The Swindle
「ヒーローに応援されるなんて、俺だけじゃねーか? えぇ? ギャブランよぉ!」
「無駄な足掻きを! 消え去れ! ヒーローども……いや、人間どもぉ!」
悪は己の全てを賭け、全てを滅ぼそうとしている。
かたやヒーローでもなんでもない少年が世界の命運を背負って戦っている。
だが、飛彩の頭は下にいる仲間達で一杯だった。
崇高な使命も何も存在しない。
そこにあるのは『守る』という、飛彩の本当の願いのみ。
「世界なんざどーでもいい! 俺は守りてぇと思ったモンだけ守るんだよぉ!」
さらに左腕を奥へと押し込む。
みるみるうちにコインが小さくなっていくが、思念同然になってでもギャブランは未だに勝利を確信していた。
装甲のついている左腕と生身の境目から吹き出す血と混じった黒い霧は、限界などとっくの昔に超えていることを示している。
「——ぐうっ!? 限界か……?」
「当たり前だ! ただの人間が我々の全てを支配できると思うな!」
支配下における限界量が見えてきた、と言えるだろう。
左腕に走る痛みは今回の戦いでも味わったことないほどの衝撃だった。
メイの予想が的中しようとしている。
「ふははははははは! これでヒーローどもは終わりだ! 私たちの世が全てを支配する!」
「——うるせぇな」
「なっ、なに!?」
「痛ぇけど、んなもん無視だっ!」
痛みに怯むどころか、飛彩は攻撃の手を緩めなかった。
痛みも何も関係ない、飛彩は勝利するために自らの命をも燃やし尽くそうとしている。
「飛彩くん……!」
着地したジーニアスとホリィ。
飛彩が無事目標にたどり着いたことに気づいた刑は展開を解除した。
それと同期していた他のヒーローもつられて展開を解除する。
誰も彼もが満身創痍だった。
それでも希望が空で戦っていると、守られる側として初めて空を見上げる。
『ヒーロー』とは、これほどに安堵感を与えてくれる存在なのか、と。
「勝って! 飛彩ぉ!」
「行け! 死ぬ気で突っ込めー!」
「私たちの……ヒーロー!」
鎧の左腕と体をつないでいる部分から勢いよく血が流れ出す。
もはや飛彩に左腕の感覚はなかった。
それでも攻撃を止めることはない。
「俺を認めてくれた奴らのためにも……絶対に勝つ!」
「馬鹿な……」
命を顧みない覚悟の拳。
その前に、コインと一体化したギャブランは乾いた大地のように亀裂が走らせることしか出来なかった。
飛彩は敵の攻撃を吸収しながらその力を拳の破壊力に変換していたのだ。
「私の力を支配し、それを……? 貴様は、あ、悪の祖とでもいうのか……?」
「はっ、悪の祖か。かっこいいじゃねーか。でもよ……」
そのまま入ったヒビが音を立てて、コインへ稲光のように広がる。
全身全霊の力を込めた飛彩の一撃が、悪の賭けを打ち砕いた。
「俺は……俺だぁぁぁぁぁぁぁ!」
ふり抜かれた拳は能力を完全に支配下に置いたことを示していた。
飛彩の殴り抜けた勢いでコインはギャブランの魂を宿したまま宇宙空間を流星のように進んでいく。
「こうなったら、賭けもいらねーよな? もういっぺん、死んでこいクソヴィラン!」
「ふっ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
飛彩の渾身の一撃で宇宙空間を突き進むギャブランは一切の身動きを取ることも出来ず太陽へと消えていった。
影すら産み落とさぬ灼熱の中で、闇が生き残ることは叶わなかった
「……わ、たしが、破、産か……!」
今度こそ消え去ったギャブランの展開。
それと同時に世界に黒を落としていた異世の部分も弾け、空は黒の帳から解放された。





