか?」


 さっき奴がシュミットに止めを刺されて光の藻屑になった場所を見る。


「いやそうじゃなくって、生身だったバルーンボがって事」

「どこで死んじゃったんですかね?」


 そういえば、この海で死んだとは言っていたが……じゃあ海底に?

 ありがちな内容だが、海底となるとどうやって拾いにいったものか。

 潜水技能とか?


《昔、この海域のどこかに海底ダンジョンがあるとかいう噂を聞いた事があるの。それがどこなのか、儂は知らぬが。あぁ……なんだか体が軽くなってきたわい》


 あ、ジャックの足が完全に消えてしまってる。HPも残り一割も無いじゃん。


《みな、本当にありがとう。君たちの事は――ダークエルフ怖い――忘れんぞ――いや、ダークエルフは……》

「さっさと成仏しやがれ、絆創膏『ヒ――』」

《ダークエルフ怖い、ダークエルフ怖い、ダークエル――》


 っち。ヒールが完成する前に逝きやがったか。

 こうしてジャックは皆に看取られながら、天国へと旅立っていった。






 ダンジョンを出るのは楽で、ジャックが消えると椅子の裏に転送陣が現れた。

 それに乗るとロックンピーコックの巣の真後ろに。


《チュンチュン》

「お、チュン達じゃないか。もしかして待っててくれたのか?」


 出迎えたチュンチュンに声を掛けると、何故か一斉に首を――いや胴を傾げる。

 違うのかよ。


《チュッチュチュ。チュチュン》

《ぷっぷぷぷ。ぷぷぅ》

「は? ロックンピーコックの巣が気に入ったので、皆でここに住むことにした?」


 大きな鳥の巣には、数十羽のチュンチュンが団子になってひしめき合っていた。

 鳥狂の連中が見たら、ここは天国だと勘違いしそうだな。


 チュンチュンたちに別れを告げ村へと戻って海賊ダンジョンの事を報告する。


「そうでしたか。海賊頭のジャックさんは、友に裏切られ……」

「まぁ今頃あの世で楽しく酒を飲んでいるだろう」


 括弧タブン。


 ここではこれといってイベントは発生せず、ダンジョン攻略の報酬なんてのも当然無いままお終いとなった。

 ロッククライミングで壁登りの練習をする村人を見上げながら、ふと浮かんだ疑問を口にしてみた。


「なぁ、ジャックってリポップするのかな?」


 リポップ。再び復活するという意味だ。

 モンスターは一度倒されても、一定時間が経つと復活する。まぁ復活するというか、そうしないとゲームとして成り立たないからな。

 それはボスモンスターだって同じ事だ。一部のイベントボスは対象外だが。


「どうでしょう……成仏してますしね」


 ルーンが首を捻りながら言う。

 そうなんだよな。成仏してんだよな。

 これでリポップしたら、なんていうか……イベント台無しみたいな?

 でもそうなると――


「ボス不在のダンジョンに、価値はあるのだろうか?」


 という事になる。


「ボスが居ないのであれば、レジェンド装備も素材も手に入らないのだろう?」

「まぁそうなるね。レア素材までなら低確率で一般モブからも出ますけど」

「ボスが居ないんじゃあ、入る価値は無いな」

「無いよなぁ、やっぱ」

「「ははははは」」


 乾いた笑いが込み上げてくる。


 あれ……もしかして俺たちって、余計な事しちゃったかも?


 


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