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シンデレラと魔法使いの知らせ

勉強に集中していると、何も考えずに済む。

それでいて、何も解決していなかった。


私って、バカ・・・・・。


放課後になって。

来栖や湊と別れて家路に急ぐ。

湊都は塾。来栖の家にも家庭教師が来るらしい。


私はーーーーー私の家には弁護士が来る。

昨日の夜にした電話でそう言われた。


バカ。バカ。大バカだ。


湊都と来栖は友達だ。友達に話せば、楽に慣れたかもしれないのに。

話して、冗談だろって言って笑って欲しかった。

家に帰りたくない。心に重石がのし掛かっているみたいだ。


でも。

ちゃんと向き合わないといけない。


私がーーーーーそうだとか。

家であるアパートを見上げた。

その二階。

私の家の前に、あの弁護士が立っていた。

どうやら、待たせてしまっていたみたいだ。

彩子さんはもう仕事に行ってしまったらしい。


「すみません!!」

声を上げると、こちらに気付いた弁護士が手を振った。


「いえ、こちらこそ」

弁護士の方は、怒っていないみたいだ。

たくさんの資料を持っている。


そして、ひとりだ。

ーーーーーーー良かった。

リムジンとか、大きな車で来られたらと思うと気が気じゃなかった。

ご近所で有名になってしまう・・・・あれは夢だった・・・・。


ちょっと自分の殻に閉じこもりかけてーーーーー自分を叱咤する。

今はそれどころじゃない!!アパートの階段を急いで上がる。


「すみません、お待たせしてしまって!!」

「いえ、大丈夫ですよ」

時計を確認しながら言う。ああ、すみません。


ひそひそ、近所のおばさんの声がする。原因は?

「・・・・・・」

目の前に立つ弁護士。

昨日は衝撃的すぎて忘れてしまっていたが、この男、なかなかに美丈夫である。

やはり、財閥付きの弁護士は見た目も良くないといけないのか。

ひそひそ。

ああっ、近所のおばさんがこっちに向かってくるかも。


「ど、どうぞ、中へ」

「失礼します」


中に入れてしまってから気づいた。

家の中に入れた方がまずかったのでは無いだろうか。

相手は弁護士。彩子さんの再婚相手では無い。

だとすれば母子家庭の私たちの家に、立たなくてもいい噂が立つのでは無いか。


「・・・・・・・」

後の祭り・・・・手遅れ・・・。

今更追い出す訳にはいかないし、昨日訪ねて来た時にも追い出すような真似をしている。そんなことは出来ない。

諦めて、飲み物を用意する事から始めた。

来る事は分かっていたので、帰り道で洋菓子店に寄って来た。

イチゴのショートケーキ。多分、嫌いじゃないだろう。

そのせいで遅くなってしまった。・・・・バカ・・・私の馬鹿。


弁護士は、幾つか資料をテーブルに広げていた。

狭い六畳一間に弁護士がいるのは、ものすごい違和感がある。


「どうぞ、」

ショートケーキとコーヒー。

昨日は緑茶に和菓子だったので、今日は洋菓子。


「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

き、気まずい。


だけど


聞きたい事はたくさんある。でも、どう話していいのか、分からない。

ゆ、勇気を出せ、私っ。


「あ、あのっ」

「・・・・・?」


「わ、」

言葉が詰まる。しっかり、しろ!


「私が、財閥の、ご令嬢っていうのは、本当なんですか?」


う、自分で言うの・・・・・・。

ダメージがすごい。精神的に。


「はい」


普通に肯定された!

ええ、はい。そうくる、そうくるよね。立場上そうとしか言えないよね・・・

でも、こう、本当に当たり前みたいに肯定されると、辛い。


でも、ここで挫けるな、私。


「そう、ですか・・・・・あのっ、どうして今になって?」


どうして、私は今になるまで見つからなかったのだろうか。

十年以上も前から行方不明だったのか。

母・彩子の話では、私は四歳の時から行方不明になっている。

探すとしても、その当時に探すだろう。

そして、見つかるとしてもその当時に見つかっても良かったはずだ。

彩子さんには、逃げるとか隠れる気は無いみたいだったし。


「それは・・・・・・」


弁護士が言った。言いづらそうだ。

たっぷりと、間をとって弁護士は。


「・・・・・・・・・・・それは、財閥が破綻したからです。」


弁護士は、すごく、簡潔に、その理由を告げた。


え?


財閥、


破綻?


破綻って、


倒産。


破産?



え?



ーーーーーー真っ白に、固まった私。


「・・・・・・日を改めますか?」


空気を読んだ弁護士。


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