灰燼の未来
傾きかけた太陽がやっと辺りを照らし出した。
しかし今、外傷よりも深刻なのは、トラウマを抉り出されたような精神への傷、飛彩の身体は震えて止まらなかった。
「くそっ! くそっ! 止まれ! 止まれよ!」
死にたくない、そう思ってしまった。
それと同時に何もかも投げ出して楽になりたいとも思ってしまった。
よろよろと立ち上がっても、すぐに片膝をついてしまう。
身体が生きることを拒むかのように、息を肺の中へ上手く取り込めない。
「負けを認めるには早ぇだろボケが!」
恐怖を振り払うも、即座にまた恐怖が飛彩を覆う。
「あいつだ! あいつが来たんだ! 戦わねぇわけにはいかねぇだろ!」
ヒーローとして復讐という感情に縛られてはいけない、そう思っていたが、心を動かす動力源はいつもそれだった、と認める。
「もう死んだっていい。ギャブランを倒す。それが俺だ! 俺が本当にやりてぇことだろ!」
そしてコインが、地面に落ちた。
なんとコインは裏も表も示さずに、立っていた。
それは新しい可能性を示しているのかもしれない。
復讐の鬼に堕ちるという死にも近しく、ギャブランの賭けになかった新たな可能性だ。
それが、ナンバーワンヒーローを失った時に抱いた感情かどうかの答え合せをする間も無く、一歩を踏み出す。
「借り物の力だろうが関係ねぇ……あいつを殺せれば、俺は、俺は……!」
よろめきながら飛彩は、校舎の外に向かったギャブランを懸命に追いかけていった。
そのころ、第三誘導区域に近づいていたギャブランは賭けが終わっていないことを不思議に思っていたがすぐに思考の片隅へと飛ばした。
「さて、これが結界か」
誘導区域かつ異世化を食い止める大きな杭をギャブランは引き抜く。
ヒーローを倒しても、これがある限り侵食が進むことはない。
それを見越してギャブランは一つの区域を壊した。
それと同時に、第三誘導区域内に無数の時空の狭間が発生した。
それと同時に飛彩のわずかな時間稼ぎが功を奏したのか、先遣隊が到着する。
「おや、弱者の群れか。ハイドアウターの情報によれば、こやつらが足止めしないとヒーローは変身している間に殺されてしまう、という話だったな」
兜を揺らし笑うギャブランは、余興と言わんばかりに領域を広げた。
時空の亀裂がさらに数を増し、広がっていく。
それと同時にいくつもの光の柱が宙へと登っていった。
「敵の展開がなければ、ヒーローたちは展開できない。ならば餌を撒くだけだ」
銃弾の雨を物ともせず進むギャブラン。戦いを、強者を求める戦士は進撃をやめない。
「さて、絶望を味わわせたいのだが……」
その言葉と共に現れたのは第三誘導区域はおろか、都心部を埋め尽くすほどの巨大なコイン。
それにより街は夜の闇に包まれたも同然となった。
「この地は灰燼と化すか、否か……私は表に賭けよう! もちろん、灰燼と化す方にだ」
コインは回転しながら急上昇し、太陽めがけて飛んでいく。
東京近郊を覆うほど巨大な範囲に対する展開故に、結果がもたらされるのも時間がかかるというわけだ。
「まあ、これは私の時間制限とも言えるか。まあ、三十分もあれば平気だろう」
その全てを終わらせるには短すぎる時間だった。
範囲内にいる全ての存在の寿命となる未来が掲示され、それを防げるかどうかはヒーローたちに託される。
「さぁ! 楽しませてくれ、ヒーロー達よ」
現れた仇敵はあまりにも強く、闇が深く……
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『次章予告』
とうとう始まるヴィランたちの大規模侵攻。
誘導区域の外でも暴れ出すヴィランたちによりヒーローや護利隊だけでなく一般市民にすら魔の手が及ぶ!
一方、飛彩は自分を守って死んでいったNo. 1ヒーローの仇を取るために復讐鬼の道へと堕ちていくが……?
次回!
『『『ギャンブリングワールド』』』
「守ってやるぜ! ヒーローの変身途中!」





