一騎当千が如く
「手土産無しで下に降りるのも情けねぇからなっ!」
そのままレギオンの胸部へとチェーンソーを突き刺した。深々と突き刺さる刀身は、鱗を突き抜け、肉にまで刺さったことを告げる。
これなら斬れる、と飛彩は直感した。殺せないならば一番ダメージを与える方法に切り替える、と冷静に状況を読んだ。
「引き裂いてやるよぉ!」
肉を断ちながら勢いよく下降していく。
落下のエネルギーを全て斬り裂くことに使用し、さらに自分自身への落下ダメージも最低限に出来るはずだと飛彩は踏んでいた。
未知の痛みに悲痛な叫びをあげるレギオン、その咆哮は攻撃も同然だった。
それでも飛彩は攻撃することしか考えていない。いくら身を捩られようとも、剣を握る手を離すことはない。
「相変わらず無茶苦茶ね……!」
呆れる蘭華と同じ心境の隊員は多い。明らかに常人離れした行動は奇行と見られ、憧れられることはない。
「最大回転だ!」
すでに右足まで大きく斬り裂いている。噴き出す血が消し炭になった森に潤いを与えた。
何が起こっているのか分からない様子のレギオンは異世から出たところから一歩も動けていない。
足止めとしては最高の成績。だが、飛彩はそれで満足する男ではない。
飛彩自身も身を曲げて、レギオンを切り裂きながら回り込んでいく。
カイザー級を相手取る上で、足元にいるのは最大の危険を孕む。
ただの踏みつける行為も圧倒的質量の前に必殺の一撃へと変わる。
にもかかわらず、飛彩に撤退の文字はなかった。レギオンの踵に向かって斬り裂き続ける。
「ここだっ!」
振り抜いた上で一度レギオンから離れる。
すでに落下の勢いは消えており、問題なく地面に着地した。そのまま飛彩は大剣を振り回しながら、右足の踵より上の部分を大きく削ぎ落とした。
たまらずレギオンは右足を上げ、飛彩を潰しにかかる。
「一本じゃ満足出来ねーんだわ!」
そのまま左足目掛けて駆け出す。
レギオンは踏みつけることも叶わず、その場で足踏みしたに過ぎなかった。しかも、それによる風圧で飛彩を加速させてしまう。
敵に送られた塩を使い、退却と同時に左足の踵近くを大きく斬り裂いた。
「グギュウゥゥゥゥゥ?!」
誘導区域を埋め尽くす怪獣の悲鳴。
飛彩が注目を一手に引き受けているが故に被害は今のところ少なく、攻勢であることは間違いなかった。
蘭華も炸裂弾を飛彩が斬り裂いた傷口に撃ち込み、体内から爆発させる。
大きく後退したレギオンは飛彩の逃げる隙を作ってしまった。
「飛彩! もういいわよね?」
「あぁ!?」
「もう! いいわよね!」
凄まじい剣幕、レギオン以上の視線を感じた飛彩は部隊が展開された場所へと走り去る。
他の部隊も援護してくれてはいるが、中々退却しない飛彩を疎ましく思いかけていたようだ。
「さすがです飛彩さん〜、ぱちぱちぱちぃ〜」
「それは結果論だから! 死んじゃったらどうするのよ!」
「うっせーな。お前はオカンか?」
敵の肉を削ぎ落としまくった大剣を地面に突き刺し、一息着く。
「はぁ〜、何分経った?」
「三分よ」
希望の到着はまだまだ遠い。力なき存在が地獄にいるにはあまりにも長い時間である。
敵の状態は視界不良と移動力の低下。悲鳴や怯みはしたものの、息絶えるのには程遠い。
「グオォォォォ……!!!!」
大量にいる兵士の中で飛彩の方向へ潰れた目を向ける。唯一敵と認めた存在だからだろうか。





