終わらぬ戦い
それを確認すると共に、燃え上がる熱太が瞬時に組み伏せ、隕石のごとく地面へとクレーターを作り上げた。
「フェイタルバスタァァァァァー!」
次々と決まるレスキューレッドの必殺技。さらに腹部に空けられた穴からは血のように靄が溢れ出していく。飛彩も熱太も、もちろん蘭華も勝利を確信した。
ハイドアウターの張った世界展開が急激に小さくなっていく。ここから復活したとしても逆転することは不可能だろう。
「敵が油断してくれたいたからよかったものの……本気だったら間違いなく、俺は……」
「はっ……テメェの弱音吐くところなんざ見たくなかったよ」
見えていないはずなのに長年の相棒のような戦い振りを見せた二人に蘭華は小さく嫉妬した。
「さぁて、これで帰れるわね飛彩……司令官やメイさんの説教覚悟しておきなさい」
そこで収縮していたハイドアウターの世界展開が止まり、全員が寒気と共に振り返った。背を向けていたクレーターから凶暴な爪が姿を覗かせていている。
「しぶとい野郎だ」
「まだ生きているとは……もういい加減疲れたぞ!」
ゆっくりとその姿を現わすハイドアウター。空いた穴から溢れる靄が漏のせいで、元から空洞だったかのようだった。さらに四肢の関節を外しており、濃い靄で繋がっている見まごうことなき化け物のような姿を現わす。ふらふらと漂う首は大きく揺れながら笑っていた。
「こんな目に合わせてくれたのはアンタたちが初めてよ。元に戻せないのよ? コレ」
平常時と変わらぬ声音に、まだまだ終わりは遠いことを察する。展開を小さくしたのは油断させるためだけでなく、狭い空間内で威力を上げるためだろう。
「靄は私のエネルギーそのもの。こういう使い方だって出来ちゃうんだから」
「全く嬉しくない情報だな、クソが」
装甲が本体なのか、靄が本体なのか、何を壊せばハイドアウターが死ぬのか、もはや飛彩には分からなかった。
何にせよ直接的な打撃攻撃しかない飛彩には奴を殺すことが出来ない。
「……っ!」
動けなかった飛彩に対し、熱太が毅然と前に出る。
「すぐにエレナや翔子がくる。それに新人のホーリーフォーチュンもな。俺たちは絶対勝つ」
「それまで貴方が保つかしら?」
またも飛彩は安心した。そして、再び差を感じてしまった。ヒーローと自分の違いに。一歩を踏み出せなかった弱い自分に。
「……うおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
そして飛彩は飛び出した。なによりも悔しかったのだ。自分が他人に与えられない安堵を、簡単に与えてくるヒーローたちに対して。
「オラァ!」
「んもう、ガキじゃ私に勝てないって分からないのかしら?」
もはや四肢は遠隔攻撃用になったとも言え、靄で繋がれた腕が飛彩を襲う。
靄を断ち切ったところで意味はなく、すぐに元通りになり、追尾ミサイルのように飛彩へと何度も迫った。
熱太も割って入ってきたが、戦況は一向に好転せず、飛彩が息を合わせて戦わなくなったこともあり、二人してあしらわれるように攻撃を受け続けるだけだった。
「攻めても意味ないわ! さっきみたいに援護しないと!」
その言葉がさらに深く飛彩の心を抉った。そう自分はヒーローに縋ってしまっていたと。
怒りのままに突撃した。懐に潜り込んだと思えば、後方から腕が迫り、ありえない位置からの攻撃が炸裂する。
視覚からの一撃と靄隠しはありえないほどの相性の良さを発揮していた。
もはや腕二本では全く対応出来なかった。鋭い爪撃に防護スーツごと身体を斬り裂かれる。
「ぐぅっ!?」
「もう飽きちゃった……まずはそっちから」
回転し勢いづく爪撃が飛彩の腹を穿つ……
——はずだった。





