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【完結】変身時間のディフェンスフォース 〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜  作者: 半袖高太郎
第1部 5章 〜挫折リヴェンジャー〜

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病室での目覚め

 ゆっくりと開かれた瞼は、真っ白な天井だけを映し出した。


「……見知らぬ天井ってやつか?」


その発言とは反して、沢山の見慣れた顔が覗き込んでくる。例外なく心配そうに。


「飛彩ぉー!」


「びいろざぁぁん!」


「仕事サボって見舞いに来てよかったわぁ」


抱きついてきた蘭華とカクリを振り払う力もなく、なすがままになる飛彩。


苦い顔を察してかメイが二人を引き剥がす。


「蘭華、カクリ、メイさんまで……モテるのは刑の専売特許じゃねーのか?」


未だにまどろみが取れない飛彩は、呂律が回らない様子でぼそぼそと喋る。


「あっはは。君を心配する女の子はいっぱいいるってことさっ」


「メイさんは女の子じゃないっすよね?」


「は?」


「いや、何でもないです」


その間も蘭華とカクリはわんわんと泣き喚いていた。


一日で眼を覚ましたのは奇跡だと聞かされ、包帯に包まれていた身体を小さく撫でた。


外傷もさることながら、インジェクターの副作用が未だに身体に気怠さを与えている。


「そうだ、熱太は!」


熱くなったせいか身体中に血が巡りはじめる。やっと脳が活動を始めたようだった。


「大丈夫。アマテラスが回復してくれたから命に別状はないよ。まだ集中治療室に入ってるけど、意識は戻ってる」


最強の援護系ヒーローの名を聞いた飛彩は持ち上げた身体をベッドへ戻す。


「よかった……本当によかった」


「って、飛彩も大変だったのよ!」


「熱太先輩といい勝負でしたよ! 怪我の具合で」


「ふふっ、そんな状態なのに他人の心配ねぇ」


豪快に笑うメイに全員が注目する。


「そんな飛彩だから、みんな大好きなのよね」


「「ちょ! メイさん!」」


嫌な予感がした瞬間に飛彩の耳を塞いでおいてよかった、と二人の少女は安堵する。


蘭華とカクリの胸に挟まれて、という形だが。


「……どけ」


か細い声に即座に反応したカクリと蘭華。顔を赤くする三人を見てさらにメイは笑い続ける。大怪我している飛彩は傷口が開く思いだった。


「尖ってるけど、飛彩はそういうの初心ウブなんだから気をつけないとっ」


「うるさいですよ! それで、刑は?」


「あら、また人の心配? 自分がいつ完全回復するかとか知りたくないの?」


「もう動けます。アイツの処罰が軽かったらぶっ飛ばさないと」


今もなお擦り寄る二人を押しのけて、飛彩はメイの言葉に耳を澄ます。


「刑くんは操られていたこともあって、色々検査中だけど……謹慎が解けたら、また元のようにヒーロー活動が待ってるわ。まぁ、二度と試験官はやらせないみたいだけどね」


「はっ……」


 何故、自分が喜ばしく思っているのかも分からない飛彩だったが、貸し借りをなかったことにするには甘すぎる刑罰だったと、後で殴りにいくことを決める。


物騒なことを考えている割には飛彩の顔は晴れ晴れとしていた。


「あんだけ言われたんだからムカつくよね?」


「そーだな。そのうち、二、三発蹴り入れてやるか」


清々しい様子の飛彩を不思議そうに見つめる蘭華。あんなに怒っていたのに一度戦うと戦友というやつだろうか、と漫画から得た知識で片付けておく。


「さて、目を覚ましたからには退院していーんすよね?」


「ダメ」


ニコニコと笑っていたはずのメイの声が変わった。さらに整った顔に青筋も浮かべている。


「飛彩は私の言うことを破るのが好きみたいだから」


「いや、その……」


 瞬時にインジェクターの限界突破利用だと気づいた飛彩はバツが悪そうに視線を落とす。


限界を超えた本数だけでなく、副作用目当てで脳への直打ちという禁忌まで犯しているのだ。生きている以上説教は避けられない。


「ま、まぁーまぁーメイさんっ、飛彩がああしなかったら誰も助かってないわけで……」


「飛彩くんが好きすぎてついつい甘やかしちゃう幼馴染系女子は黙ってなさい」


「わーわーわーわー!?」


騒がしい説教により、大半は飛彩の耳に届かない。蘭華にとって不幸中の幸いである。


「ごめんなさい! カクリがもっと物資の輸送を上手く出来てたら……」


「たらればはいい! 前の戦いの時で消耗しちゃってるでしょ?」


乱発できない能力ゆえ、装備一式をと蘭華を送るので精一杯だったことを、飛彩と蘭華は察した。


政治的情勢だけでなくカクリの能力のデメリットもあり、孤軍奮闘を続けなければならなかったのだ。しかし、それを気にする二人ではない。


「この不思議っ子はね。優しくしてくれる飛彩が大好きでしょーがないんだから、ずっと涙目でモニター見てたのよ!」


「暴露大会ですかぁ〜! ふざけないでくださいぃっ!」


涙目だったのはメイも一緒だなんだと情報が錯綜し、何も聞こえていなかった飛彩は深くため息をついた。心配してくれるのは嬉しいとしても、度を越していて傷口に響くようだ。


「あー、もう! とにかくすいません! あれしか方法がないと思ってました!」


「予備含めて規定量以上を渡してたのがバカだったわ。次からは少なめに渡す」


「そんな……足りなくなったらヤバイでしょう!」


「飛彩にインジェクターは必要だよ。でも使い過ぎれば毒。特に精神のね」


 そんなに厳しく徹底するならば取り上げたりすればいいのにと蘭華は首をひねった。


まるで必ず打たなければいけない薬を遠回しに子供に飲ませる母親のようだと感じる。


カクリも同様のことを思っていたのか不思議そうな顔を浮かべていた。


「奥の手に頼りきりになるってことですか」


「そうね。あと言いたいのは女の子たちを心配させないように戦えってことよ」


頰を引っ張られた飛彩は蘭華とカクリの顔をまじまじと見せられる。


年頃の少女らしからぬ目の隈、泣き腫らして赤くなった目もよく分かった。振り返ると危険な戦い方ばかりだった、といつも以上に反省の念が深くなる。


「……すみませんでした。お前らも心配かけた……悪ぃ」


「まー死にかけたわけだし、もう無茶はしないでね」


素直に反省する飛彩に驚きつつも、すぐに優しく笑って飛彩の頭を撫でた。


「説教は終わりっ。ただでさえ長い説教する人が後ろに控えているだろうからね」


その言葉で黒斗のことを思い出し、言い訳の原稿を用意するが数秒で投げ出した。



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