解雇通告
ホリィとの一件もあり、飛彩は退院して早々に護利隊本部の司令室に飛び込んでいた。
「邪魔するぜ。黒斗!」
アポイントメントどころか、退院の連絡も一切しない部下をどう叱ろうか、と黒斗は逡巡する。そこで一切の容赦を捨てることを決めた。
「……飛彩、お前はクビだ」
「ほあぁ!?」
いつも尖った態度の飛彩もこればかりは、間抜けな反応を出さざるを得なかった。予想外の方向からの攻撃に、後方に吹き飛びそうになるが、なんとか踏みとどまる。
「う、嘘だろ? 俺、応援されて決意改めてきたんだけど!?」
口に出すと、非常に情けないことまで漏らしてしまうほど飛彩は動揺する。褒められたとしても、咎められる謂れは無いように思っていたからだ。
「知らん」
大きなため息を飛ばし、呆れる黒斗は淡々と業務連絡のように言葉を続ける。
「度重なる命令違反。護利隊の存在をひけらかすような行為、お前の力は有用だがそれ以上のマイナスがある……分かるな?」
「ぐっ」
言葉に詰まった飛彩は冷静になろうと努めたが、どうしても自分の功績を考えてしまい、頭に血が上ってしまう。
「冗談だろ! ランクEを倒したんだぞ!?」
「……功績を作ろうと関係ない。負債はそれほどだ。それにほぼヒーローの力だろう?」
突きつけられた事実に開いた口が塞がらない様子となる。黒斗は椅子に座ったまま、飛彩を見ることもなく言葉を続けた。
「思い当たる節がないとは言わせんぞ?」
ヒーローになりたいという一心で生きてきた飛彩は、目立ち、功績を作るために何度も無茶を犯してきた。
最も短いルートだと思っていた護利隊は、どこよりもヒーローのいる場所に遠いと気づいてからは、その檻を突き破ろうと生放送で正体を明かそうとしたこともあった。
ホリィの前に姿を晒したこともそれに含まれる。
「ホーリーフォーチュンへの接触、レギオン迎撃戦の独断行動、新志熱太との無断共闘……これだけでも充分に規約を反している。情報被害は最小限に済んでいるが、最悪の事態もあり得た。そうだろう?」
「た、たったそれだけじゃねぇか!」
「蘭華といい、お前といい、護利隊を勘違いしているな」
睨むような視線の黒斗は例えようのないほどの威圧感を放っていた。
元々切れ長な瞳ということもあるが、非常に相手に恐怖感を与える。
「護利隊とは、その名の通り、利益を守る存在だ。世界平和という利益を守るには犠牲はつきもの……ヒーローを守るだけであって、ヒーローを越えようとする者は何よりもいらん」
「けっ! なら、こっちからやめてやるよ! もう一度受けりゃ、ヒーローにだって——」
「それは、無理だ」
逃げ道が全て塞がっていくかのような恐怖感。飛彩の額に一筋の汗が流れていく。





