王子様
「彼」に、会った。
最初に感じたのは、純粋な恐怖。
ーーーー私、この人と、会ってはいけなかった。
何故か。そう。直感した。
この人、怖いーーーゾッ、と背筋を這い上がる何か。
それに。
この状況は。この状況はーーーー冷静に考えても覗き以外に何があるんだろう。
覗きじゃない、本当に偶然なんだ、と説明できるだけの説得力が私にない!
結果的には、そうなっている。・・これからどうなるんだろう、地獄に落ちる?
足音が止まった。
呼吸が止まる。
「ひぃっ!」
その人は、朱青藍高校の制服を着ていて、床にへたり込んだ私を見下ろしていた。
ーーー癖のはいった黒髪。
ーーー綺麗な漆黒の色をした形の良いアーモンド型の瞳。
その風貌は、ギリシャ神話に出てくる青年をそのまま実体化したよう。
うわぁ。
・・・・い、イケメンさん、だーーーー。
こんなに綺麗な人、見た事がないーーー。
恐怖と、間の抜けた感想が入り混じる。
「「・・・・」」
ぽかん、とした間が空く。
間が空いている、と思ったのは私だけみたいだ。
彼は、私に聞いてきた。
「・・・・どうしてここにいるの?」
「そそそそそ、それはーーー」
ものすごいスピードで、今の今まで見たーーーいや、見てしまった光景がフラッシュバックする。
私は、保健室の備品をここに取りにきて・・・その、あの、見てしまって・・・・
ぼんっ、と一気に顔に血がのぼる。
その反応で、ばれたのだろう。
ふぅ、というため息。その反応。ああ、もうだめだ・・・
髪をくしゃくしゃと掻き揚げ、私を見る。
気まずい・・・。
静寂も気まずいけど、この存在と一緒にいるのが一番気まずい。
なんていうか。
その、エロい・・・というか。なんというか。色気が・・・。
色気がただ漏れだ・・
艶のある黒髪は、なんだか濡れているような気がするし、衣服も乱れている。
はだけたシャツ、そして、そこから覗く鎖骨と、細身ながらもしっかりとした筋肉、白い肌。そこにばっかり目がいく。
「~~~~~~~っ!!」
ど、どうすればいいのっ!?
「あなた、誰?」
その質問、一番して欲しくなかった。
「祐翔!」
第三者の声が、そこに割り込んだ。




