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【完結】変身時間のディフェンスフォース 〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜  作者: 半袖高太郎
第1部 3章 〜その男、苦原刑〜

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ヒーロー試験

 部屋を出た飛彩は一人廊下を進みながら、再び沈んでいた。少し年上の女性から応援されただけで心が軽くなった自分を恥じた。


「結局、何も解決してねーしなぁ」


 いくら強くなってもヒーローになれるわけではない。


だが所詮広告塔のヒーローならば、誰でもいいではないか。


強い自分がなってもいいではないか。子供じみた発想が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す。


「俺と、アイツらの違いってなんなんだろーな」


人々に与える安心感もカメラを通して作られた虚構。敵を圧倒する力も世界展開を使った虚構。色んなものが偽物にもかかわらず、そんな偽物の希望になることすら叶わない自分。


 ヒーローと自分の違い、これを真に理解出来ない限り、飛彩はあの日亡くした人類の希望に代われていない。


答えは見つからぬまま、すでに十年は経とうとしている。複雑な感情を抱いたまま、待機室に戻ると小綺麗にまとめられた自分の荷物を見つけた。


「蘭華か……世話焼きやがって」


素早く着替えを済ませていると、一枚の紙切れに気づいた。それはヒーロー試験の推薦書に重なるように仕舞われている。


『土曜のヒーロー試験。忘れないでよね』


ちょうどその時、メイの言葉を思い出した。色んな人が自分を見ている、と。


常に自分と戦ってきた最高の相棒パートナーのことを思い出し、好物のミルクレープでも買って帰ろうと考えるのであった。


「俺とアイツらの違い……間近で見せてもらおうじゃねーか」





 地獄のテスト週間を戦う時以上の気迫で潜り抜けた飛彩は万年補習から初めて抜け出す。担任も泣いて喜ぶほどだった。


 そして、ヒーロー試験当日。ほぼ飛び入り参加に近かった飛彩は受付からも不思議な目で見られたが、レスキューレッドの強い推薦ということでそれもすぐに消えていった。


会場は秘密裏の試験会場としてヒーロー本部が保有している様々なレクリエーションが行える市民センターのような場所だった。到着した途端にかかってきた電話をすぐにとる。


「んだよ熱太かよ」


「今日は試験日だったよな! 頑張れよ! 俺も今、応援にかけつけている!」


「だぁー! 絶対小っ恥ずかしい思いするだけだからやめてくれ!」


「恥ずかしがるな! 応援は素晴らしい力になるぞ!」


「やめろ! 絶対くんな! ……くそ、切りやがった、あの野郎ふざけやがって」


大声で電話しいていたこともあり、白い目で見られた飛彩はそそくさと端の方へと消えた。


 体育館のような場所で周りの受験者をゆっくりと眺める。筋骨隆々とした猛者が多いが、敵になるとは感じていなかった。実戦に出たこともない小物、それが率直な感想である。


「けっ、こんな奴らがヒーローになれるのかよ」


ざわつく会場で、そんな独り言は霞んで消えていく。そこにとうとう試験官が現れた。


「どうもー皆さん、こんにちは。今回の試験官を務める苦原刑にがはらけいです」


「現役ヒーローが試験官!?」


ヒーローの登場はさらに現場をざわつかせた。刑の人となりを知る飛彩だけが苦虫を噛み潰したような表情をする。


「驚くのも無理はないか。まあ、落ち着いて聞いてくれ」


 低いが安心感を与える声。長く伸びた銀髪の髪から覗く眼光はいつもとは違い、柔和な印象を与える。ただ、まるで値踏みをしているかのような雰囲気は隠せていなかったが。


「ヒーローは人手不足だ。そして、より強いヒーローがこの世界には必要でね」


演劇のような身振り手振り。刑のクールなメディア展開との違いに、受験者は皆驚いている。


「僕らのようなヒーローが直接見た方が早い。そういう結論に至りました。まあ、まだ不定期開催だけど、試験官は毎回僕に任されていますので皆さん安心してください」


今までも何度か参加したことのある飛彩はそこまで驚愕はしなかったが、今回はハズレだとため息をつく。


 理にかなっている仕組みだが、今回ばかりは違和感と嫌悪感に付き纏われ続けた。


よりによって何故、奴が試験官なのか、と。


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