記憶の海
凄まじい戦いの最中に頭の中を通り過ぎていく記憶。それは懺悔か、生への懇願か。
——その昔、飛彩は塞ぎ込んでいた。幼かった飛彩でも、自分が人類の希望を死なせてしまった、という事実は理解できていた。
護利隊に保護された飛彩は、親もおらず、預けられていた孤児院から護利隊の施設へ移されてからは、環境の変化も相まって、よく逃げ出すようになっていたのだ。
公園はすでに、夕日でオレンジに染まっている。ヴィランズの台頭があってからは遅くまで遊ぶ子供もいなくなっていた。寂しげな風景にポツンと残された幼い飛彩も、より深い影を落とす。
「飛彩」
「……熱太にいちゃん?」
現れたのは幼き熱太。幼い時から遺憾無くリーダーシップを発揮して、周りを先導する子供だった熱太は、飛彩をいつも引っ張っていた。
「急に引っ越したもんだからびっくりしたぜー」
「うん……」
「学校にヴィランが来るなんてな! 本当に驚いたぜ! お前もよく生き残ったよ!」
無遠慮な言葉が表情を曇らせた。それが飛彩の心に溜まっていた想いを決壊させる。
「違うよ! ヒーローが庇ってくれたから……あの人が僕を庇ってくれたから……!」
勢いよく立ち上がった飛彩は、少しだけ背の高い熱太に思いの丈をぶつけていた。幼い少年が抱える闇としてはあまりにも重すぎたのだ。
「みんな言ってるよ! 僕が死ねばよかったんだよ!」
「それは違う!」
それを初めて否定したのは熱太だった。ひび割れた心に真っ直ぐな想いはすぐに沁みた。
「確かに、すごい人が死んじゃったよ! でも、それはお前のせいじゃ無いって!」
初めて現れた味方に、飛彩は大きく目を見開く。誰よりもそのヒーローのファンだった熱太は絶対に自分を糾弾する、そう思って飛彩は震えていたのだ。
「な、なんで……」
熱い涙が流れていく。怒りなのか嬉しさなのか喜びなのか、幼い飛彩には分からなかった。
「あのヒーローは最高だった! 俺の大事な友達を救ってくれたんだから!」
その時には熱太も目に涙をためていた。励ますつもりだったのか、自分の決意を表明しに来たのかは今でもわからない。
「だから、俺はあの人みたいなヒーローになるっ! 俺が希望ってやつに、なるから!」
お互いに涙を流しながら強く抱き合う。
「だから、泣くな! あの人が、お前を助けたのは間違いじゃなかったって! 全世界に知らしめてやる!」
溢れる涙は止まらない。飛彩はその時初めて思えた。自分は生きていてもいいんだ、と。
「お前もヒーローになれ! そして一緒に戦おう!」
「うん……うん!」
組織の迎えの者が来るまで、二人はずっと泣いて、そして笑っていた。
この日から、飛彩は泣くのをやめ、護利隊の訓練に参加するようになる。自分にとっての一番の近道がそこだと思っていた。
それから数年後、熱太はヒーローになり、着実にあの日の約束を守る道を進んでいる。
だが、その道に飛彩は未だ辿り着けていない。





