シンデレラは気付かない
茅野奏多は、笑わない。
それが西園寺エミリの答えだった。
笑う事が無い人間なんているはずが無いと思っていた。
だけど、茅野奏多だけは別。彼は絶対に笑わない。
それぐらい、彼は、笑う事が無いーーーーその彼、茅野が笑っていた。
ーーーーえ?
嘘でしょう?
今見た光景が信じられなくて、もう一度、彼を見る。
笑ってる、かすかだけど、笑ってる。
彼は何かを見ている、その視線の先。
そこには、一人の女子生徒。
灰色の制服、ボサボサの三つ編み、眼鏡。
外部生でときたま目にする、身なりを気にしないタイプのガリ勉少女がそこにいた。
その子は、地面を覗き込んだり、窓を覗いたり・・・・くるりとその場で一回転をしてみたり。
ーーーー何しているのかしら?
その動き、その仕草。
とにかく、目立っている。
ーーーー何かの出し物かしら?
「西園寺」
「え?」
我に帰る。
茅野がこちらを見ていた。いつも通りの、冷たい瞳。
そして、差し出される茶封筒。
そう、今日はこれが目的。その為に女子のグループを抜け出してきたのだ。
「確かに、受け取りましたわ」
現皇帝を引きずり下ろす為の資料。
その重みを感じながら、私は茅野を見る。
「何?」
「いえ」
ーーーーー冷たい瞳、でも、さっきはーーーー。
彼女に向けている目はーーーー。
「茅野、あの子、誰ですの?」
「っ!」
聞かなければ良かった、と後悔した。
「君には関係ないよ。ーーーーああ、違った。関係はあるけど、今は知らなくてもいいことだよ」
西園寺エミリは、気付いた。
ーーーー茅野は笑っていないのだと。




