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【完結】変身時間のディフェンスフォース 〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜  作者: 半袖高太郎
第1部 2章 〜カイザー級デストラクション〜

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早すぎる再会

 表向きはただのマンション。その実は、護利隊の宿舎となっている。


いくらか寂れているこの寮は、人の入れ替わりが絶えない。数ヶ月生き残っている飛彩と蘭華には晴れて個室が与えられていた。


普段ならまだ起きている時間だが、飛彩はすでにベッドの上にいた。


「新しいヒーローが誕生か……」


寝転がり、月明かりに照らされる飛彩は無気力感に覆われ、帰宅してからずっとこうだ。


「逆立ちしても俺はヒーローになれねぇってのによぉ……」


実戦には自信がある。しかし、それより前の適性検査や適合する世界展開が存在しない、などの理由で落ちている。


黒斗が許可を出してくれるのは現実を見せるためなのかもしれない。


寝転んだままの飛彩はいつしか夢の中で、再び「あの日」へと戻っていく。







「大丈夫か、少年……!」


 今と違って、異世からやってくる敵を誘導できなかった頃。


攻めてきたヴィランが、とある小学校に降り立つという痛ましい事件があった。


「あ、あぁ……」


また、この夢か。飛彩は第三者の視点で夢を見ている。いや、自責の念がそれを見せつけているのかもしれない。


 激しい戦闘が行われた学校は、ほとんどが倒壊していた。


迅速な避難行動で、子供は残っていない、飛彩を庇ったヒーローは、そう聞かされていた。


だが、唯一逃げ遅れた飛彩が、ヴィランと戦うヒーローの運命の別れ道になってしまった。


「運が悪かったな強者よ」


 騎士のような鎧をまとったヴィランの声音には若干の悲しみが混ざっていた。


それはおそらく真剣勝負がこんな決着を迎えてしまったことに対してだろう。


「何を言っている。運が良かった、の間違いだろう?」


放たれた手刀により串刺しになっていたヒーローは不敵に笑っていた。


恐怖もさることながら、飛彩は涙を流せなかった。子供ながら理解していたのだ。


 自分のせいで、一人のヒーローを死なせてしまったことを。


「あ、あの……」


「こんな傷、どうということはないさ。君が無事なら、それで良い」


何が大丈夫なものか、飛彩はそう叫びたかった。


自分の中でほのかに芽生えた感情を押し込め、とにかく謝りたかったが、溢れる想いを具現化することは叶わなかった。


 そのまま飛彩は透明な姿の何かに保護される。


口を抑えられ、喚くことも出来ず、ヒーローの首が刎ねられるのを見ている事しかできなかった。


ヴィランは透明な何かに襲われながら、異世の闇へと消えて行った。


侵略を打ち切るくらいの興醒めしたのだろうか。今となっては何もわからない。




 ただ、この日。世界は『NO.1 ヒーロー』を失った。そして、救われた少年は、秘密裏の組織へと消えていくことになる。


 息を荒くして跳ね起きる飛彩。何度もこの夢に苦しめられている今もぐっしょりと寝汗をかいている。


昔は何度も涙したことから考えれば、少しはマシかと苦笑した。


「また、この夢か」


淡々と呟く割には、人類の希望を死なせた。いや、殺した、と嫌でも自覚させられた。


「……俺はヒーローに、人類の希望にならねぇと……」


自分が希望を奪ったなら、自分がこの身を持って希望になるしかない。これが弱いヒーローを憎み、自分がヒーローとして活躍したい理由。


黄色い声援も、名声も、金も必要ない。奪ってしまった希望になる、飛彩の頭の中にはそれしかなかった。そうでもしないと死んでいったヒーローが報われない。己の弱さに対する復讐が、ずっと続いていた。




 翌日。


「飛彩ー! 学校行くわよー!」という蘭華の声と痛みが無理やり覚醒を促した。


「あいててててて!」


寝ている飛彩の足を掴みベットから引きずり下ろす蘭華。幼馴染にが起こしにくる行為にしてはだいぶ荒っぽい。そのおかげが先日の悪夢が少し薄れた。


「ったく、勝手に入ってくんなよ」


「だったら窓は閉めておきなさい。隣の部屋なんだから簡単に入れるのよ?」


「忍者かよ、いや、泥棒の方が良いか……」


「どーでもいいから早く着替えてよね!」


可愛らしい幼馴染であることは間違いないが、残念なことに家事的な女子力ゼロの蘭華は護利隊から支給される携帯食料レーションを飛彩へと投げつける。


「今日はテストなんだから! さっさとするっ」


背面キャッチを華麗に披露するところだったが、テストという単語に全ての動きが止まる。


「マジか」


「だから遅れるわけにはいかないの!」


慌ただしく動き回る蘭華。女子力があるわけではないのだが、不器用なりに家を片付ける。


「はぁー、緊急出動にでもならねーかなぁ」


思わず漏れ出た呟きは、蘭華の不謹慎だというツッコミでかき消された。


 

 都立勇傑高等学校。ここはアスリートの育成や戦闘技術を高める武闘派の高校である。


そして、飛彩たちの母校でもあった。寮から歩いて十分程度の好立地な事もあり、護利隊やヒーロー本部の関係者が多い。というかズブズブに繋がっている。


「おい、熱太先輩のバトル見たか?」


「エレナ先輩が可愛すぎる。マジでやばい」


「それよりもホーリーフォーチュン見たよな?」


「ああ! 俺なんて戦闘シーンの切り抜き動画作ってるぜ!」


「めっちゃいいじゃん!」


登校時、そんな級友の姿を見ながら、飛彩はため息ばかりをつく。ヒーローの戦闘は基本的に生放送で全国に流されるのだ。


放送される何よりの理由はスポンサーの意向やカネを稼ぐためにある。


ヒーローが使う武器をおもちゃにして売る。などのビジネスのために勝ち方を限定することもあるくらいだ。個人領域の透明化能力などはこのような背景から生まれている。


「どいつもこいつもレスキューワールドやホーリーフォーチュンの話ばっかりだな。テスト前だってのに余裕かよ」


「飛彩だって、昔はそうだったでしょ?」


「が、ガキの頃の話は卑怯だぞっ」


美少女に連れられる形での登校は、やはり羨望の眼差しを浴びてしまう。濡羽色の髪をなびかせる蘭華は間違いなくクラスの人気者だった。逆に捻くれている飛彩は蘭華以外の友達がほとんど存在しない。


「お二人とも、よろしいかしら?」


 昇降口で、声をかけられることなど滅多にない二人は肩を跳ねさせる。待ち伏せをしていた金髪の少女を見るやいなや、蘭華は目が飛び出す勢いだった。


「はじめまして。本日転校してきましたホリィ・センテイアと申します。お見知り置きを」


ヒーロー関係者が集められる学校ゆえ、遅かれ早かれこうなるだろうとは思っていた蘭華だが、ここまで早いとは思っておらず、悪いこともしていないのに目が泳ぐ。


あまりにも早い邂逅に驚きが隠しきれなかった。


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