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シンデレラが被るのは、灰じゃない

「はい」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

弁護士は、あんぐりと口を開けた。顎が取れそうだ。


「え?」


私が財閥令嬢で。その財閥が潰れたってことは、私は借金を背負うことになる。

それは、当たり前のこと。

頭の整理整頓は、終わったのだ。


「・・・・・・・」

「・・・・・・・・」


何故か、きょとん、とした顔の弁護士と顔を合わせる。

えっと、私の顔に何か付いてますか?


じっと、信じられないような顔をしてこっちを見ている弁護士。

そんな顔しないでください。


私は、弁護士がそんな顔をしているのは、私が話をちゃんと理解していない、と思っているからだろうと思った。


ちゃんと理解しています!


私が財閥令嬢。それも十年以上行方不明だった。

それでそのーーーー財閥が最近破綻したんですよね?

だから、借金を背負うって話。

私は自分の本当の家族を助けたいと思っているから、借金を背負ってもいいです。

あなたは、その為に来たんですよね?


その事を、弁護士に説明する。

途中、本当の家族が借金取りに怯える姿を勝手に想像してしまい、顔も見た事ないけれど・・・・心配で少し声が震えた。

馬鹿!しっかりしろっ、本当に泣きたいのは、私じゃなくて本当の家族の方だ。

自分を叱咤し、きちんと最後まで話す。


「それに、弁護士さん、さっきは借金を娘に背負わせる様な親は碌でもないなんて言っていたけど、私はそうは思いません。」


十年以上も前にいなくなった娘を探してくれるような家族だ。


普通だったら、十年の間には探すのを諦めてしまうと思う。


そこまで言い切って、言葉にならなかった。

なんだかごめんなさい。

普段あまり口にする言葉が多い方じゃないから、うまく伝えられたか、とても不安だ。


弁護士は、私をじっと見ている。


その顔には、あまりにも表情が浮かんでいなくて、無言だ。

テッシュを・・・・そばにあったティッシュで手早く顔 を拭く。

こんな顔を晒し続けるわけにはいかない。

泣くなんて、弱い女のする事だ、職場でそんな事をしてはいけないのだ。

社畜の異名を持つお母さん(彩子個人)談だ。しっかりしろ、私!!


「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」


私はもう話す事が無くて、じっと弁護士の目を見つめる。

弁護士は、じっと私を見返してくる。表情がない。


うう、恥ずかしい。

泣いてしまって泣き顔な事もそうだが。

よく見ると、この人とっても綺麗な顔をしている事を再確認。


こんなに見つめられると、心の中まで全部見透かされてしまいそうだ。


今朝の夢を思い出した。何故こんな時に思い出す。

あんなメイドと執事の夢を見るほどに、自分が財閥令嬢だという事に浮かれていた事がばれてしまいそう・・・・・そんな夢を見たなんて・・・恥ずかしい・・・・・バレたくない!!秘密にしておきたい!!


絶対に秘密!!黙秘、黙秘します。


そんなに見ないでください・・・・・・


背中に変な汗が流れ出す。


こんなの拷問だ。

沈黙の圧力に負けそうだ。


永遠に続くかと思われた沈黙の拷問。


「・・・・・・・・・・・・びっくりした。何も知らないんだな・・・・」

弁護士は言った。何故か魂まで抜けてしまそうな声だった。


どうやら、私の秘密は弁護士にはバレなかったようだ。


良かった・・・・・・。


「あんな男の子どもだ、どうにでもなれ、と思っていたが・・・・・・・」


ふっ、と弁護士が笑った。

そして、何かを決意したように。


「気が変わった。」

そう呟いた。


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