幕切れ
片膝を着く形で着陸したレギオン。
数メートルしか浮かんでいなかったにも関わらず、広がった砂煙が、侵略者の質量を物語る。
獅子奮迅の活躍を見せるが飛彩の狙いは、ただ地面に落とすことではない。
永遠に地面に縫い付けることだ。敵の作り出した一瞬の隙を見逃さず、地面に擦れていた翼膜まで駆け抜ける。
だが、レギオンも防戦一方というわけではない。自分の身を焼くことも気にせず足元へ炎のブレスを吹きかけた。
「チィッ!」
突き出すチェーンソーで翼膜を突き抜ける。それが防御壁となり。炎のブレスすらも防ぎきった。
流石に炎のブレスを吐くだけあって、耐火性能が高い。九死に一生を得ても、飛彩は休みもせず次の攻撃を繰り出した。
レギオンは羽を広げ、すかさずブレスを吐こうとするが、もはやそこに飛彩はいない。
「ここだぜっ!」
背中と翼のつなぎ目に突き立てられたチェーンソーが唸り声をあげて回転する。
「高ぇ武器なんざ知ったことか!」
武器も悲鳴をあげ、全体が軋み、限界が近いことを物語っている。
「始末書も! 説教もどうでもいい!」
この勢いなら翼を両断できる。誰しもがそう思った。援護することも忘れて、スポーツの決勝戦を眺めるように呆けてしまった。
「テメェを! 絶対にぶっ殺す!」
『注入!』
両腕に注入されていく薬品に呼応するようにして、回転するチェーンソーの刃は、翼膜を斬り刻んで進んでいく。これ以上近づけばレギオンも迂闊にブレスは吐けない。
「俺が……俺はヒーローだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その時、光の柱が砕け散り、川のように流れていた闇が押し返されていった。守る期限の六分が終わりを告げたのだ。
「最強! 無敵! アイム ア ミスタ〜〜〜〜〜〜〜! ジーニアス!」
「キラキラ未来は私が決める! 聖なる世界へ! ホーリィ〜! フォーチュン!」
三次元的に広がっていくヒーローの世界展開。
ホーリーフォーチュンのファンシーな星空が空に広がり、地面にはジーニアスの戦いやすい開けた空間が作り上げられていく。
重なっている現実世界は一時的に消えたかのように世界展開に重なって消えた。
背後に感じるとてつもなく大きな安心感。その安堵の空気感が飛彩の攻撃は止めた。
ヒーローが出た時点で撤退するのが護利隊のルールではあるが、それに従ったわけではない。先ほどまで一身に戦いを背負っていた飛彩から、期待の視線が移る。
色々と乗っていた「何か」が消えたことを悟った飛彩は、武器を落とし、そのまま力なく落下していく。
今の今まで切り結んでいたレギオンも羽根など気にせず、ヒーローを睨む。
「……は?」
終わったのだ。飛彩の戦いは。出番は。
「何でだよ……何でだよ!」
落ちた地面で痛みも気にせず、戦いを睨んだ。一歩間違えれば踏み殺されるような場所に蘭華が急行する。
「さっきまで、俺を見てたじゃねぇか! 俺に全てを賭けてくれてたじゃねぇか!」
近くにあった石をレギオンに投げつける。とにかく手当たり次第に怒りをぶつけた。
「テメェだって俺を永遠のライバルみてえな眼ぇして睨んでたじゃねーか!」
ヒーローとレギオンの戦いは、飛彩と違い、真っ向勝負でド派手な画面映えするものだ。
カメラの向こうのお茶の間ではさぞ盛り上がっていることだろう。
そう、誰も飛彩の活躍を知らない、見ない、気付かれもしない、感謝もされない。
高揚していた戦意が抜けた後に残った絶望。出口の見えないトンネル。
ヒーローと飛彩は違う、その違いが飛彩自身には全くわかっていない。
戦闘力も引けをとらない自分が、何故敗者のように横たわらなければならないのか。
所詮は一兵卒、認めたくない現実が飛彩に重くのしかかった。
それだけが原因じゃないと分かりつつも、答えは分からない。
飛彩は、これより先のこと、どうやって決着がついたのかを……何も記憶できなかった。
圧倒的な大立ち回りを披露する飛彩では人々に安寧をもたらすことが出来ないのか……?
だがしかし! これからも飛彩の戦いは続きます!
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『次章予告』
ヒーローなしでもカイザー級の巨大怪獣を圧倒していた飛彩だが、ヒーローの登場により裏方へと引き戻される感覚に苦悩する。
自分とヒーローの違いとは何か。
それを知るためにヒーロー試験へと挑むが、試験官はあの男だった……
型破りな試験が行われることになる中、飛彩は無事勝ち抜くことが出来るのか!?
次回!
『『『その男、苦原刑』』』
「守ってやるぜ! ヒーローの変身途中!」





