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【完結】変身時間のディフェンスフォース 〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜  作者: 半袖高太郎
第2部 2章 〜舞え、悪の蝶〜

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不測の事態

 死の象徴とも言えるヴィランの接近に翔香は恐怖することはなかった。


それよりも飛彩の負傷の方が翔香の心を恐怖で縛っている。


 また、自分のせいで誰かが傷ついているという事実に意志が揺らぎ、展開の波長が熱太たちとずれていく。


「翔香! おい! しっかりしろ!」


それは今までにない事態だった。


熱太たちにも実感として現れる『変身時間の延長』である。


精神状態が不安定な翔香に合わせて、所要時間がどんどん増えているのだ。


その異変を感じ取ったヒーロー本部はヒーローと外界の景色を遮断しようとするが、どうしてもアクセスすることは叶わなかった。


「翔香ちゃん! 落ち着いて!」


「余剰な時間は元の精神状態になれば戻ります! 私たちはすぐに変身出来るんですよ!」


仲間たちの声が遠く、唇が怖れで震える。


何故、こんなものを見せられなければならないのか、と翔香の心はいたずらに心的外傷をいじくり回された気分になる。


「やっぱり耐えられないよ……ヒーローって誰かを守るためにいるんでしょ? なのに、何で守られてるのさ……」


とうとう涙が頬を伝う。ヒーローが変身するにはやはり犠牲が必要で、それからは逃れられないと感じて。



「待てよ」



 その一言に翔香も再び前を向き、ミューパは悠々と振り返った。


「俺はまだ、負けてねぇ」


鱗粉によって麻痺していた飛彩は震える脚に鞭を打って立ち上がる。


そのまま四肢へ同時にインジェクターを撃ち込み、無理やり身体を目覚めさせる。


「まだまだ俺と遊んでもらうぜ!」


「私の麻痺粉を受けて動くとは、興味深い」


意地でも光の柱には手を出させない、バイザーで覆われているはずの瞳から鋭い気迫を感じたミューパは自分の格付けを訂正する。


「君も、前菜くらいにはなりそうだっ!」


「もたれても知らねぇぜ!」


 インジェクターの効果で強化された両足は、道路にクレーターを作りながら飛彩を跳躍させた。


「おらあぁぁぁぁ!」


飛び蹴りを簡単に片翼で防いだミューパは、後ろに引いていた右腕を鋭い刺突のように繰り出す。


それを読んでいた飛彩は蹴り込んでいた足で羽を蹴り上がり、後方宙返りを披露する。


しかも敵の突き出した右腕に着地した飛彩は、その場で背を向けながら左踵をミューパの顔面へ炸裂させる。


「ぐっ!?」


「まだまだぁ!」


蹴りに続いてミューパの背後をとった飛彩は今度こそ羽根へ閃斬を与える。


金属と金属が勢いよく衝突する甲高い音が空間を劈いた。


 麻痺している状態とは思えない機敏な動きに、熱太たちは瞠目した。


さらに翔香は何が飛彩を駆り立てているのか分からず、ただただ狼狽える。


早く逃げて他の部隊に任せればいいじゃないか、など色々な思考が脳内を飛び交う。


隠雅かくれが! 早く逃げなって!」


やっとの思いで飛び出した言葉に飛彩は拒絶を突きつけるように追撃を開始した。


ミューパの両手から放たれる鋭い手刀と、誘い込むように避けた場所へと飛び出す硬質化した口吻。


計三本の槍のような連続攻撃に対し、飛彩は二本の小太刀を使って真っ向勝負に打って出ていた。


 あまりにも速い攻撃のやりとりに、拳と武器が交差する音が重なり合い、一つの音のようにも聞こえてしまうほどだ。


「はっはは……貴方を侮っていましたよ。世界展開リアライズを使わずにここまでやれる存在がいたなんて」


「テメーと同じランクEならぶっ潰したことがあるんでなぁ!」


「おやおや」


その言葉の終わりと共に、兜の中から飛び出してきた口吻が飛彩の頬を掠めた。


そこで初めて飛彩は攻撃よりも回避を選択し、右へ跳ぼうとする。だが、しかし。

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