シンデレラの朝は早い
眠たい・・・はず。
まだ夜も明けないうちから、起きて準備をしていたから。
それなのに・・・眠くない・・・・。
昨日真木さんに貰った真新しい制服に腕を通し、学校の隠し部屋から登校する。
時刻は8時30分。出席確認は50分からだから時間的にも余裕がある。
大丈夫。大丈夫、自分を励ましつつ、クラスへ向かう。
昨日、教室に行っていない。
だから、実質今日が初めてのクラスメイトとの顔合わせになる。
緊張、する。
「ねぇ、あの子、右足と左足、一緒に出てるけど、大丈夫かしら?」
ふぎゃっ!?
「・・・・・」
はい、いち、に、いち、に。はい、いち、に、いち、に。
右足、左足、右足、左足。よし。行ける!
どうしよう、昨日の全校生徒前での挨拶よりも緊張する。
ピカピカに磨き上げられたガラスや大理石に自分の姿が映る。
今朝から何度も鏡は見たはずなのに、もう一度確認する。
うん、大丈夫。大丈夫。
ふぅ、と深呼吸。ようやく、クラスの前まで来た。
覚悟は決めてきたはずなのに、いざこうなると緊張する。
そおっ~~~と、扉を開き中に入る。
ぎょっとした顔で、扉近く男子生徒が私を振り返った。
ひゃっ!?
よ、よよよ、予想通り。
予想通りなんだけど、ここまで効果的だとびっくりする。
ご、ごめんなさい、ごめんなさいっ。
無性に謝りたくなるけど、我慢、我慢。
早速、私は席を確認・・見つけることは簡単だった。
入学資料が置かれたままになっていたから。
その後も似たような反応をするクラスメイトたち。
びくっ、ぎょっとした顔でこっちを一度見た後、あとは視界に入れないようにこちらから目をそらす。
「大丈夫よ、気にしてないって顔をして、平然としていなさい!」
真木さんの言葉が蘇る。
うううっ、平然を装ってるけどこの状況は限界かも知れない。
罪悪感が・・・・・
ト、トイレっ!
とりあえず、トイレに行こう!
わぁっと、その時、廊下が騒がしくなった。
え、えっ、何、何なのっ!
席から立とうと中途半端な姿勢で止まった。
まさか、皇帝会?
最悪の可能性が、頭に浮かぶ。
まさか、逃げた私を捕まえに?
「今の皇帝会はしつこいし、ねっちこいし、陰険だし、本当、嫌になっちゃう!」
真木さんの言葉が蘇る。
まさか、まさかね。
でも、大丈夫。
「今」の「私」の姿で、気づく訳がない。
でも、ーーー皇帝会だったら?「私」だって気付かれたら?
開くな、開くな。教室のドア。祈るような気持ちでドアを見つめる。
それは無情にも開いて。
入って来たのはーーーー黒髪に、紫の瞳を持つ美しいーーーあの人。
ーーーーーーさ、沢城さん。
皇帝じゃなかった、良かった。
ほっと胸を撫で下ろすと、
「っ!」
目があった。もしかして、気付かれた?
「・・・・・」
沢城さんは、何事もなく視線を移動させた。
何の反応もなし。驚いた表情、何かに気付いた様子もない。
そのまま、クラスを出て行く。
クラスにいた女子が数名、沢城さんの後を追って行った。
「・・・・・」
良かった。ほっと、胸をなで下ろす。
そうだよ、「今の」この「格好」で、私だって気付くはず無い。




