異質な賭け
感じた希望も耳に届いた低い声と共に霧散する。
「良い腕だな、小娘」
装備していたハンドガンを飛彩並みの反射神経で抜き、振り返りながら乱射する。
「ふっ!」
「反応速度も度胸も申し分ない」
銃口を握られた後は何も出来ずに吹き飛ばされた。
目にも留まらぬ速さの拳が蘭華の腹部にめり込んだのである。
「がふっ!?」
「賭けが成功してよかった。私はあの爆風を避けられるか、否か、というね」
地面で悶え苦しむ蘭華の元へ悠然とギャブランは歩き出す。
「ぐっ、ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅ〜!?」
呼吸のたびにきしむ肋骨が、折れたこと身体に訴えかけている。
いつも飛彩はこんな痛みの中を戦っていたのか、と理解した。
「さて、あの光の柱が立ってから、そろそろ二分くらいか? 時間もなかろう」
現れたのはルーレット。カラカラと音を立てたボールが転がり落ちた数字は百。
「今回の賭けは、私の部下が再び立ち上がるのは何人だ、という賭けでね」
痛みに苦しみながらもその数字の意味することに蘭華は戦慄した。
「ルーレットってそういう遊びじゃないわよ……」
「ははっ。ルールは勝者が決められるものさ」
この場所で死んだはずのヴィランが次々と立ち上がり、蘭華や光の柱へと群がっていく。
身体の一部が吹き飛んだ者も、物言わぬ兵士となって拳を振るった。
その範囲は、展開が広がっている第三誘導区域周辺全てのようで、攻勢になっていたヒーロー達も動揺してしまう。
「何なの、その能力!? 攻撃を吹っ飛ばしたり、部下を生き返らせたり!」
「簡単だ。これは賭けだよ」
暗黒の炎に包まれた数々の賭博道具。ギャブランは周りを悠々と動くそれで手遊びする。
「賭けに成功すれば最高のリターン! 失敗すれば、最悪のリスク! それが賭けだろう?」
「何よそれ……あんたが考えた賭けなら何でも成立するっていうの?」
物言わぬ軍勢に取り囲まれながらも吠え続ける蘭華。
痛みや焦り、そして現実離れした能力を目の当たりにして完全に動揺していた。
「ああ、そういうことになる……そして、私はその『賭け』で負けたことがない」
願ったことが叶う、と言っても過言ではない能力に、蘭華は絶望した。
仮にここで自爆できたとしても、賭けにより避けられる可能性が充分すぎるほどにあったのだ。
「ふざけないで……勝てるわけないじゃない」
バイザーの中に溜まっていく涙。そこから蘭華は一方敵に雑兵たちに痛ぶられていく。
「くっ!? がはぁっ!?」
「これこれ、弱者に構っている暇はない。あの光の柱をさっさと壊すのだ」
その一声で辺りにいたヴィランたちは光の柱へと向かっていく。
ボロボロになった蘭華は安堵してしまった。これでもう痛い思いをせずに済む、と。
「リスクは死兵にでも負わせれば良い。私はこの世の終わりを見物する」
その場で左腕を振り上げるギャブラン。
結局、逃れられない死の運命に蘭華の涙は止まった。
もはやどうしようもないことだ、と達観してしまうほどの絶望だったといえよう。
「あぁー……あと少しだったのになぁ」
捻り出された諦観の息ではギャブランの拳は止められなかった。





