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君と涙

「あはははっ!! 騎士って! 騎士って!!! マジウケる!! そんな立派なモンじゃねーよ。仲間と一緒に喧嘩ばっかしてる、チンピラみたいなモン」


 アカリの両親は騎士や兵士ではなかったらしい。けれど領土を守るチンピラなんて存在するのだろうか。


「ってか、まぁ、そんな家庭で育ったから、あたしも口は悪いしさ。弟たちの面倒見なきゃけないからロクにダチとも遊べないし、学校行ってもセンコーに目を付けられるわで嫌な事も一杯あったけど……」

「……けど?」

「あたしは、……大好きだった」


 その一言で十分だった。彼女の言葉には意味の分からない単語も沢山あったけれど。それだけで侍女の報告は嘘ではなかったのだと僕は確信した。


「そうですか」


 言い終わると俯いてしまうアカリ。

 下を向かないで。気づいてあげられなくてごめん。本当はずっと孤独で寂しかったんでしょう? 意地っ張りな君はそれを誰にも言わずに笑っていただけで。


「アカリ」

「……何?」

「ありがとうございます」

「別に、礼なんか……」

「アカリの話を聞いていると目に浮かぶようです。本当に、ご家族が大切なんですね」

「…………」

「寂しいですか?」

「……っみしくない訳無いだろ!! 馬鹿!!」


 キッと自分を睨みつけてくるアカリ。それでもそこに涙は無い。それが、僕は悔しい。


「だって、アカリは泣かないじゃないですか」

「何言って……」

「レビエント殿下もレティシア姫も、侍女達だってアカリを心配しています。でもアカリは誰の前でも泣かない」

「それが何だよ」

「僕達では頼りになりませんか?」

「…………」

「城の者は皆、貴方の力になりたいと思っています。そう思う程には貴方を大切したいと思っている。けれど、アカリは誰にも心を開かない」


 黙って独りで泣いているのは、アカリが誰も信用していないから。自分の弱さを見せてもいいと思える相手が傍にいないから。甘えられるほど気を許している相手がいないから。


「此処は泣き場所にはなりませんか?」


 僕は、アカリの力になりたい。もっともっとアカリの心に触れたい。


「アカリ。貴方を心配する程には、皆あなたが大切なのですよ」

「…………イースも?」

「えぇ。僕もです」


 涙が零れる。一粒。二粒。それはやがて堰を切ったように溢れ、彼女の頬を濡らしていく。

 僕はちょっとおかしいのかもしれない。女性の涙を見て喜んでいるなんて。


 洗いたてのタオルを彼女に差し出した。それに顔を埋め、肩を震わせるアカリ。その細い肩をそっと抱いて頭を撫でた。アカリだってまだ少女なのだ。大切な家族と引き離されて、寂しくない訳がない。

 とても残念な事だけれど、その寂しさは家族の下へ帰る事でしか埋めることが出来ないのだろう。

 

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