のしかかる現実
それから数回の戦いを経て、救界戦隊レスキューワールドは目を覆いたくなるほどひどい戦果を叩き出す。
精彩を欠いた戦いぶりによって、レスキューワールドの三人だけではヴィランを仕留めることが出来ず、助っ人に入ってくれたジーニアスやホリィの活躍だけでなく、飛彩が率先してヴィランを仕留めること異世化を免れてきたのだ。
もちろんお茶の間に激闘が提供される前には上手く編集され、ヒーローのピンチに駆けつけた頼れる戦友たち、という楽観的なコラボレーションでレスキューワールドの人気が衰えることはなかった。
だが、飛彩が戦った時は話が別だ。
ヴィランの攻撃でカメラが破壊されたことにして、映像が民衆に届かないような措置が捉えている。
つまりレスキューワールドを支援する企業にとっては、みすみすその宣伝機会を失うことになるのだ。
世界をいくら守ることに成功しても、資金援助しているスポンサーたちにとっては、その戦いは失敗や敗北といったものに他ならない。
「……以上が君たちのグッズの売り上げだ。予測より十パーセント多い。さらに最近の視聴率も悪くない」
ヒーロー本部の応接室に呼び出された熱太、エレナ、翔香の三人は、自分たちの担当官とスポンサーと対峙する形で座らされていた。
苦戦する戦いぶりとは反比例する人気。
それも広報部や制作会社が上手く隠してくれているだけだということも熱太は理解できていた。
「ただ……これ以上、仲間の手を借りて戦っていたら飽きられると?」
「——言いにくいが、な。私の力ではどうにも止められんよ」
スポンサー会社から説明に来ている初老の男はこけた頬を撫でながら厳しい視線を送った。
このまま失敗が続くようならヒーローとしての存在価値はないぞ、と暗に示すようで、異世界からの侵略者と戦っている戦士といえども身が竦む。
それもそのはず、彼らはまだ高校生なのだから。
「我々は精一杯戦っています」
リーダーとして気丈に振る舞う熱太。
ここで怯めばエレナや翔香が余計な重荷を背負ってしまうことを認識し、たった一人で矢面に立とうとしているのだ。
自分たちの担当官は結局サラリーマンで、スポンサーたちに頭が上がらないことも理解した上で。
「ヒーローによるヴィラン撃退の戦いは官民一体の事業……世界が滅ぼされるかもしれないのに、何故国が主導しないか分かるかい?」
「世界のために戦いたい、それに賛同してくれる企業の方々がいてくれるからでしょう?」
「残念だが……結局は金になる。ただそれだけだよ」
「——っ……!」
今まで快勝を続けてきたレスキューワールドは値踏みされるような目にあったことがなかったが、ヒーローですらこの世界は金儲けの道具に過ぎないのか、と仕組みへ苛立ちが募っていった。
エレナも汚物を見るような目つきで初老のスポンサーを睨む。
「これも申し上げにくいことだが……君たちが結果を出せなければ世界展開は没収。再び試験をして新しい中身を募ることになる」
英雄は富豪の掌の上にいる、その事実に熱太はヒーローらしからぬ衝動にかられそうになった。
素早く察知したエレナが腕を抑えなければ、この場所は強盗と揉み合ったように荒れた状態になっていただろう。
「負け続ければ……辞めさせられる……?」
虚ろな瞳で男の言葉を解釈した翔香。
そこから漏れるのは絶望の息と何かが見え隠れしているようで、エレナがすぐさま肩に手を置いた。
エレナも本当は誰かを頼りたいだろうが二人を献身的に支える役を自ら買って出ている。
「二人とも……勝てばいい。ただそれだけよ。私たちはお金のために戦ってるんじゃない」
「——そうだな」
「はい……」
その後、男は事務的な話をしてそそくさと去っていった。
体を張って戦っているヒーローに、会議室で居眠りしながら未来を想像する連中の言葉を伝えるには大きな心労が伴うのだろう。
いたたまれない空気に耐えられなくなったのか、担当官も口をもごもごさせながら退出していく。
本来色とりどりの戦隊のはずが、まるで真っ黒に染まったように重苦しい影を落としている。





