よん
「食事中すまないね、今いい?おっぱい野郎」
「………」
「おーい、聞いてんのか?おっぱい野郎」
静まり返った教室の中、俺はこの女におっぱい野郎と連呼されている。
…あ、あの森野がドン引きしてる。青木にいたっては世界の終わりを見たかのような顔してやがる。
「おい頼むからおっぱい野郎ってのはやめてくれよ、クラスメイトに嫌われてしまう」
もうすでに友達を失いかけてる気がするし。
「そうか仕方がない、じゃあ、えーと…」
「佐藤だ。」
「じゃあ佐藤。ちょっと時間をくれ」
そういって彼女は俺の手をつかみ廊下の方へと引っ張りだした。
俺は抵抗しようとしたが、相手が余りに強すぎて何もできなかった。
ってかやっぱりくしゃみでないな。
引っ張られながら教室を見る。みんな俺を見ている。
…なんだ、この恥ずかしさは。
・・・・・・・・・
「…ほれ、昨日落としてったやつ」
手渡されたのは俺の定期だった。あーここに落としてたのか。
「あ、ありがとう」
「いいよ、あとそれから…
お前には礼を言わなくちゃな。ありがとう」
「え?」
「ほら、あのときウチをたすけてくれただろ?」
そういえばそうだった。確かトラックにひかれそうになったんだったな。
正直、おっぱいのことしか覚えてなかったぜ。
「…お前、ウチの胸触ったこと反省してねぇだろ?」
「い、いやそんなことないよ!確かに初めて触ったしすごくやわらかかったけど」
「…死にたいか?」
その時の彼女の目が余りに怖かったので、俺はおっぱいの話を止めた。
…ホントに殺されそうだし。
「…まぁいいや、それでお礼がしたいんだ。明日の昼休み時間ある?」
「ん?まぁあるけど?」
「じゃあ学食来てくれよ、ウチが奢るからさ」
そういって彼女はにこっと笑った。こううちの高校の制服を着て、こんなふうに笑えば彼女も普通の女子高生なんだなぁ、なんて思った。
「じゃあそういうことで、また明日な!」
そういって歩きだす彼女。ってちょっと待て。
「待った!
…名前、教えてくれる?」
彼女はくるりと振り返ってこちらをむいた。そして一言。
「ウチの名前は紅 香 (くれない かおる)。じゃあまた明日な!」
…紅さん、かぁ。
まさかこんな形で再会出来るだなんて。
俺はなにやら運命めいたものを感じながら、ウキウキ気分で教室に戻った。
…が、すぐに現実に戻ることになる。
「…で、さっきのはなにかな〜?おっぱい野郎」
…青木さん、そんなに不機嫌な顔してたら体に悪いですよ。




