39.玉手箱オーバードライブ
抱き合って、再会をひとしきり喜び合った後。
ふと、サラが思い出したかのように、蘇生した母親である女王から離れて、マーメイジを向いた。
「ちょっと! あんたどういう事よ!」
ここからサラがマーメイジの糾弾が始まると分かった俺は、静かに離れて距離を取った。
「ひ、姫様。どういう事とは――」
「あたしにした事! 地上でしゃべれなくて、足も歩く度に痛くて大変だったんだからね」
「なんですって」
女王の形のよい眉はひくっ、と跳ね上がった。
「マーメイジ、あなた、サラが地上にいった手助けをしてたというの」
「そうだよお母様。マーメイジがひれを足にした方がいいっていってやってくれたんだけど、それでしゃべれないわ痛いわ海に戻って来れないわでさんざん!」
「話が違うわよ、マーメイジ」
「そ、それは……」
たぶん本人も色々言い訳を考えてるんだろう。
だけど女王と、王女。
二人に糾弾されて何も言えなくなっていた。
サラがいなければ口八丁で誤魔化せてたんだろうがな。
ダメ押し、しとくか。
「ねえ、女王様」
「この人間の子何者?」
「彼はマテオ! あたしを元に戻してくれたのと、お母様を生き返らせたのよ!」
「生きかえ……?」
「そんな事よりも、女王様の体にも毒があったんだけど、心当たりがある?」
「毒?」
またまた、眉がビクッとなる女王。
「うん、慢性的な毒で、心労のせいで体が徐々に弱っていく風に見える毒」
これは、推測だった。
毒にかかってるのは分かる、しかしそれがどういう毒なのかは分からない。
だが、この手の話は物語で良く読んでいる。
ゆっくりと、穏やかな乗っ取りをするときに使われる手だ。
その知識半分、実際に確認したもの半分。
それを合わせたものを、自信でコーディングして言い放った。
すると――。
「くっ!」
マーメイジは身を翻して逃げ出した。
女王の寝室の中を泳いで、出口にものすごい勢いで逃げていく。
「……きたか」
母娘の再会の時に離れた俺は、その進路上にいた。
逃げ出すと思って、ここを塞いでいた。
「子供が! どけええ!」
マーメイジは鬼のような形相で突進してきた。
俺は剣をぬいた。
「そんなおもちゃ!」
マーメイジは更に速度をあげて突っ込んで来た。
おもちゃに見えるのは、刀身がなかったから。
オーバードライブ。
通常の刀身が溶けて、無形の刃になった。
すれ違いざま、俺は無形剣をふるった。
無造作に、袈裟懸けに斬った。
無形の刃故に、マーメイジは避けずに突進してきて――そして斬られる。
「がはっ……な、なぜ……」
斬られて、失速して、地面に頭から突っ込む。
「サラさん」
「え? あっ、そ、そいつを捕まえて!!」
俺がマーメイドを斬った光景に戸惑うサラを気づかせて、マーメイジを捕縛させた。
とりあえず、一件落着って所だ。
☆
宮殿の広間で、宴会が開かれていた。
唸るほどのごちそうがでてきて、人魚達が踊り、歌い、俺を楽しませようとしている。
この世のものとは思えないすごい光景だった。
きらびやかで、幻想的で、美しく。
それを俺のためにやっている。
ちょっとだけ、ふわっふわしてくるのを感じた。
「どう? たのしいマテオ」
俺の横につきっきりでいてくれるサラが聞いてきた。
「うん、楽しいよ」
「よかった。人間ってなにをすれば嬉しいのかよく分らないけど、楽しんでもらえてよかった」
「や、これなら大抵の人間は嬉しいよ」
こんな大宴会。
自分一人のために開かれているという事実だけで、大抵の人間は嬉しくなっちゃうものだ。
「それならよかった。これまだまだ序の口だから、最後まで楽しんでってね」
「序の口? どれくらいやるのこれ」
「三年位かな、みんなの喜び方をみると」
「三年!?」
驚きすぎて、悲鳴に近い声がでた。
「うん! お母様助かったし、あたしもたすかったし。それでみんなが嬉しがってるでしょ。こんなに嬉しい時って、大体三年くらいぶっ通しでやるから」
「ちょっとちょっと、それはちょっと困るよ」
「え? なんで」
「さ、さすがに三年もここにいられないよ。僕はやることやったし、陸の上で陛下がまってるから、帰らなきゃ」
「そんな!?」
今度はサラが悲鳴のような声をあげてしまった。
「帰っちゃうなんてやだよ! ねえもっといて、うーんとサービスするから。ねっみんな」
「「「お願いします!!」」」
サラに振られて、踊っていた人魚も、演奏してた人魚も、料理を次々と運んでくる人魚も。
全員が俺に土下座っぽく頭を下げた。
っぽくっていうのは、人魚に足はないから、人間の土下座と違ったり、半分くらいの人魚は空中――じゃなくて水中に浮かんだまましてるからだ。
サラを始め、全員が俺を引き留めようとしてる。
ここまでの歓迎だと少し心が揺らぐ――が。
「やめなさい、サラ」
そこに、女王がやってきた。
広間にあっても、その巨体は大きく感じられた。
不思議な人だ。
人間の数倍はある巨体なのに、見た目はむしろ童顔で幼く見えるというギャップ。
人魚の女王ってこういうものなんだろうか。
などと、俺がおもっていると。
「感謝の気持ちは大事ですが、それで恩人様の行動を制限してはただの押しつけにしかなりません」
「うぅ……」
「申し訳ありません、恩人様」
幼げな人魚の女王は、しずしずと俺に頭を下げてきた。
「娘にも悪気はないのです。責任は、娘に人間の時間感覚を教えなかった私にあります」
「ううん! そんな頭をあげて!」
俺はちょっと慌てた。
女王にそんな事をされるとパニックになってしまう。
「気持ちは嬉しいから、本当」
「ありがとうございます。では、今日一日だけ、私達の気持ちを受け取っていただけますか」
「うん、ありがたく」
感謝の宴が一日なら何も言うことはない。
純粋に受け取って、楽しめる。
俺は頷いた。
「それよりも、その恩人様というのは……」
「いけなかったでしょうか」
女王は少しシュン、となった。
「私の命の恩人でしたので、そうお呼びさせて頂ければと思ったのですが……」
「むむっ……そ、そうだね」
こっちは、辞退できそうにないようだ。
レイズデッドでの蘇生。
確かに命の恩人だけど、恥ずかしかった。
恥ずかしいけど……しょうがないか。
……まあ、いっか。
深く考えないで、この宴会を楽しもう。
☆
翌日、宮殿の外。
女王とサラ、そして大勢の人魚達が俺を見送りにきた。
「本当にありがとうございます、恩人様」
女王がまた頭を下げた。
皇帝とは違って、人魚の女王はあまり偉ぶらないタイプみたいだ。
いや、そういう種族なんだろうなと思った。
女王が俺に感謝して、俺がフレンドリーに話しても周りの人魚達はそれを止めない。
これが地上、皇帝なら大臣の誰かが小言を言ってきてるところだ。
それがここではまったくない、そんな気配すらない。
国と言うよりは、でっかい家族的な雰囲気がある。
「恩人様、これを」
女王は人魚の一人から箱を受け取って、直々に俺に差し出した。
小さな宝石箱だった。
あけると、シンプルなデザインの指輪がある。
「これって、なに?」
「恩人様への贈り物です。是非、地上に戻ってからお開けください」
「わかった。ありがとう」
「じゃあ行こうマテオ」
サラはそう言って、俺を抱っこして、飛び上がった。
不思議な感覚だ。
泳いでいるとも、飛んでいるともつかない不思議な感覚。
サラに抱っこされて、あっという間に海の上、砂浜に戻ってきた。
「ふぅ」
思わず肺の中の息を吐き出した。
普通に過ごせていた海中だったけど、やっぱり本当の陸上に戻ってくるとなんか違う。
良い悪いじゃなく、なんかが違う。
「ありがとう、サラさん」
「ううん、こっちこそだよ」
「そうだ、これはもうあけちゃっていい?」
「うん!」
俺はお土産の箱をあげた。
中にはシンプルなデザインの指輪があった。
「これは?」
「海の中にいたときって、あたしの力でマテオが普通に行動できるようにしてたじゃない」
「うん」
「それと同じことができる指輪。つけてると、海の民じゃなくても、普通に水中で過ごせるようになるの」
「へえ」
「だ、だからね」
「え?」
「たまにでいいから、会いに来てくれたら……うれしいな、って」
サラはもじもじして、赤くなっていった。
なるほど、そういうことか。
それなら、断れないな。
「ありがとうサラさん、遊びにいかせてもらうよ」
俺はそう言って、指輪をつけた。
瞬間、指輪が「溶けた」。
「え? な、なに」
溶けた指輪は光をはなった。
その光のまぶしさに、目を覆いながら不思議がるサラ。
「大丈夫だよサラさん、僕が魔法アイテムを着けるとこうなることがあるんだ」
無形剣、オーバードライブ。
ある一定以上のランクの魔法アイテムを着けると、魔法アイテム自体の形が変わる。
そして、能力も変わることがある。
どんな能力なのかな……と、思っていると。
体が光った。
そして、景色が一変した。
「マテオ!?」
「え? あれ」
目の前にいたサラが、いつの間にか背後にいた。
いや、違う。
俺が移動したんだ。
サラの背後に。
「な、なに。なにをしたの?」
「もしかして……ねえサラさん、僕につかまって」
「う、うん」
俺が差しだした手を、戸惑いながらもつかんだサラ。
俺はもう一度同じことをした。
今と同じことを、ちゃんと意識してやった。
すると――また景色が変わった。
今度は宮殿の前だ。
女王と人魚達が海の上を見ている、宮殿の前に戻ってきた。
「お母様!? こ、ここは?」
驚くサラ、それは女王も同じだった。
「サラ? いつの間に――恩人様も」
「そっか、そういうことか」
俺は手をみた。
溶けてみえなくなった指輪のあるあたりをみた。
「どういうことなのマテオ?」
「うん、みんながくれた指輪の新しい力が目覚めたんだ。どうやら、水のある場所ならどこでもすぐに飛んでいけるみたい」
「えええ!? 何いってるのマテオ、そんな事ありないって」
「実際そうなってる――」
んだけど、といいかけた俺だが。
「……もしかして」
女王が俺を見つめ、真顔で言う。
幼げな顔に真剣な顔はギャップでの相乗効果で綺麗に見えたが――直後の言葉がそれどころじゃなかった。
「海神様の――生まれ変わりなのですか?」
「え?」
えええ!?
海神って、なんでまたそんな――。
あっ、水の中を自由に瞬間移動できるから?
「えっと……」
嘘とか冗談とかじゃないようだ。
よく見れば、女王だけじゃなく。
海神と聞いた瞬間、サラも、他の人魚達も。
さらにワンランク上の、尊敬の眼差しを向けてきたのだった。
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