情報と経歴2
「あー、今から言うことには全て意味がある……と思ってるから誤魔化そうとしてるわけじゃないって前置きしとくね。怒られたくないし」
「そんなに厳しい人間ではないが?」
「…………」
これにまでツッコミを入れたら話が本当に脱線してしまう。その予感を咳払いと共に何処かへと飛ばす。
「まずは蘭華ちゃんの話から。かなー」
「何故飛彩について……いや何も言うまい」
前置きの言葉が耳に残っていた黒斗は瞳を閉じて腕を組み直す。
蘭華の情報が必要になる理由が全く分からないようで、気難しい顔がさらに強張った。
「飛彩はヴィランズの侵攻で天涯孤独となったけど……同じように孤児になった子供は沢山いる。蘭華ちゃんもその一人なの」
必要以上にヴィランズに近づいてしまい、護利隊の正体に近づくようなことがあった場合、その子供は組織が育てるのが一般だった。
飛彩もかつて護利隊に救助された過去がある。
「歳の近い二人は自然とタッグにさせられたわねー。まあ、今でも仲良しだから全然いいと思うけど。蘭華ちゃんは飛彩と違ってなかなか現実を受け入れられなかった」
ただの子供を引き取って秘密裏に兵士として育てるという非人道的な行為に近いこともあり、見込みがない者、心が折れる者は放流されていた。
命を救うからには世界に尽せ、と言わんばかりのスパルタ教育に着いていけない者の方が自然で、組織も着いてこれる数人のために保護を申し出ているようなものだった。
そう、弓月蘭華は足手まといの筆頭だった。
今でこそ狙撃術や偵察能力などの援護能力に秀でているが、その昔は飛彩の後ろに隠れるだけのおどおどした少女だったのだ。
黒斗は、偶然にも混ざっていた蘭華の資料に一瞥をくれる。
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名前:弓月蘭華
所属:護利隊 司令直属班
性別:女性
身長:157cm
体重:プライバシー保護の観点から、見えないようになっている
世界展開:個人領域
戦闘スタイル
個人領域の透明化を利用した遠隔狙撃。
攻撃能力は隊員の中では低い方だが、後衛支援の能力に長けており、遠距離射撃にハッキング、潜入などなんでもこなす。
『特記事項』
特になし。
メモ
美貌から学校では人気者のようだが、仕事柄深く関わるようなことはしていないらしい。
飛彩と常に一緒にいるせいか、趣味も少年がやるようなものに偏っており、カードゲーム同好会の姫状態になる時もしばしば。
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小さかった頃を思い出せるくらいに関わりのあった黒斗だからか、メイの語った情報を知らないはずもなく、ますます不可解の海に浸かっていく。
この情報の何が飛彩の封印された力に繋がるというのか。
「でも……蘭華ちゃんは、同じ境遇の飛彩を放っておいて逃げ出す勇気もなかった」
「だからこそ、蘭華は今でも飛彩と共に戦っている……違うのか?」
「……とある訓練で事故が起きた時、蘭華が機材の下敷きになる大事故が起きた」
聞いたことのない情報に黒斗の眉が動く。もしかして、と言葉を続けるより早くメイはその時のことは隠匿したと話した。
心の中で憤りを感じつつも昔の話を咎めても話は進まないと諦める。
「その時よ」
もったいぶって話していたメイの声音が真剣なものへと変わった。
全然関係のないと思っていた蘭華の昔話が飛彩の力と交差する。
「飛彩は助けられた時もヒーローを護りたかったと話していたように……誰かを守ることで力を発揮する」
「——すでに、力の片鱗を見せていたのか」
「ええ……」
訓練スペースで武器コンテナなどの機材を用いた実戦的な訓練の中、ビークルの扱いに失敗した蘭華自身が下敷きになるという痛ましい事故。
当時、小学校高学年だった飛彩は何も出来ずに狼狽えるだけ……のはずだった。





