はち
「で、お前はどれにするんだ?」
「…じゃあ素うどんで」
「遠慮すんなよ!
じゃあおかず付きでうどんセットな、おばちゃーん!うどんセットとAランチ!!」
学食なんて久しぶりだ。
なんせ学食には女子だっているからあんまし行きたくはないんだが、今日は特別だ。
俺は今隣でお金払ってる紅さんに約束通りご飯を奢ってもらっている。といっても一方的に約束させられたのだが。
まぁとはいえ俺はなんだか不思議な気分でいた。
女子のそはにいるのにくしゃみがでない…。なんていうか、素晴らしいことだ!
今まで俺にとって女子というのは神に近い存在だった。触ることができず、余りに遠い存在。それが今隣に並んでいるのだ。普段青木と話したりするのとは全く訳が違うのだ。
「おいどうした?さっきから上の空になってるぞ?」
「ぶぇ?…あぁごめんごめん」
確かに見た目も口調も男っぽいが、それでもやはり近くでみると女子である。
そりゃ上の空にもなってしまうかもな。
・・・・・・・・・
「ねぇねぇ、あれって二年の…」
「ってか一緒に食べてんのって3組の…」
「まさかあの二人…」
ざわ… ざわ…
…なんだ?なんかさっきからすごく見られてる気がする。俺はまわりの女子の妙な視線を浴びてる気がしてやや気分が悪かった。なんか食欲も急に落ちてきたし。
「どうした?うどんのびちまうぞ
…もしかして、迷惑だったか?」
「いやいや大丈夫!そんなことはないよ!」
「そっか、ならよかった」
そういって安堵の表情を浮かべる紅さん。ランチのカツを勇ましく食べるその姿はとても女の子らしくはないが、心配してくれる様子はやっぱり女の子なのだ。
俺はアレルギーが発症する前の、女の子と話して少しドキドキする新鮮な気持ちでいた。まぁあの頃は幼稚園だったけど。
でも、なんかこうアレルギーの症状なく、女の子と近くで話せてることがとてもうれしい。
それからおれらはありきたりな話をしながら昼飯を食べた。国語の岡部は顔が外人みたいだとか、数学の勝田は教科書ないと授業できないとかそんな話。
ほぼ食べおわり、そろそろ学食を出ようとした時だった。
食器を片付ける俺に向かって紅さんは話し掛けた。
「なぁ、お前って、うちのことを女の子みたいに接してくれるよな。」
「…ん?」
なにいってんだ?と思った。
「当たり前じゃん。女子だろお前」
「いや、それはそうなんだけどさ…うち男っぽいからさ。」
そういいながら隣で食器を片付けている紅さん。どうやら男っぽい所を少し気にしてるようだ。
…やっぱ女の子なんだな。
「いやいや、紅さんは女子にしかみえないよ、完全な女の子だ。」
「え?」
紅さんは少し驚いていた。
そりゃあ最初は男と思って助けたさ。でもこう話してみると、やっぱり女の子だったよ。アレルギーに反応しない所でさらに意識してしまってるのはあるかも知れないけれど。
「それに、出るとこは出てたしな、胸とか」
「…む」
…やべ、余計なこといってしまった。
「この変態め!」
べちっ!
おもいっきりビンタされた。女の子に。でもアレルギーがでない。嬉しさ半分痛さ半分である。
ってかボクシングやってるだけあって、超いてぇよ!!
紅さんは俺を睨み付けていた。しばらくして気が済んだのか向こうをむいた。そして顔だけ少し振り返り一言。
「…また、学食誘っていいか?」
「え?まぁ、大丈夫だけど」
「そっかよかった!じゃあまた今度な!」
そういって彼女は教室へ行ってしまった。
とびっきりの素敵な笑顔と共に。
「…かわいいな」
あれ?俺今なんていった?
じんじん痛む頬を押さえながら、俺はその場に突っ立っていた。




