逃げた先にあったもの
「行こうか」と手を引かれて、成績順位表のあった場所から本館を抜け、分館を抜け、どこだか分からない場所を、彼についていく。
ここから離れられるなら、願ったり叶ったりだ。
さっきの、女子たちの殺気だった目。男子たちの嫉妬の目。穂花のびっくりした顔が次々と浮かんでくる。
ど、どうしよう。
もし、私がそのままあの場にいたとして、満足のいく説明できる気がしなくて、手を引かれたまま、ついていくことにした。
ついてくるなとも言われていないし、だったらついていくしかないじゃないかっ。
・・・・でも、もういいよ、ね?
何も言わずに、どんどん人気のない場所へ進んでいく背中。
もう手は離れている。立ち止まって、方向転換する。
「どこに行くの?」
「・・・・・」
ひいっ。声は出さなかった。学習したんだ。
嫌な予感がする。すっごく嫌な予感がする。動物的勘がチリチリと警鐘を鳴らしている。
コツ、近づいてくる足音がした。
その分、後ろに下がる。
「・・・・・小鳥遊さん、君、見てたよね?」
何を?
ーーーー女と抱き合っていた姿が、すぐに頭に浮かんだ。
顔に出ていたらしい。心得たように彼は微笑んだ。
しまった、今更、誤魔化すことは出来ない。それが分かった。
「・・・・やっぱり。ごめんね、小鳥遊さん、僕ーーー苦手みたいだ」
「・・・・」
にっこり、と微笑んだ。何だろう、この背筋を這い上がる悪寒。
もしかしなくても、脅されてる?
「俺には好きな人がいるんだ」
「へひっ!?」
いきなり何の話!?
その言葉は声にならず、奇声になった。
話が見えない・・・私が話を聞く体勢になったのが分かったのか、話し始めた。
「小鳥遊さん、政略結婚って知ってる?」
セイリャク、結婚。
知ってる、けど・・・でも現代に存在するの・・・?
そんな疑問が浮かんだが、彼は私の疑問を必要としていないようだった。
「僕には好きな人がいる、僕は彼女が好きなんだ・・・・」
纏っている雰囲気が、突然変わった。目が虚ろだ。狂気じみている。
なに、この人・・・怖い、この人怖い!
どうしよう?どうやって逃げよう、どう逃げたらいいの?
逃げる方法を、考える。ああ、でも足が早そうだ、逃げ切れるだろうか・・・
「ーーーーーーい?」
「は、はいっ!」
「ありがとう、小鳥遊さんなら、受けてくれると思ってたよ」
「・・・・ 今なんて・・・言った、んですか?」
聞いてなかった。彼は嬉しそうに答えた。
「僕の、偽の恋人になってくれるんだよね、ありがとう、小鳥遊さん」
え?




