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逃げられない運命に

一位:小鳥遊葵。


目が落ちた。


え?


嘘。


一位、小鳥遊葵。

どうしよう。私の名前の上に、一位という文字が見える。

どうしよう、疲れてるのかな?

確かに、連日の勉強とバイトで疲れてはいた。うん、疲れてるんだ、私は。


逃げるべし。

朱青藍に来て鍛え上げられた危機察知能力が早くも警報を鳴らしている。

「小鳥遊葵って、誰!?」誰かの叫びが聞こえた。ひいっ、殺意を感じる。

いや、これは間違いない、殺気だ。周りはみんな殺気立っている。

小鳥遊葵、と言う名の下手人探しをしている。ここで私の名前が小鳥遊葵だと知られてしまえば、ゲームオーバー間違いなし。私、生きて帰れない。


「あなた、小鳥遊葵って誰か知らない?」


ひいっ!?


「・・・・いや、知らないわよね、ごめんなさい」


何という上から目線。

私に尋ねた縦ロールのお嬢様。

その後ろ姿から、目が離せない・・・。

ド、ド、ド、ド。

心臓が、恐ろしいリズムを刻み始めている。

今の・・・に、逃げよう、逃げよう、ここは速やかに逃げよう。

この場にいて、いいことなんか何もない。


ーーーーそんな事は、分かっていたのに。

逃げられない瞬間っていうのは確かにある。


あの時の私は、自分の名前を見る事に精一杯で。

周りの事が全然見えていなかった。だからだろう。

モーゼが海を割る如く、自分の周りに人混みがなくなった事にも気づかなかったのだから。

その時の私は、


「お前、さっきの・・・」


一位、小鳥遊葵。


あれ?私の隣に、もう一つ、一位がある。


同率一位、桜庭祐翔。


あ。私、一人じゃないんだ・・・良かった、良かった・・・


「さくらば、ゆうと・・・・」

誰なんだろう?


「さくらば・・・・」


思い出せない・・・どこかで聞いた事があるような、ないような。

もしかして、私と同じ外部生?

内部生ならともかく。

もしも。もしも、同じ外部生だとしたら、仲良くなれるかもしれない。

殺気だった人達の殺気を、一緒に浴びる同志が出来るかもしれない。


「なに?」


ゾッ!

突然、耳もとで声がした。吐息が首筋にかかる。


「ぎ、っきゃっ!?」


振り返ると、唇が今にも触れそうな距離に、誰かいた。

黒い影。


「ひっいっ」


なんとかその場から離れようと、咄嗟に、身体は動いた。

でも、背中から何かに押さえつけられていて逃げる事ができない。


「ぷ、くくっ、面白い反応、何やってんの?」


後ろから、抱きしめられている?


何故!?

なに!?

突然!?


抱きしめる力自体は強くないが、突然の事すぎて身体が動かない。

「きゃああ!!」と、甲高い悲鳴が上がる。


「どうして、逃げたの?」

黒い影は、囁く。

近過ぎて、顔が見えない。


でも。

密着した身体から香る、香水の匂い。ーーーーこれは。

ついさっきのこと、忘れられるはずもない。


う、ぁあ。

この黒い影はーーーー


「はじめまして?ーーー小鳥遊葵さん?」





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