処刑場、逃亡不可
見透かされた心を取り繕うように攻撃を仕掛けようとすると、数発の銃弾がその場を襲った。
「何っ!?」
「これは……」
地面にめり込んだ銃弾から勢いよく吹き上がる煙幕。これが何の合図か知っている飛彩だけが素早く動いた。
刑が不可視の斬撃で辺りを振り払うも、もはやそこには誰もいない。救援は予想外だったようで、僅かに顔が曇る。
「ゆっくり遊ぶ暇はなさそうだ」
煙幕攻撃がされた場合、敵の左後ろに回り込むように撤退する、と飛彩と蘭華で独自に決めたルールがある。二階建ての管理施設の屋根に隠れる二人は、姿勢を低くして見合っていた。
「蘭華? どうしてここに?」
「とりあえず早く着替えて。カクリの能力が使えるようになるまで、まだ時間がかかる」
通信機を優先してつけた飛彩は黒斗の声を聞きながら強化スーツを身に纏っていく。
増援の少なさを憂いたが、ここはヒーロー本部直属の領域。大部隊を動員し、護利隊の存在を公に晒すわけにはいかない。
金の臭いが渦巻く政治のせいで混乱するのはいつも現場だ、と飛彩は唾を吐いた。
「嫌な予感はしていたんだ。このローカル通信が現場を知る最後の要だ。壊されるなよ?」
「黒斗……分かってる。それでヒーロー本部には連絡したのか?」
「今しがた連絡した。捕獲部隊を編成してくれるそうだが、すぐに動けるとは思えん。まさかここまで最悪の事態になっているとはな……」
「黒斗司令官、カクリの力でヒーローの輸送は出来ないんですか?」
「無理だ、彼女の能力は個人領域以外の世界展開を持つ者を通さない」
今までヒーローが遅れてきたのもそういう理由か、と納得する。当分二人でヒーローを相手取るしかないのは間違いないらしい。
「最悪にもほどがあるぞ」
救援はありがたいが、蘭華を危険に晒す真似はできないと、真剣な顔つきになる飛彩。どちらかがこの状態を伝えなければならないなら、殿を務めようと装備を完全に装着する。
「なるほどなるほど、本部はそう動きますか」
その言葉と同時に振り下ろされる手からは惨刑場から放たれる不可視の斬撃、首を落とすギロチンが首めがけて落下していた。
かすかに聞こえる空を裂く音を頼りに、飛彩は蘭華を抱えて二階から飛び降りる。
同時に個人領域を発動し、透明化してその場から離れた。
「もう捕獲用のヒーローが編成されたって?」
事実上の最後通告を知ってもなお、余裕そうな刑。
想定出来たはずなのに、対策をしている様子の見えない刑に全員が怪しんだ。奥の手が隠されているかのような不安感が拭えない。
「あっははっ。流石にやり過ぎたかぁ。今回の憂さ晴らしはチャレンジすぎたかな」
そのセリフと同時に急激に広がる刑の展開。それでも攻撃の射程は変わらないのだが、もう一つの広大な領域の範囲には、逃れられない運命がある。
「でも、誰もこの処刑場からは逃れられないよ」
「監獄領域……!」
惨刑場は、射程が凄まじく短い能力であるが、もう一つ広大な範囲が形成される。
それは範囲外への逃走は不可という、処刑場からの脱獄囚は逃さないと言ったような地獄の領域。
灰色がかった世界では、個人領域でも影響を受けてしまう逃走不可の能力に二人は歯噛みした。
「こうなったら仕方ねぇ……蘭華、援護頼む」
「わ、わかった気をつけて」





