瀕死の護利隊
ヒーローたちですら絶望を感じている中、護利隊の士気は完全に瓦解していた。
本当はヒーロー達が戦いやすいように援護射撃をしていなければならないが、飛彩は瀕死の重症で他の隊員も戦意を失っている。
反響する戦鬪音が柔らかい目覚まし音にも感じられた飛彩は、いよいよ死期が近いことを悟った。
少しずつ戻る意識とは裏腹に、身体の感覚は全く感じられず、唯一動く目だけが周りの状況を知ろうと必死に動いた。
すぐに自分が蘭華に膝枕されていることを知った飛彩は、泣きわめく蘭華に言葉の一つでもかけてやりたかったが、どうやら口も動かない。
「飛彩、しっかりして……」
上体が少しだけ起こされているおかげで、惨状がよく見えてしまった。
今にもヒーローが殺されようとしている光景を見て、動かないはずの左腕が動いた。
「く、くそ……が……」
「飛彩、もういい……もういいでしょう!」
そのまま強く抱きかかえていた蘭華は飛彩に何も見せまいと胸へと押し付ける。
それでも飛彩は視線を戦場へと移そうと首を震わせた。
命を投げ打って放った刃は届いたが、復讐は果たせなかった。
復讐とは成しても成さなくても虚無だけが残る、と飛彩は涙を流した。
「こんな無様晒すために俺は、戦ってんじゃねぇ……」
「いいよ、もういいよ! 逃げようよ! カクリ! 転送の準備を!」
「やめろ!」
遠くで戦っているギャブランの動きが止まるほどの怒号。しかし蘭華は止まらない。
「恨まれてもいい! 生きてさえくれれば、私は何も望まない!」
凄まじい怒号にも怯まず、蘭華は再び強く飛彩を抱きしめた。
抵抗も出来ないくせにと言わんばかりに強く。
いくらか復讐の前の心境が飛彩へと戻りはじめた。
「——そんな顔させるつもりじゃなかったんだがな」
遠くに見えるヒーロー達の窮地。
少しずつ動くようになった身体を使って蘭華を押しのけた飛彩はゆっくりと立ち上がる。
「なんで……どうして戦うの飛彩!」
「あいつをぶっ殺さねえと気がすまねぇ。不意打ちでもなんでもいい、絶対に殺す」
今こうして世界を危機に陥れているギャブラン、あの日飛彩が足を引っ張っていなかったら、ナンバーワンヒーローがギャブランを倒し、このような大災害は起こらなかった。
「これは俺の……俺が招いちまった結果へのケジメなんだ」
のしかかる辛さを抱え、よろよろと歩き出す飛彩を何度も止める。
その度に手は振り払われた。
自分より弱いヒーローを憎んでいたはずなのに、何が飛彩を突き動かしているのか蘭華には分からなかった。
飛彩の双眸には仇しか映っていない。這いずって進む飛彩を蘭華が必死で止める。
「あんな知り合いぐらいの相手より自分の命優先してよ!」
その言葉を聞いた飛彩は動力源を失ったかのように止まり、ゆっくりと口を開く。
揺るぎない気づきだった。飛彩の根底から、魂を作り変えてしまうような。
「——そうか……やっとアイツらが気に入らなかった理由がわかったよ」
心の奥底で眠っていた原初の記憶。それに気づいた飛彩は自分の事ながら笑えてきてしまった。





