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【完結】変身時間のディフェンスフォース 〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜  作者: 半袖高太郎
第1部 6章 〜ギャンブリングワールド〜

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善戦のからくり

 コインが結果をもたらすよりも早くギャブランの懐に飛び込んでいく飛彩。


間違いなく攻撃は当たる。ならば、影響を最小限に抑えることが重要だろうと飛彩はあえて飛び込んだのだ。


頭蓋を粉砕するはずの脚撃の奥へと進んだ飛彩は威力が乗り切る前の脚へと思い切り身体をぶちかました。


さらに、股関節めがけて小太刀を伸ばす。


「何!?」


股関節への一撃は間違いなく戦況を変える。倒せずとも機動力は大幅に奪えるはずだった。


「面白い弱者だっ!」


だが、思惑通りに事は運ばず、背中に乗せたままの左足を軸に上へと跳ぶギャブラン。


飛彩の真上から見下ろすように黄金色の部分がきらめく。


「私の賭けから逃げる者は大勢いたが、身の程以上に突っ込んでくる者はいなかったぞ?」


「はっ、お前が井の中の蛙ってやつだったんだろ?」


「ふふっ、余興程度だと思っていたが、それは撤回しよう」


再び地に舞い降り、ギャブランはそのまま飛彩と至近距離でにらみ合う形となる。


その均衡は地面に大きなクレーターを作るほどの破壊力を持った足踏みが破壊した。


「弱者のペースに付き合った私が愚かだったよ」


 一瞬にして足場が消え、宙でもがく飛彩は砲弾のような右拳をもらってしまう。


「がっ!?」


 瓦礫の山をさらに細かく砕いていく飛彩。


その一撃によりスーツの防御性能は消え失せ、ただの布服と化した。


スーツの駆動部で輝いていた青い光も弱々しくなっている。


「遊んでしまう悪い癖が出てしまったよ」


その返事は白煙の中から銃弾という形で返ってきた。


その全てが着弾し、ギャブランの鎧を灼く。


息つく暇もなく降り注ぐ銃弾の雨を浴びるギャブランは、自分の展開の中を高速移動する何かに気づくのが遅れてしまった。


敵は白煙の中にいるはずなのに、自分の領域の中をちょこまか動く存在は何だと逡巡してしまう。


 その数秒の思考のタイムラグが飛彩に味方をした。


「そっちには誰もいねぇーよ!」


煙が晴れたその場所には、武器を握りしめさせられていた死体が一つ。


注入インジェクション!』


驚愕を認識するより早く、死角からの咆哮がギャブランを襲う。


咄嗟に左腕を繰り出すが、関節を傷つけられた腕では低い姿勢からの蹴り上げを防御しきれず腕は天へと向けられる。


ガラ空きになった胸部へと吸い込まれるように飛彩は肘鉄を叩き込んだ。


「ぐうっ!?」


「お得意の賭けはどーしたよっ!」


 吹き飛ぶ勢いを殺し、こらえていたギャブランに向かって、インジェクターの余力が残っていたドロップキックをかます。


まるで賭けの反撃はないと知っていたかのように。


 防御もままならぬ状態だったギャブランは地面を何度か転がるも、動く右手で跳ね起き、身体を回転させて飛彩の蹴りの威力を身体から飛ばした。


「今度は賭けられなかったなぁ?」


「……ふん、仕組みを見破っただけで調子に乗れるか。わかっただけでは何も防げんぞ?」


「とんでもねぇ賭けは即座に出来ねぇ……仕込む時間がいるなら、速攻だ!」


煤けた鎧を右手で払いながらギャブランは展開の範囲を学校の周囲まで縮めていく。


今までどれだけ大きな範囲をカバーしていたのかわからないが、やはりギャブランの実力は今までのヴィランとは比べものにならなかった。


「展開濃くして、能力の発動時間を短くしようってか?」


多大なる実力差を知ってもなお、飛彩はいつもと変わらず吠え続ける。


そんな飛彩の様子を見て、蘭華の胸中に嫌な感覚が膨らんでいく。もう二度と飛彩が帰ってこないような気がして。


「もう子供の遊びには付き合いたくないのだがね」


「固いこと言うなって!」


強化スーツがすでに壊れているにも関わらず吠えながら殴り合いを続ける飛彩。


ギャブランの一撃の重さは知るところのはずが、壊れた人形のように戦いを続ける。


「ちょっと……」


大きく見開かれた蘭華の目。


押していると思っていた自分が愚かだったと涙を溜めた。


どれだけの攻撃を受けようと、何度倒れても立ち上がる飛彩。


もはや全身の骨は砕け、命は死に向かっているはずだった。


飛彩は元より、生きて帰るつもりなどなかったのだ。


「飛彩……飛彩ぉぉぉ!」


その時、ギャブランの回し蹴りが思い切り飛彩の顔面へと炸裂した。


力なく倒れ、大の字になって転がる飛彩からはもはや生気を感じられない。


急いで駆け寄った蘭華は、緊急治療材を投与する。


「ふう、手こずらせてくれたな……」


口から出たセリフに、ギャブランは小さな違和感を覚える。


「……ん? 手こずる? この私があんな人間に?」


展開と共に吹き荒れる暴風は、しゃがんでいた蘭華を軽く吹き飛ばした。


寝そべる飛彩も揺られて転がっていく。


「そのような事実はあってはならない。即座に終わらせよう」


鎧に青筋が浮かんだように感じられるほどの怒気に蘭華は魂が抜けそうになるほどの恐怖を覚えた。

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