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シンデレラの日常

学校に着くと、仲良くしている里中湊都さとなかみなとが飛びついて来た。

「葵~~~~~~!」

「おはよう。」

抱擁に抱擁で返すと湊都は笑った。なんだか落ち着く。


「葵、昨日はどうだった?」


えっ。

もしかして、湊都、知ってるの?


「あれ~~~~~~?どうした、葵。なんか顔色悪いけど?」


顔に出ているらしい。

どうして、知ってーーーーもしかして、お母さんから?

湊都と母は仲が良いからーーーー疑問を口にする前に。


「ーーーーーもしかして、反対された?進路。」


湊都の言葉で、思い出した。


「えっ、あっ」


「もしかして、忘れてた?しっかり者の葵が珍しい・・・・」


昨日は、それどころじゃ無かった・・・・・。

それに、今日の朝も。ーーーーーうん、忘れよう。


「おはよう、里中、小鳥遊。」


「おはよう」「おはよー、ユウ」


クラスメイトの来栖祐也くるすゆうや

湊と同じで私と仲良くしてくれる友達だ。

このクラスで、というか学年で友達と言えるのはこの三人だけだ。


「聞いてよー、ユウ、葵が進路の確認忘れたんだってさ」

「えっ、小鳥遊が?珍しい。」


びっくりした顔でこっちをみる。


「うん。」

そんなに珍しい?


「うん、うん。葵ってすっーごーく、しっかりしてるじゃん、珍しいよ。しっかりのレベルは何ていうか神様?」


神様レベル・・・・・、そんなに・・・・・。

じゃあ、昨日の出来事は神様さえ崩れる出来事って事?

・・・・確かに・・・・。普通の人なら経験する事ないだろう。


「そうだよな。まあ、お前ならともかく。」


来栖まで・・・・。私ってそんなイメージだったんだ・・・・

友達の口から知らされる事実に驚愕だ。


「それってどうゆう意味?」と湊都が返すと、二人はじゃれあっていた。

二人とも、仲がいい。


「・・・・・まぁ、小鳥遊。進路の事だし、頑張れよ」

「うん、ありがとう」


頑張れよって意味分からない~~~と湊は笑っていた。

あ、来栖が怒っている。

普段穏やかな来栖がこうやって口喧嘩をするのは湊都だけだ。

いつもの口喧嘩。本当に二人は仲がいいな。


・・・・・・進路、か。

ーーーーそうだった。

昨日は、私の高校進学のことについて話があると言って、お母さんに帰ってくるように言ったんだった。

次に、お母さんが家に帰ってくるのは、いつの事になるのか。

小さい時からそうだった。

彩子さんは、仕事で家を空けている事が多い。

というか、帰ってこれない。社畜だから。

システムエンジニアは、大変みたいだ。

私が家を出る時には、まだいたみたい。朝ごはん、作っておいた。


「葵は私と一緒の高校に行くのよね~~~~~っ!!」

ぎゅぅ~~~~と口喧嘩で不利になったのか湊都が抱きついてきた。

「うん、一緒の高校に行こう?」

そう言うと、湊都は笑った。来栖はちょっと不機嫌になった。


キーンコーンカンコーン、キンコンカンコン♩


鐘がなった。授業が始まる。

もう、中学三年の冬。今の時期は進路の最終確認。

そして受験の追い込みで、授業はほとんどなく、自習時間が主。

今日も一限から、自習だった。


私は、県内の進学校に進む予定。

湊都や来栖も、同じ学校に希望している。

幸いな事に、成績は悪くない。このまま行けば、合格できるだろう。

それを言ったら二人もだけど。


「じゃあ、やろっか。」

湊都が当然のように席をくっつけて、勉強する。隣には来栖、そして私。

このクラスの中でも進学校に希望しているのは、この三人だけだ。

私たちの進学する高校はレベルが高い方で、受験問題の難易度から自然とこの形が出来上がる。


ーーーーーーー頑張ろう。


一限目から三限目の自習が終わると、次は調理実習だった。

受験が迫っているせいで、クラスの大半は乗り気じゃないみたいだけど、

たまにはこういう息抜きも必要だよね。


「葵の料理、楽しみだな~~~~~」

私と当然のように同じ班の湊都。

「お前と違ってな」

湊都はあまり料理が得意じゃない。来栖は文字通り何度か死にかけている。

また言い争いが始まった。

湊都は、来栖の足を踏んだ。

「痛っ!!お前っ」

「あはは、何その、クマのプリントエプロン、だっさっ、笑っちゃう~~~~~」

「お前のそのフリルエプロンもな」

湊都のエプロンもすごい。何ていうかフリフリが多用されていて、メイドさんのエプロンみたいだ-----「メイド」その単語がグサッと心を抉った。


「葵は・・・・」

湊都が、私の姿を見た。


「「・・・・・・・・」」


「どうかした?」

「・・・・個性的ね、」

「何処で売ってるんだ、ソレ」


「お母さんから貰ったの、誕生日プレゼント。」


「葵ってなんでも出来ちゃうのに、こういうところ、残念だよね」

「言うな、葵の美点だろ、何でもかんでも受け入れてしまうのは・・・」


「でも、これは・・・・さすがに拒否すべきだと思うよ・・・」


「褒められてる?貶されてる?」


「どっちも」

「そうだな」

ふたりとも脱力している。


「・・・・・?」

とにかく喧嘩が止まってよかった。

このふたりといる時間が長い私はそうでもないけれど、周りから見るとその喧嘩は怖いらしいから。

調理実習で組んでるのは私たち三人の他に二人いる。

こちらを伺っていた二人は、ほっと胸をなでおろした。


そうだよね、クラスの二人がケンカしてたら怖いもんね。

クラスメイトには、私、湊都、来栖でひとつのグループとして見られているらしい。

でも実際。

湊都と来栖の幼馴染み組に私が面倒を見てもらっているという感じだ。

私はあんまり喋る方ではないし、女子のグループに入るのは少しハードルが高い。

そんな私を見かねて、二人が声をかけてくれたのだ。


そんな二人の為に、私も何かしたい。

幸いな事に、家にいる事の少ない彩子さんの代わりに、家の事をやってきたから、料理を作るのにも慣れている。さぁ、どんと来い、調理実習!!


「よーし」

頑張ろう!


調理実習の課題は、野菜炒めにお味噌汁、ご飯。簡単な煮物。

「わっ、すごい!!これって飾り切りっていうんでしょ?」

出来上がった物の中で、湊都が指差したのは、人参の飾り切り・お花型。

湊都が喜ぶだろうなーと思ってやってみたのだ。

予想通り。ありがとう、嬉しい!

「へぇ、流石は、葵。」

来栖にもそう言ってもらえた。

来栖は何でも器用にやる天才肌だから、こういったものを見せる時には緊張するのだ。

褒めてもらえるなんて・・・・

「うん、水沢さんたちにも手伝って貰っちゃったんだけどね・・・」

手柄を独り占めはいけない。ちゃんと自己申告する。


調理実習の為に、私たち三人組の中に入って、料理をしていた二人組の女の子。

水沢さんと、富岡さん。このふたりは来栖を憧れとして見ているらしい。


来栖は、スポーツ万能、成績もトップクラス、顔もいい。

かっこいいと評判の、来栖三兄弟の二番目。

よく他のクラスの女子たちからデートに誘われているのを目にする。

それに、性格も優しい。私はよく困った時に助けてもらう事が多い。

これじゃあ、モテるのも納得だ。


でも、普通に話してみると、本当に気さく。

話しかけて無視される事なんて無いし、いつ話しかけても嬉しそうに返事してくれる。

憧れの人というよりも身近で、水沢さんたちもすぐに仲良くなれると思うんだけどな。


「水沢さんは、料理得意なの?」

来栖は、水沢さんに話しかけていた。


水沢さん、嬉しそう。


「・・・・・・・」

その間に、湊都や富岡さんと協力してみんなの分の料理を並べる。

料理と家事は、手順とスキマ時間の有効活用が大切。

それに、水沢さんはこの料理実習ですごく頑張っていた。

「来栖、水沢さん、出来たよー」

「あっ、すみません小鳥遊さん、手伝えば良かったですよね・・・・」

「そんなっ、水沢さんのお陰で美味しく出来たんだから!」


「いえっ、そんな・・・・」

照れる水沢さん、かわいい。


「・・・・・・」

「・・・・・・・」

来栖と水沢さんは、隣の席。

その向かいに私は湊都と、富岡さんと座る。


二人が仲良くなるといいな。


ふと隣を見ると、湊都がニヤニヤと笑っていた。


・・・・・皆とがそんな笑い方をする時は大体、来栖をからかう時だ。

湊都の視線の先には、来栖。


湊都が声をかける前に。

「来栖、全然食べてないみたいだけど、大丈夫?」

「えっ」

びっくりしたようにこっちを見た。

「あ、ごめんなさい。全然食べてないような気がして。」

さっきから来栖のご飯とか、おかずが全然減っていない。


「はぁ、ユウは人参が嫌いなのよ。」

湊都が言った。


そうなの?初めて知った。

普段、そんなことは無いような。


「いや、食べられるんだ・・・・けど、やっぱり苦手で・・・・・細かく刻まれてるのとか、チャーハンとか、何かと一緒だったら食べられるんだけどさ、こんな大きかったら。ちょっと。」

煮物の人参の飾り切り。

結構な大きさがあり、人参だけの味は確実だ。

「そうなんだ・・・・」

よく見ると、来栖のお皿には人参ばっかりが残っている。

飾り切りとかやらずに、細かく切ったほうが良かっただろうか。


「ごめんね・・・・」


「小鳥遊が謝ることじゃ無いし、気にするなって」

そう言って、飾り切りをひとつ口に入れる。

辛そうだ。


チッ、と舌打ちが聞こえた。


「・・・・・湊都?」


「葵が作ってくれてるんだから、四の五の言わずに食べろよ」

そう言って、来栖の口に人参を突っ込んだ。

幼なじみならではの暴挙だ。


なおも人参を口の中に突っ込もうとしている湊都。

苦しそうな来栖。このままだと吐きそうだ。


「待って、待って、湊都!!」

「好き嫌いするほうが悪いわ。」


湊都は、にべもない。

湊都を止めている間に、来栖はなんとか飲み込んだみたいだ。

慌ててお茶を差し出す。

そして、背中をさする。スリスリ・・・・・大丈夫?


こくりこくり。来栖は頷いた。

顔が赤いけど、大丈夫?


もっとよくちゃんと見ようと、顔を近づけると来栖は飛び上がった。

椅子が倒れる。

「だ、大丈夫?」

「だ、大丈夫だから!顔近いって!!」

椅子を直しながら言う来栖。

「・・・・う、うん」

そんなに必死に肯定されると・・・・大丈夫・・・・なのかな?


「馬鹿じゃないの」湊都が呟く。


湊都に注意して、席に座った。

湊都が人参を食べさせてほしいと言うので、口に入れてあげた。

「あーん」は恥ずかしかったけど、湊都が嬉しそうだったので良かった。

「・・・・・・」来栖が形容し難い顔をしてこっちを見ていた。

・・・・呆れられたかな?


そのあとの授業は自習。湊都に教えてもらう。

私は、国語の読解が苦手で、点数が伸びないのだ。

国語が得意な湊都に感謝。

ーーーーーーー受験までもう少し、頑張ろう。


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