八つ当たり
護利隊との接触がないまま、二日が経過した。
蘭華もカクリもさらにはホリィまで出張か何かで学校には現れない。
熱太も病院で面会謝絶状態だ。
その日の授業が終わっても、机に突っ伏したままの飛彩は、自分一人がこんなにも弱いということを知らなかった。
「あの日の約束。か……」
事実を突きつけられるまでは、応援してくれる人物や新たな誓いの事もあり、希望に満ち溢れていた。
なまじそんな希望がなければ、ここまで憔悴もしていないだろう。
その落差のせいで、飛彩が感じている精神的なダメージも大きい。
「俺のしてきたことって、何なんだろうな」
どんな窮地だろうと諦めず戦ってきた飛彩が始めて吐いた弱音。
人は夢を絶たれると逃げ道や妥協点を探す。それは人の数だけ存在しているだろうが、飛彩の場合には死の割合が大きくなっていった。
誰よりも吠えていた飛彩、強き意志を持っていた飛彩、その全てがたった一つの否定で崩れかけていた。
これは護利隊やヒーロー本部という組織の性質に詳しい飛彩ゆえに起きることだろう。
彼らに恩赦は存在しない。突きつけられた二者択一は実際のところ、一択しかないという宣言でもあった。
ただ、選ばせることは自分で諦める宣言をさせることになる。
本当に残酷だと飛彩はさらに絶望を色濃くした。
そんな誰も居ない教室で聞きなれない音が耳に届いた飛彩は教室の出口を睨む。
そこからは一機の小型ドローンがやってきていた。
「んだこれ……?」
「はぁい、飛彩〜」
「メイさん?」
投影され、手のひらサイズのバーチャルモデルが飛彩の机に映し出された。
接触禁止をくぐり抜けるための最新鋭機というところだろう。
「浮かない顔してるねぇ」
「当たり前でしょう! ……っ、すみません、メイさんに当たるつもりは……」
優しい母のような笑みを浮かべるメイは荒れる飛彩を気にせず言葉を続けた。
「いじけてるなんて飛彩らしくないよね? だから、これも受け取って」
取り付けられていた小包が飛彩の頭へと乗せられた。苛立ちながら開けると、中には強化スーツと一日の限界量分のインジェクターが添えられている。
「なっ……アンタ正気か?」
「飛彩のやりたいようにやればいいんじゃない?」
その質問の意図が汲み取れなかった飛彩は戸惑いながらスーツをカバンの中に隠した。
「弱いヒーローにイライラするくらいなら、生放送に介入してダークヒーローにでもなっちゃおうよ。私、手伝うから」
技術開発部の人間とは思えない爆弾発言に何かの罠じゃないのかと疑う飛彩だが、ホログラムの表情ですら嘘を言っているとは思えなかった。
「——分かった、そうやって試そうとしてんのか? 黒斗もいるんだろ?」
「ち、違う! 飛彩にはそれが必要でしょ?」
メイの本心だったとしても飛彩は受け入れられなかった。そう、気づいてしまったのだ。結局は無力な自分に。
「世界展開できなくともインジェクターがあれば……」
「うるせぇ!」
強く当たっても無駄、現実から目を背けても無駄。
そう分かっていたのに、飛彩は駆ける足を止められなかった。
怒り、焦燥、虚無、それらがぐちゃぐちゃになった心を解きほぐせるほど、飛彩は大人ではなかった。





