シンデレラと化粧
突然だけど。
朱青藍高校では、別に化粧は禁止されていない。
普通の高校では、化粧禁止が原則だけどこの高校では違う。
なんでも「生徒の社交性を磨く為」だとか何とか。
意味が分からなかったけど、言われてみれば、朱青藍高校の女子生徒は化粧をしている子が大半で。
ーーー特に内部生は化粧をしている子が多い。
初めてそれに、気づいた時は衝撃だった。
ーーーみんな、高校生に見えない・・・大人過ぎる。
私と同じ外部から入ってきた子も、影響されて始めた子も多い。
みんな、そうやって大人の階段を上って行くんだなぁ・・・・
四月の時点では、妖怪や皿屋敷のお岩さんみたいだったメイクの子が、一ヶ月経った今では、本当に別人のようになっている。
多分、男子はそれを詐欺だと言うんだろうな。
ーーーそういう私も、化粧をしている。
毎朝5時起きの三時間化粧だ。その出来はーーー自分で言うのもなんだけど、特殊メイクレベルだと思う。
まず、化粧前と化粧後では人相が違う。
この顔で、指名手配されても、私捕まらない自信がある。
だって、この化粧はーーーー
「・・・・・葵は、さ。メイクとかしないの?」
数少ない友人である穂花が、とても言いずらそうに口を開いた。
昼下がり。私たちは学校の中庭で、お弁当を広げていた。
「葵って、ほら、ちょっと個性的ーーーあ、いやその、化粧映えする顔してるじゃない?」
穂花は、とっても言いずらそうに言葉を続ける。
「ほら、葵の目の所とか。二重にしてみるだけですっごい印象が変わると思うんだ、ここはメイク禁止じゃないんだしーーーーこの、」
毎日5時起きで、二重のまぶたを一重に。
凹凸のある目や鼻のパーツは、ヘラで伸ばしたように平べったく。
唇も、何か筆で書いた感じ。
ーーーーそんな化粧は、例えるとするならば。
「へのへのもへじ」に似てる。
穂花は、私の化粧後の顔の一つ一つを解説してくれた。
ーーーー「へのへのもへじ」顔は、化粧映えする顔なんだ・・・。
「ーーーー唇のところだって、口紅するだけで印象、全然変わるよ?ね、だから、葵、メイク、してみない?」
穂花が期待に満ちた目でこちらを見つめている。
「え、いやっ、えっ、と・・・」
化粧、してるんだけどな。
「えっと、これは・・・・私は・・・」
今まで完璧な化粧をしていると自負していただけに、ショックだ。
化粧、していないように見えるんだ・・・。
「色々ありがとう、穂花。でも私、この顔は化粧しても、そんなに変わらないと思うんだ。だから、その、気持ちだけ受け取っておくね、穂花が私の事を考えてくれて、とっても嬉しい」
それに、これ以上の化粧は、無理だと思う。
今している化粧が結構厚化粧だし・・ファンデーションの層なんかは、特に・・・。
これ以上重ねてしまうと、恐ろしい色になりそうだ。
「でも、でもね、葵。」
穂花は、何事かを呟くと。
「ーーーはっきり言うね、私、葵がブスって言われるのが許せないの!」
「え・・・」
私の化粧は、内部生女子からすこぶる不評だ。
なんでも「ブス」、「視界に入らないで欲しいほど不恰好で不細工」らしい。
うーん、それは・・・私だって鏡を見たとき、あまり無いだなっては思うけどーーーー「子供が落書きしたような顔」とも言われた。・・・実際そうだし・・・私が書いてるし・・・真木さんから教わった「へのへのもへじ化粧」。
そのせいで毎日のように内部生女子からゴミが飛んでくる。
でも、私はそれを甘んじて受けなければいけない立場にいる訳だし・・・。
こんな風に本気で心配してくれている穂花には悪いけど・・・私はこの化粧をやめる訳にはいかない。
これは真木さんとの"契約"に関わる事だから。




