激昂
「うふ、本当に勝てると思ってたの〜?」
「黙れぇ!」
「何度でも言うわ〜。アンタみたいな雑魚のせいで人類の希望様は死にかけてんのよっ!」
いたぶるような拳の雨に為す術もなく吹き飛ばされた飛彩。強化スーツは、もはや限界に近づいており、これ以上攻撃をもらえば簡単に骨まで砕け散るだろう。
「黙れよ……」
「そして、助けた命も簡単に散っちゃうの。本当に、あのヒーローは無駄死にねっ」
身体よりも先にヒビが入ったのは心だった。今にも砕け散りそうなほどに飛彩の心は軋んでいる。
それに気づかないように、振り払うように飛彩はさらに声を振り絞った。
「黙れえぇぇぇぇぇぇぇぇえぇえ!!!!」
そこにいたのは、己の認めたくない現実を突き付けられただけの、ただの子供だった。
「お遊戯会かしら? やる気あるの?」
事実、飛彩には余力はない。悪あがきに近い戦いは、どんどんハイドアウターをイラつかせた。
物理攻撃しかない飛彩に、勝ち筋は全く見えていない。
強固な鎧に、実体が無いも同然の靄状態。水と油の方が仲良しに見えるほど相性は最悪だ。
それでも意地という子供じみた理由で、飛彩は敗北の未来を受け入れず、足掻き続けた。
「俺が勝たなきゃ……意味ねぇんだ! 俺が継がなきゃならねぇんだ!」
恐れが蔓延していた瞳に決意が満ちていく。勝たなければ、熱太も蘭華も死体へと変わる。
「テメェみてぇな三下に構ってる時間はねえんだよ!」
小太刀を投げつけ、ホルスターから効果の高いインジェクターを取り出す。
「——っ!」
長年連れ添ってきた蘭華には全て分かった。手のひらを射抜いてでも止めなければ、と狙撃銃を構え直す。
しかし、割れたバイザーから覗く眼光に気圧され、引き金にかかる指が止まる。
その一瞬の差で飛彩の首元へ吸い込まれていったインジェクターが飛彩の影を輝かせた。
『激・注入!』
それと同時に縦横無尽の動きで襲い来る爪撃は全て空を裂いた。それにのしかかるように着地した飛彩はバイザーを外し、浮かんでいる兜に飛びかかった。
「えぇっ!?」
「ぶっ殺す!」
兜を殴る鈍い音が響く中、飛彩の背後にハイドアウターの四肢が音も無く浮かび上がった。
「私の世界展開忘れちゃった?」
靄隠しの能力は、単純に透明になるよりも厄介だと飛彩はつくづく思っていた。
戦闘時において意識の外に行ってしまう。本来なら死角から飛んでいく足や腕に気付けるはずがない。





