ミスタージーニアス
「いける! しっかり掴まってろ!」
「はい!」
とうとう地上数千メートルくらい高さへと侵入してきたギャブランのコインは回転し、勢いを増していた。
「まだ希望を捨てぬか、人間ども……!」
高速回転する巨大なコインに突っ込めば、間違いなく弾き飛ばされる。
自慢の左拳も軌道をそらされたら終わりだ。
勢いが増している以上、普通に突っ込めば間違いなく死ぬだろう。
「はっ! 希望など、そんなものだぁー!」
もはやヒーローたちの力は借りれない。
自分の頭だけが頼りだ、と全神経をフル動員していると、もう一つの急激に巨大化していく影が二人を包んだ。
「アイム ア ミスタ〜〜〜〜〜〜! ジーニアス!」
なんと巨人と化したジーニアスがヒーロー衣装に身を包み、飛び上がる二人をを追い越す。
「現ナンバーワンヒーローのお出ましか!」
「ジーニアスさん!?」
その体躯は千メートルはあろうかというほどに巨大化している。
今まで飛彩たちの場所に駆けつけて来なかったのはこうなることを見越して、力を溜めていたのかもしれない。
「ザコ狩りだけだと退屈でね! 私にもメインディッシュを分けてもらおうか!」
先にコインに触れたのはジーニアスだった。
急激に回転するコインを押しとどめ、勢いを殺していく。
裏も表も決まらないこのままでは地上に滅びは訪れない。
「グオォォォォォォォォ!?」
正真正銘、魂の咆哮をあげるギャブラン。
急激に勢いを増していくがナンバーワンヒーローとしての意地が勝ろうとしていた。
「動きが!」
「ああ、チャンスだ!」
先に火花を散らす空中の戦場に二人もどんどん近づいていく。
コインの回転が遅くなってきたことでホリィの未来確定が発動し、飛彩のビジョンが発生した。
紛れもなく賭けと一体化したギャブランに左腕を叩きつけている未来が。
「飛彩くん! これなら!」
「ああ! 後は任せろ!」
「ジーニアスさん! 後は彼に任せてください!」
「んあぁ!? なんだお前たち!?」
混乱は必然かもしれないが、ジーニアスには二人の覚悟の灯った眼が見えた。
「よくわからんが……後輩が命かけてるなら、俺もフルパワーだろう!」
地面にめり込んでいくジーニアスの巨大な足の踏ん張りで、回転するコインは完全に止まる。
「悪いなホリィ。こっからは俺だけでいく」
抱えた飛彩はまず、ジーニアスの肩に飛んだ。
そのままホリィをそこに横たわらせ、飛彩は上へと駆け上がっていく。
「ま、待って! 飛彩くん!」
この時ばかりは未来を確定させたことをホリィは悔やんだ。
飛彩は未来に向かって突き進むだけだが、決まった未来はあの場所に届くまで、という未来だ。
——そう、まだ勝利の未来は決まっていない。
それを見越して飛彩はジーニアスの肩にホリィを置いていったのだ。
「二人は下がってろ!」
飛んだ飛彩とコインがぶつかり合い、ジーニアスの手を離れて再び宇宙へと上がっていった。
「ジーニアスさん! もっと大きくなれないんですか!?」
「……すまんが、もう限界らしい」
ギャブランの残した能力を一時的にでも止めるためにナンバーワンヒーローの全ての力を使い切ってしまったという。
なおさら敵の驚異的な能力を感じたホリィだったが、小さく元の姿へ戻っていくジーニアスとともに天空から引き離された。
「飛彩くん! 頑張ってぇぇぇぇ!」
悪を支配下に置く左拳がコインの中にめり込んでいく。
地上にいた時は違い、凄まじいスピードで力を吸収していった。





