オリジンズ・ドミネーション
熱太は乾いた笑いを浮かべた。
「ははっ、一本取られたな」
刑は目を伏せながら呆れ果てる。
「雑魚のくせに……」
ホリィは何故か安心してしまった。
「……何言ってるんですか」
再びは飛彩はギャブランに向き直り、血まみれになった左拳を向ける。
「全員俺が守る、それが俺の願い! あの時……心から思ったことだ!」
それを通信越しに感じていたメイは目を伏せながら小さく呟く。
「——始まるのね」
「知っていたのか」
悲しそうな顔を浮かべるメイに黒斗は摑みかかる。
「ええ、あれが飛彩がどの世界展開にも適合しない理由……元々、持っているからよ」
「何故、報告しなかった! それほど重要な事項を……!」
「インジェクターじゃ、もう縛れない……あの子の、封印が解ける」
まるで別人のような様子のメイにカクリは震える。
全てを見透かしたかのような彼女だけが続きを知っているかのようだった。
ギャブランは戦慄していた。
鎧へと突き刺さってくる威圧感に既視感を覚えている。
それはまるで異世の実力者と対峙する時と同じものだったからだ。
「お前は……人間なのか?」
「なんでも構わねぇよ。テメェをぶっ潰すのには関係ねぇだろ?」
渦を巻くように広がる飛彩の世界展開はヴィランズが放つ黒い展開に限りなく近い灰色。
その展開はヒーローの物とは違い、即座に広がり、ギャブランの展開と混ざり合っていった。
「戯言を! 愚弄するのも大概にしろぉ!」
そして飛彩は、蘭華に呼びかけるくらい自然な調子で、知るはずのない己の力を呼んだ。
「封印されていた左腕」
その呟きと同時に左腕だけに鎧が装着されていく。
黒い装甲は機械的でシャープに洗練された形状だった。
肘や指先は鋭く光り、その左腕は見るものに重厚感を与える。
その装甲に少しも驚きもしない飛彩は完全回復した様子で拳を握りしめた。
すでにいつもの調子を取り戻している飛彩だったが、警戒心を最上級に引き上げたギャブランは手加減一切なしで拳を放つ。
「ぬぅん!」
音を置き去りにする拳に対し、ありえない話だが飛彩は素早く反応した。
「はぁッ!」
振り抜かれた拳と拳がぶつかり合う。
拮抗する能力にギャブランだけでなく飛彩も驚きを隠しきれなかった。
しかし、それと同時に勝利を確信する。
そんな侮りを感じたのかギャブランは一気に冷静さを失った。
「その左腕に何があろうと関係ない! 他の部分は裸同然だろう!」
ぶつかり合う拳を掴まれた飛彩はバランスを大きく崩し、装甲のない身体を晒してしまう。
「飛彩くん!」
身体めがけてギャブランの前蹴りが放たれるが、飛彩は即座に左手を振り解いて蹴りを防御する。
重い打撃音が三発響いた瞬間、熱太と刑は自分達を破ったスロットの能力だと気づいた。
「マズい!」
「さっきの連続攻撃のやつか……なるほどな」
左腕には間違いなく三つの紋章があった。
それと同時にギャブランの後ろで黒炎に包まれた紋章が回り出す。
すぐにそのスロットは止まり「777」という人間が見ても最大の出目だと即座に理解する。
熱太は最小の出目で戦闘不能に陥ったことを思い出し、苦痛に顔を歪めた。
「頼みの綱の左腕も終わりだ!」
「だが、それはどーかな」
左腕に刻み込まれた三つの紋章は薄れながら腕の中に吸い込まれていく。
誰もが能力の発動だと思っていたが、飛彩だけはそれを気にせずギャブランへと左腕で攻撃し続けた。
悠然と防御するギャブランは勝利を確信する。もはや好きなだけ殴らせようかと思えるくらいの余裕さに浸っていた。
「浅はかな! さあ、払い出されるぞ!」
「違ぇよバカが!」
渾身の拳がギャブランの防御した右腕に炸裂すると、スロット攻撃の時のように何度も何度もその場に攻撃が炸裂していく。
「これは私の能力!?」
身体の内側から炸裂するような攻撃にギャブランは己の能力と同質のものを感じ取った。
「スキだらけの賭け事だなぁ? おい?」
「ぐっ!? あ、ありえん!」
形勢逆転する戦場で飛彩に期待が集まる。
この中で、一般市民に近い蘭華は大きく動揺していた。
同じ人間であるはずの飛彩の超進化に、もはや認識が追いつかず夢とも思えてしまっている。





