シンデレラは見つからない
「私が、行かないから・・・・こんな事になってるんですよね、なら。私が行けばいい事じゃないんですか?」
人目のない場所。
保健室まで私たちは移動してきていた。
「・・・・・まだそんな事を言っているのか・・・いい加減にして」
茅野は、素っ気無い。
あれから・・・・もう一ヶ月が経った。
一ヶ月も経てば、私も皇帝の恐ろしさやこの学校が、普通の学校とは違うことに気が付く。
一言で言えば、この学校は、狂ってる。
「皇帝」を中心とした階級制度。
容姿、成績、家柄。
全てをランク付けされた完全な管理社会。
この学校において、それは普通の常識よりも優先される秩序だ。
これを破ったものには、重い刑が課せられる。
殴られたり、存在を抹消されたりーーーーといった事だ。
要するに、イジメだ。
イジメというには、壮絶すぎるものだけれど。
私が頬に傷をつけられた事なんて、大した事ないって思える程に。
その全てを命じているのがーーーー「皇帝」だ。
その皇帝から、こんな御触れが出ていた。
『ーーーーー入学式の、外部生代表挨拶の女を探せ』
ーーーーー私、の事である。
「・・・・・はぁ、もうすぐ「革命」が起こるって言ってるでしょ。蒼介も西園寺も馬鹿じゃないし、あいつらが動いてないって事は、今がそのタイミングじゃないって事、だから・・小鳥遊は何もしなくていいから」
でも・・・・。私のせいで・・・・。
「皇帝」の言う事は絶対だ。学校中の皆が、皇帝に従って、新入生代表挨拶をした私を探している。
それも、死に物狂いで。
だから、あんな。
今さっき見た犠牲者を思い出す。
「私」を見つけられない皇帝は苛立っているらしく、皇帝会のメンバーは手当たり次第に有力な情報を集めている。
皇帝の権力はこの学校内では絶対であり、何をしても構わない事を良い事に、暴力、更には恐喝。
あらゆる手段を使って、私を探している。
さっきみたいな小競り合いは日常茶飯事だ。
どうして、皇帝が私に執着しているのか。
ーーーーーーそれは、私と皇帝が兄妹で・・・・つまり、腹違いの兄妹だから。
現皇帝、三原雪景は私の腹違いの兄だ。
でも、血が繋がっているといっても十数年間会っていない、探そうともしていなかった私を彼らが探しているのは、家族だからという理由じゃない。
それは、私がーーーーー「三原財閥」がもう「無い」事を知っているから。
財閥倒産は、実はまだ公にされていない情報・・・・というか、皇帝によって巧妙に隠蔽されている・・・この事が公になれば、皇帝はこの朱青藍高校での全てを失う。
ーーーーーーつまりは、私が「皇帝のアキレス腱」、弱点って事だ。
だから、皇帝は死に物狂いで私の事を探している。
そして、その為に私は朱青藍高校に入学させられたみたいだ。
あんなに必死で受験勉強する必要、無かったんだ・・・・。
ーーーーーーーすべては「皇帝」を確実に失脚させる為に。
なんでこんな回りくどい事をしたのか。
その理由は大きくふたつ。
一つ目は、真木さんと柏木さんが、学園に直接介入する事が出来ないから。
これは、教育に家柄を持ち込まないという朱青藍高校の理念。
実際には形骸化している決まりだがーーーーー朱青藍高校理事長の阿久根家に仕える二人が堂々と破る事は出来ないらしい。
「ーーーーあとは・・・・」
ふたつ目の理由。
はっきり言って、皇帝をその座から引きづり降ろす事は簡単だ。
財閥が倒産した事を公表すればいいだけの事なのだから。
だが。「皇帝」がこの学園で持っている権力は絶大だ。
それは意味を解せば、皇帝の影響力があるという事。
それに、現皇帝の三原雪景は権謀術数に長けーーーー悪巧みをさせれば、右に出る者はいない。
そもそも皇帝の座は、旧家七財閥と呼ばれる家柄の御曹司、もしくはご令嬢から選ばれるもの。
旧家七財閥とは「沢城」「神宮」「千賀」「西園寺」「阿久根」「櫻井」「柳鶴」「日高」。いずれも歴史が古く・・・誰もが知っている大企業や銀行の名前だ。
ちなみに、三原はこの中には含まれていない。
三原は、この旧家七財閥と比べれば、有象無象の成金財閥だ。
だが、以前の皇帝・・・・もちろんこの旧家七財閥の出身の者ーーーは見事に三原雪景の張り巡らせた罠に嵌り・・・・失脚した。
この事から、三原雪景がなんらかの奥の手を持っている事は確実。
この機会に、それも一掃してしまいたいという考えを持っているらしい。
だけど。
もう限界だ。
真木さんからこの事を打ち明けられた時・・・自分の実の兄弟が、こんな事をしていると知った時には、ショックだった。
今すぐにでも、やめさせたいと思った。
実の兄弟を裏切るという罪悪感も確かにあった。
でも、彼らのしている事が正しい事だとは、絶対に思わない。
ーーーー日々、彼らのしている事を見ると、もうそれも限界だった。
「皇帝を失脚させるから、協力、してくれる?」
ーーーーーもちろんです。
「あなたなら、そう言うと思ったわ、その為に入学させたんですもの」
真木さんの言った言葉が蘇る。
私がいる事で、三原側ーーー皇帝会は混乱しているらしい。
その機に乗じて・・・色々と真木さんは探っていて・・・・・・・また、万が一にでも私が裏切る事がないよう見張り役として、茅野さんが付いている。
ーーーーーもう一ヶ月だ。
いつまで待てばいいんだろう、実の兄弟がこれ以上罪を重ねていくのを、自分だけ安全地帯から眺めるなんて。
私を探す為に、関係のない人たちが犠牲になっている、その事実。
ーーーーーもう嫌だ。
私が皇帝会のところに行けば、もう彼らが人に迷惑をかける機会が減るのでは無いだろうか。
馬鹿な考えだって分かってる。
全てを知っている真木さんに任せておけば、丸く収まるのだろう。
この騒動にも目的があるらしい。皇帝支持派から求心力を奪う目的もあるらしい。
「・・・・・でも。」
さっきの女生徒の姿。
「いい加減にしなよ、俺らに任せておいてーーーー「革命」は、もうすぐだから、さ」
茅野さんは、そう言うと保健室の布団の中に潜った。
「革命」
真木さんと、茅野さんが時折、口のする言葉。
これは、皇帝がなんらかの理由で失脚、もしくは譲位する事をあらわす言葉。
この言葉を口にする事は、相当危険なはず・・・・「革命」はもうすぐだって、信じていいのかな?
ーーーーーもうすぐ、一限目が始まる。
茅野さんは、またサボリかな・・・・。
「茅野・・・・行かないの?」
名前を呼ぶと「行かない」と、手を振る。
ちなみに、呼び捨てにしてと言われている。立場的には同じ外部生だからという理由で。
茅野は私の見張り役のはず・・・なのに、茅野は私から目を離すことも多い。
信頼されている様子なんだけど、これでいいのかな。
授業中は何もできないって、分かってるからか。
「あ。それと、今日も完璧だよ、それ」
「あ、ありがとう」
思い出したように、褒められた。
ーーーーー褒められたのは、私の今の格好。
私が今まで見つからない理由でもあって・・・・自分だけ安全地帯にいるって証拠でもある。




