灼熱と共に
その時、熱が飛彩の頬を掠める。かすかに動く頭でその発生源を追うと、飛彩の隣に炎の長剣が突き刺さっていた。
「はっ……ブレイザーブレイバー、か」
友が最後に行ったのは特攻ではないと飛彩は思い込むことにした。適合している本人にしか使えない武器を置いていった頭の悪さを嘲りながらも、感謝した。
出来るかどうかは分からなくとも、自分に何かを賭けてくれた、勝手にそう思うだけで飛彩は立ち上がれた。
「あーら、タフねぇ。個人領域には防御力上昇効果なんかないはずだけど?」
「蘭華、安心しろ……まだやれっからよ」
「ひ、飛彩……?」
壊れたスーツから覗く素肌は打撲で変色していた。動くはずのない身体を無理やり動かし、ブレイザーブレイバーを握る。
「飛彩っ、何やってんの! それは紐付けられた能力を持つヒーローにしか!」
「その子の言う通り。偶然に落っこちた剣にすがるなんてやめておきなさい」
「俺はヒーローと違って全人類に希望なんて振りまけねぇ! でもよぉ……」
持ち上げることすら叶わないはずの長剣は飛彩によって再び戦場に舞い降りた。
そこからはわずかだが、力を貸すようにレスキューレッドの世界展開が発動している。
「俺は約束を守る、熱太にも守らせるんだ……俺は今だけでも、ヒーローになる!」
剣から吹き出す炎は飛彩をも焼いた。これが適合しない者が使う代償とでも言うように飛彩は苦悶の表情を浮かべる。
「バカじゃないのぉー! 自滅する気かしらぁ!」
兜と胴体だけになったハイドアウターは飛彩の周囲をくるくると回りながらにじり寄っていく。
所詮は世界展開に使われている不適合者だとハイドアウターは甲高い笑い声を上げた。
「このまますり潰してあーげるっ!」
すでに限界に達しているにも関わらず、ブレイザーブレイバーの炎がさらに飛彩を燃やしていく。握る両手を離したい衝動にかられながらも、力をさらに込めていった。
「お前も熱くなれ! 飛彩!」
幻聴かもしれない。願望かもしれない。そのよく分からない声に飛彩は従った。何よりも熱太ならそうする、そう考えて。その刹那、左腕が軽くなった気がしていた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
今までの炎はくすぶっていただけ、というのがよく分かるくらいに周りの景色が歪む。
「それ以上近づけば、テメエは死ぬぜ?」
「……こ、こけおどしよぉっ!」
瀕死の獣の気迫にハイドアウターは押された。様子を見るべきだと言う理性を無視して激昂の声を上げて突撃する。この時、蘭華の心には安堵の光が差していた。
「私にとっては十分ヒーローだよ、飛彩……だから、決めちゃえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「ただの人間がナメんじゃないわよぉー!」
そして二つの鎧は飛彩の領域へと踏み入った。
「らぁっ!」
その刹那、ハイドアウターには倒れているはずのレスキューレッドの姿が、飛彩と重なっているように見えていた。
「俺はヒーローになるんだ……これくらい使いこなしてやるよ!」
反応が遅れたハイドアウターに目にも留まらぬ回転斬りが迫る。近づいただけで胴体の鎧は溶かされ、間一髪で下がった兜も大きく斬り裂かれた。
「逃がさねぇ!」
すかさず兜を地面へと突き刺し、何度も何度も剣を突き刺した。
一番の強度を誇っていたはずの頭部は斬られた部分からどんどん溶け、ひび割れ、命が砕けていく。
「わ、私の硬度を甘く見ないでちょうだい!」
「知るかぁぁぁ!」
骨にヒビが入ろうと、痛みで叫びたくても飛彩は剣を振り下ろし続けた。
その気迫はハイドアウターを震え上がらせる。もはや強がる言葉も吐けず、ハイドアウターは声にならない悲鳴をあげていた。
「わ、わかった! 降参! 降参するっ!」
攻撃はやまない。
「ほら! 異世の情報教えてあげるから!」
インカムからやめろという黒斗の声が聞こえていても、やめない。
「ごめんなさい! ゆ、許してえー! 私も上司に命令されただけだったのぉ〜!」
やめない。
「ひいぃっ?」
「オラァァァァァァァァァァァ!」
結晶が割れるような透き通った音と共に、飛彩は地面に剣を突き立てた。





